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三題噺もどき3

朝_低

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくさんじゅうさん。

 


 カーテンを開くと、気持ちのいい青空が広がっていた。


 部屋の空気は冷たくて、ようやく秋が来たのかな、なんて思う。

 朝晩は冷え始めたが、まだ昼間は暑いと思うので何とも言えないのはあるのだけど。

 なんだかんだ言って、冷房もタイマー付きではあるがつけているし……。もう十月だなんて……嘘だと思う。

「……」

 空気の入れ替えでもしようかと、窓を開けようかと思ったが、遠くのほうに入道雲のような大きな雲が見えたのでやめた。

 開けていたことを忘れて、雨が降って部屋の中が濡れたなんてなるのはごめんだ。一昨日あたりから雨が降ったりやんだりしているし、いつ降るかわかんないからな……。

「……」

 今日あたりから晴れると言っていたはずなんだけど……。

 まぁ、予報だし、あの雲が入道雲じゃない、ただの大きな雲かもしれないし。

 何も天気予報士の資格があったり知識があったりするわけじゃないからな。ああだこうだ言うものではないだろう。

「……」

 出来れば雨は降ってほしくないんだが。

 ここ数日、雨が原因かは分からないが……軽度の頭痛が続いていてあまり体調も気力もよろしくない。元々落ち気味だったのが、更に落ち込んでいる。

 月末はまぁ、月のモノがあったりするので仕方ないのはあるんだけど、それを引きずるようにしてこの十月を迎えてしまったものだから、あまりいいスタートではない気がする。

「……」

 窓を叩く雨音とか、好きではあるんだけど。

 いらぬ記憶まで引っ張ってくるときがあるから、一概には言えない。

 働いている頃は、そうでもなかったはずなんだけど。

 考える時間が、考え込んでしまう時間ができてしまったのがいけないんだろうか。

「……」

 忘れられない光景とか、記憶とか、割と誰でも持っていると思うけど。

 それが良いものか悪いものかによって、その記憶を思い出すときの感情は分かれてくるものだろう。

 いいものであれば、その記憶や光景を頼りに、頑張ろうとか振り切ろうとかいい方向に感情も動くだろうし。それを頼りに、それを夢に、生きている人だっているだろう。

「……」

 けれどまぁ、悪い記憶なんて、マイナスな感情にしかならない。

 単に忘れられないんじゃなくて、忘れたくても忘れられない、という言葉のほうが正解に近い。何の正解かは分からないけど。

 記憶の中から消したくて忘れたくて仕方ないのに、何かをきっかけに思いだしては落ち込んで、更に他の記憶まで思いだして更に追い打ちをかけて。

「……」

 そんな記憶ばっかりだから、私はこうして変なひねくれた性格が出来上がるのかもしれない。いい記憶なんてほとんど残っていない。人生を変えるような、衝撃的な経験も思い出も何もない。気づけば、なぁなぁに生きていて。嫌な記憶ばかりが残って、それに引きずられて。

「……」

 人間誰でも、そういう所は少なからず持っているかもしれないけれど。

 そう分かっていても。

 どうして、自分ばかりこんな風に苦しまないといけないんだと、思ってしまうんだろうな。

 私以上に苦しんでいる人なんてたくさんいるし、きっと周りから見れば私は割と恵まれた環境で育っているはずなのに。

 何かが足りない、何かが欠けている、何かが苦しい。

 そんな風に思ってしまって。終いには、自分ばかりがどうしてこんなに……なんて思い始めるんだから。

 全くもって、我ながら、救いようもない、捻くれたやつだなぁと思ってしまう。

「……」

 もう少し素直に自分というものが、表現できればよかったんだけど。

 いつの間にか、自分を偽ることがあたり前になりつつあったせいで、正直自分というものが、この年齢になっても確立していない……ような気がしている。

 あやふやで、不確定で、ぐらぐらで。

「……」

 そんな奴が、いきなり自分で何もかも決められるわけがないんだ。

 だから仕事選びも失敗したし、辞めた後も、こうして次を決めるのが恐ろしくて、グダグダと自堕落に生きている。

 このまま、どうにでもなって、消えてしまえればいいなんて、毎日思っている。

「……」

 いっそ何かに巻き込まれて死ねないかなんて、毎晩思っている。

 起きた瞬間に、あぁまだ生きているなんて、毎朝思っている。

「……」

 今日もまた、生きて、息をしているから。

 このまま生きなくてはいけなくなった。


 あーあ。

 ほんと。

 私なんて。

 さっさとしねばいいのに。




















 お題:入道雲・忘れられない・人間

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