ギルドは依頼を受けつけない⑤
「なるほど。アイアの言いたいことはわかった」
受付から奥まった位置には談話室が設けられている。おもには依頼の受付、窓口でおこなうには難しい込み入った話をするときなどに用いられる部屋だ。
そこでギルドのトップ二人とテーブルを囲んだアイアは、事の次第をつぶさに語った。
時折グレオスは質問を挟み、アスクにも確認をとる。一連の流れを把握すると、しばし熟考したのち口を開いた。
「まあ、アスクの口が悪いのは今に始まった事じゃない。俺だって散々注意しちゃいるが、性格ってのはなかなか変えられんだろ。だから多少は目をつぶってやってくれ……とは言わない。気に食わなかったら遠慮なく言い返せ。そのほうがこいつの為にもなる」
「はあ……」
「アスクも、伝え方だとか言葉選びというものをもうちっと考えんか」
苦言を呈されたアスクは分かりやすくそっぽを向いた。
そんなアスクの反応には慣れているのか、グレオスはひとつ肩をすくめる。
「それで、エリス村の件だな。これに関して言うと、俺はアスクの判断を全面的に信用してる。血濡れの蜂が犯人じゃないのなら、そうなんだろう」
「ですが……」
「周りからは言いなりになっているようにしか見えないよなあ。だが、アスクは口こそ悪いが嘘は決して言わない。その一点においては信頼できるぞ──そもそもこいつの持ってるスキルが」
「グレオス!」
激しい声にグレオスは口をつぐんだ。
──アスクが明らかに殺気立っている。
「あー……うっかりしてたな。すまん、すまん。まあ落ち着け」
グレオスはあくまで平然としていた。アスクの肩を軽く叩いている。
反対にアイアの心臓はすっかり縮み上がっている。今までアスクからは何度となく冷たい視線を浴びせられてきたが、そんなもの比にならないくらいの激怒ぶりなのだから。
なおもアスクは殺気を漂わせていたものの、ひとまずグレオスへの怒りの矛は収めることにしたらしい。勢いよく立ち上がり、アイアを見下ろす。凍てついた、有無を言わせぬ眼光だ。
「ギルドマスターもすべて承知の上で、エリス村の件は俺が一切を預かってる。それでもまだ文句があるなら、ギルドマスターに言え」
圧されたアイアは何も言えず、けれどアスクから目を逸らさなかった。
言葉を失くしたアイアを視界から追い出すように、アスクは談話室の出入り口へ足を向ける。
「出るのか?」
「好きにしろっつったのはあんただろ」
「そうか。なら、アイアも付いて行くといい」
「あ゙?」
「へ」
低く唸る声と気の抜けた声が揃った。
きょとんとするアイアをよそに、グレオスはアスクへと言い聞かせる。
「真犯人が血濡れの蜂じゃない理由を説明できてないだろうが。お前はそもそも教える気が無い、代わりに俺が話してやってもいいがそれも許されない。となると、実際に見せたほうが手っ取り早かろう?」
凄まじい形相のアスクから呆然とするアイアへグレオスの視線が移る。
「アイアも、アスクの調査で真犯人の証拠でも見つかればさすがに納得できるだろ。気の済むまで観察するといい。俺が許可する」
「でも、受付が」
「ああ、それなら俺が代わりにやろう。安心して任せておけ!」
満面の笑みで申し出たグレオスは頼もしい限りだ。
しかし、新人の下っ端受付嬢がギルドマスターに仕事を肩代わりさせる──頭に浮かべただけでも血の気の引く光景だ。慌てたアイアは椅子から腰を浮かせる。
「さ、さすがにそれは……」
「いいな、アスク。アイアを無事ギルドに連れて帰ってこいよ。これはマスター命令だからな」
ギルドマスターの命令をサブマスターと受付嬢が覆すなどほぼ不可能である。
アスクとアイアは絶句するのみだった。