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ギルドは依頼を受けつけない②


「アイアちゃん、大丈夫かい?」


 眼帯を着けた男が受付台に身を乗り出す。

 四人組パーティの後を追って冒険者達が出て行く中、ギルド内に留まる冒険者達は受付窓口へ集まっていた。床に倒れた受付嬢を心配そうに見守っている。


 アイアと呼ばれた受付嬢は「大丈夫じゃないです……」と泣き言を漏らした。


「思いっきり腰打ちましたよ……。しかもゴブリンの耳触っちゃったし……」

「死骸くらいどうってことないわよ。立てるかしら?」

「ありがとうございます、マリラさん」


 アイアの先輩受付嬢であるマリラが手を差し出す。金髪碧眼に所作ひとつとっても色香を漂わせるマリラは、アイアと正反対の印象だ。年もマリラのほうが上らしい。

 彼女の手を借りてやっと、アイアは立ち上がれた。


「亜人系はどうしても苦手なんです……(ワーム)だったらまだ良かったのに」

「普通は(ワーム)のほうが無理だと思うわよ。私は出来るだけ遠慮したいわね」

「俺も(ワーム)はちょっとな……」


 周りの冒険者達もマリラに同調して頷いている。

 アイアに目立った怪我が無いことを確かめると、剣士の男が窓口を背にする。


「よし、ちょっくらとっちめてやるか!」

「殺すんじゃないぞ」

「分かってますよ。ほどほどに痛めつけるだけです」


 釘を刺すグレオスに剣士はひらひらと手を振ってみせた。

 意気揚々とギルドから出て行く剣士を見送ると、グレオスは受付台に荷物を置いた。


「アイアは災難だったな。ほれ、菓子買ってきてやったぞ。みんなで分けて食うんだぞ」

「わあ! ありがとうございます、マスター……って、また一人で買い出しに行ったんですか!」

「もう。ギルドマスターが抜け出さないでくださいな」


 受付嬢二人の抗議にグレオスはカラカラと笑った。その背後から断末魔じみた男の絶叫が聞こえてくる。


「なあに、少しの間くらい俺がいなくてもギルドは回る。優秀な受付がいるし、何より()()()がいるだろう?」


 ギルドマスターの言う「あいつ」に、全員はすぐ思い当たった。が、冒険者達は一様に表情を渋くする。アイアも露骨に顔をしかめ、マリラは苦笑している。


「そうですけど、あの人はちょっと……ねえ」


 そこでマリラが「そういえば」とグレオスへ向き直る。


「ギルドマスターにお客様がいらしてますわ。マクスキー卿がお待ちです」

「ほう? 卿直々にか。上でお待ちか?」


 グレオスが天井を──二階を見上げたその時、上からゴトリと足音が聞こえた。次いで響いてくるのは興奮した男の声。


「……貴様では話にならん! ギルドマスターはどこだ!」

「先ほども言いましたが不在です。それにギルドマスターに話をした所で結論は変わりません。どうぞお引き取りを」


 ゴトン、ゴトンと重い足音と共に階段を下りてきた人物は必然、注目の的となった。


 一見して野暮ったい男だ。

 年の頃はせいぜい二十代半ば。長めの黒髪は見苦しくない程度に、上半分をまとめて結んでいる。質素な茶色の上着とズボンは動きやすさを重視したのだろう──農村から出稼ぎに来た青年、といった風である。

 ただし、腰に帯びた短剣は日常使いの代物とは明らかに異なる、冒険者仕様のそれだ。


 男の濃い色の瞳がグレオスを捉えた。途端に目つきを険しくさせる。


「……いたのかよ」

「今戻ったばかりだよ。マクスキー卿のお相手をしてくれてたのか、アスク」


 アスクと呼ばれた男──冒険者ギルドの若きサブマスターは、あからさまなため息を吐いた。


「どこほっつき歩いてやがった……」

「グレオス! そこにいたのか!」


 アスクの背後からいかにも貴族風な男が階段を駆け下りてくる。アスクを押しのけグレオスのもとへと一直線だ。


「前から何度も何度も何度も言っているのに、貴様はどうしてあんな青二才をサブマスターに据えているんだ? もっと相応しい人物がいるものを!」

「アスクはなぁ、口は悪いが根は悪くない奴でしてな」

「おい、働けおっさん」

「あれのどこがだ? 口の利き方も態度もなっていないではないか! 挙げ句にはこの私の要請を一蹴しおったぞ! 援助を切られても構わないんだな? それがドゥームの総意なんだな?」

「そりゃ困りますな」


 冒険者ギルドの運営費用は依頼の仲介手数料、素材の売買によって得られる利益が主である。しかし、それらで運営費用を完全に賄えるはずがない。また、ギルドの設立から運営が軌道に乗るまで莫大な費用が掛かる。

 そのため、ギルドの設立運営には貴族からの資金援助が不可欠だ。そこに国からの補助も加わってやっと安定した運営が叶うのである。

 冒険者ギルド“ドゥーム”はこのバーンズ領を治める伯爵の後押しで設立、伯爵の次男で子爵のマクスキー卿も運営を援助している。

 普通に考えて、ギルドのパトロンたる貴族からの頼み事はすなわち命令。それを断るなどまずあり得ない。

 額に青筋を立てた子爵がまくしたてる。


「そうだろうとも! この男は──我が領地で人が殺され畑に火が放たれそれはもう甚大な被害が出たというのに、それを放っておくと言うのだぞ!」

「殺しに付け火? なんとも物騒ですな。一体どんな魔物が?」

「いいや、魔物ではない。血濡れの蜂(ブラッディ・ビー)と呼ばれているならず者が犯人だ。目撃者もいる。そんな危険人物をみすみす野放しにするなど──!」


「違う」


 その声に一同がギルドのサブマスターへと注目する。


血濡れの蜂(ブラッディ・ビー)は人を殺していない。だからその依頼は受けつけられない」


 そう断言したアスクは堂々としていた。


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