由
『警告:当施設直上付近にて強烈な震動を感知しました。安全が確認されるまで電力の供給が停止されます。機能回復まで凡そ30分未満です。繰り返します……』
無機質な機械音声がブザーと共にスピーカーから流れた。凛の心臓がはち切れんばかりに鼓動している。この喧しいブザーがなければ、黒服の耳にも届いていたかもしれない。一頻りブザーが泣き喚いた後、天井の明かりも消えてしまった。同時に、ガゴンと大きな音を出してエレベーターが停止した。あの鬱陶しい重低音も聞こえなくなると、この空間はほぼ無音であることに気付かされた。黒服は大きな溜め息を吐き、「またか…」と呟きながら胸ポケットからライターを出して火をつけた。仄かな灯りだが、完全な暗闇よりはマシだ。黒服はそのままゆっくりと立ち上がると隣の部屋に入ってガサゴソと何かを漁った後、蝋燭を数本と小皿を持ってきてライターで火を点したそれを小皿に立てた。そして些か乱暴に椅子に座った。
「全く、話が進まないな。」
「あの…さっき、またか、って言ってましたけど、何回か似たことがあったんですか?」
「嗚呼、そうか。凛は初めてか。君が眠っている間に2度程同じことがあってね。今回は大した規模ではないようだが、前回は3時間程止まっていたな。」
そんなに、とも思ったし、そもそも私はいつからここにいるんだろう、とも思った。全くこの空間に対する疑問が尽きない。
「仕方ない、復帰するまで口頭での説明に切り替えていこう。その内非常電源が作動するはずだ。」
吸殻をエレベーターと土壁の隙間に投げ棄て、姿勢を正して凛に向き合った。凛はクスクス笑っている。
「ポイ捨てはダメですよ。」
「構うものか、誰もいないのだから。」
「私がいますし、見てますよ。」
「確かに」と黒服がくつくつと笑う。それにつられて凛は更に大きく笑った。無音だった空間に暫く笑い声が響き、やがてまた無音に戻った。いや、お互いの呼吸音がやや不規則に、微かに聞こえている。
黒服は小さく深呼吸して、頬杖をつき、凛を真っ直ぐに見据えて訊ねた。
「君、結構余裕があるな。こんな状況なのに。」
凛は笑顔で答える。
「こんな状況だからですよ。さっき見た映像が真実で、地上が絶望的な状態なのは理解しました。だからこそ、私は明るく振る舞います。これからどんな話をされるかも、どうなるかもわかりませんけど、落ち込んでいても仕方ないでしょう?」
「君は、強いんだな。…よし、君に一つ重要なことを話そう。実はす『EMERGENCY!EMERGENCY!天蓋が予期せぬ手段で開かれました。侵入者の恐れがあります。緊急ストレージが開放されます。必要に応じて、侵入者を処理して下さい。繰り返します…』…何処までも邪魔が入るな畜生ッ!!」
先程の機械音声とは異なり、人間が話しているような抑揚があるノイズ混じりの声が消魂しいブザーと共にスピーカーから流れた。するべき説明をこれでもかと妨害され続けた黒服は遂に怒り、天井に向かって怒鳴り付けた。そして凛の方へ向き直って、激しい口調で続ける。
「凛ッ!左の部屋に武器がある!君にも戦ってもらうことになるだろう、急いで入ってくれ!」
凛はポカーンとしていたが、すぐに我に返り扉を開けて中に駆け込んだ。
(重要なことってなんだろう。地上で起こってること全部重要なことだと思うんだけど、それ以上に…?)
謎が深まる凛の心中を差し置いて、予期せぬ戦いの足音が近付いてくる。