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「昔、遥か彼方に土塊の星がありました。」


慎の頭を掴み、謎の白い石材の床の廊下を引き摺りながらイロハが話す。最初にいた部屋を出て何処かへと向かっているようだ。廊下は四方何処を見ても真っ白で、等間隔で設置されている窓の外の宇宙の黒が際立つ。その黒に点々と星が輝いていて、もう何れが地球だかわからなくなってしまった。


「皆その星を忌避しました。汚らわしい、冒涜的だ、醜穢だと。何故そう罵られていたのかは知りませんが、やがてその星は隔離され、秘匿され、いつしか口にすることすら禁忌にされてしまったんです。」


慎の返答はない。代わりにぜぃぜぃという喘鳴が絶え絶えに聞こえる。左目は腫れ、口の端から血が溢れている。肌が露出しているところに無数の傷を作り、純白の廊下をその鮮血で汚していく。イロハはそれを心底嫌そうな目で見た。溜め息混じりに、イロハは更に続ける。


「誰の記憶からも忘れられたある時。アレは美しい、隠しておくなんて勿体無い。そう言う者が現れたんです。」


漸く一つの扉に辿り着いた。扉の横に何かを差し込む機械がある。イロハの右腕が手首からクルクルと回り、やがて外れた。中から肉色の、無数の触手が覗いている。何本かの触手で外れた義手(そう呼んで良いかわからないが、便宜上そう呼称する。)を器用に持ちながら、残りの触手を扉の横の機械に挿入すると甲高い音が警報のように鳴り響き、錠の外れる音がした。扉が自動で開くと、イロハは外れた腕をつけ直しながら部屋に入った。勿論慎を引き摺りながら。部屋の中は廊下と違って窓の一つもなく、暗闇に支配されていた。


「でも、遅かった。その星には長い時を経て虫が沸き、食い荒らされ、腐り果て。かつての姿とは変わってしまっていたんです。」


淡々と話しているイロハの声に僅かながら怒気が籠る。慎は質問する余裕など微塵もない程衰弱しているが、空気の張りつめる感覚とイロハの口振りから、果たしてこれがイロハ本人、もしくは彼女に近しい誰かの実体験を元にした話であると推測するに至った。イロハは暗闇の中で壁をペタペタと触り、何かを探している。


「その者は絶望し、発狂し、呻吟しました。嗚呼、勿体無い。適切に保護していれば、美しさを保っていただろうに。しかしそれは誰のせいでもありません。ただ時代が悪かったのだと。過去の者達の感性が、後世の者達のそれと違ったに過ぎない。でも、諦められなかった。」


少しの後、部屋に明かりが灯った。大した広さのない、おおよそ八畳間と言ったところか。地面が相変わらず白い石材ではあったが、部屋の中央にだけ謎の材質のカーペットが敷かれていて、その上にこれまた謎の材質のオブジェが鎮座していた。材質は謎だが、それでも、これはどう見ても地球を象ったそれであった。


「その星が何故荒れたのか。外から観測していた私達には理解できませんでした。しかし、ある調査員がこの惑星に送り込まれて13821日目。詳細は省きますが、一つの結論が出ました。」


先程まで煩いくらいに咳き込んでいた慎は、今は何事もなかったかのように落ち着き払っている。深い眠りに就いた慎の顔をイロハが覗き込むと、慈愛に満ちた表情でこう告げた。


「あなた方人類の誕生が、全ての元凶であると。」


慎の身体をその場に寝かせると、イロハは部屋をあとにして何処かへ向かっていった。

白い部屋に完全な沈黙が訪れた。

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