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珈琲にミルクを注いでいく。スプーンでカチャカチャと混ぜ合わせ、黒と白が混ざり、茶色くなっていく。


「なんで珈琲って牛乳と混ぜると灰色じゃなくて茶色になるんですかね?」


凜が無邪気に訊ねる。その手には今度はガムシロップが握られている。今にも開けんと蓋を爪でカリカリ捲ろうとしている。端がくっついてしまっていて剥がすことに難儀している。


「黒ではなく濃い茶色だからだろう。珈琲が黒く見えるのは光が透過しにくいとかそんなところではないか。」


容器の端を上に折り曲げれば捲りやすいぞ、と黒服が凜に口をだし、凛はその通りにして漸く蓋が捲れた。


「さて、一息吐いたところで。続きを話そうか。飲みながらで構わない。」


黒服は自分のカップを先程珈琲を淹れた部屋に持っていき、恐らく洗い場に置いた。凛はまだそちらの部屋を見ていないので部屋の全貌がわからない。部屋から出てきた黒服は皿を手にしており、中には乾パンのような乾いたお菓子が色取り取りに並んでいる。甘い匂いを漂わせているが、美味しそうには見えない。それを凜寄りのテーブルに置くと、先程荒野を映していた液晶に再度電源を入れてから座った。そしてスーツの内ポケットから端末を取り出し、操作し始めた。


「言葉で説明するより、実際に映像や写真を見てもらった方が早いだろう。」


まず映し出されたのは、青空の彼方から雲を裂く一筋の閃光が、今まさに眼前の街に照射されている静止画であった。


「これは写真だ。丘の上から偶然撮れた一枚だと言う。視認出来る程度の光量しかないのに、街を焼く威力がある。人類の科学力では到底作り出せないだろう。」


画面を横目で観ながら、凛は珈琲を口に含む。まだ苦味が強かったようで、渋い顔をしている。黒服はまた件の部屋に入っていき、ガムシロップとポーションを一握り凛の目の前に置いた。好きなだけ入れていいぞ、と言った黒服の声は笑いを含んでいた。


「変な光がどうのって話、ニュースで見た気がします。太陽フレアが原因とか言ってましたけど、違うんですね。」


凛は思い出したように訊ねる。黒服は首を横に振って、また違う写真を画面に映した。研究員達が先程の写真を巡って会議している写真だ。


「学者達が挙って自分達の意見を述べていたが、どれも根拠が薄く、そもそも理論上不可能なものばかりだった。太陽原因論は世界中に混乱を巻き起こす訳にもいかないからこそ出た、まあ要するに誤魔化しだ。その理論にも一定数の支持者は居たようだ。メディアは事実を握り潰し、被害は最低限のものだという虚偽を発信していたよ。」


黒服はくつくつと笑う。表情は鼻から下しか見えないが、片方の口角だけがあがり嘲笑している。心底バカにしたような、でも、そんな笑い方をすると言うことはこの人は何かを知っていた?疑問が残る笑い方だった。


「ふぅ…さて、この光線の写真が撮られたその少し後、七日後のことだ。この映像を観てくれ。」


一頻り笑った後に黒服はまた端末を操作し、しかし画面は暗転した。黒服は首を傾げながら立ち上がり、液晶の電源を入れたり切ったりし始めた。


耳障りなブザーが鳴り始めたのはそれからすぐのことだった。

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