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空間を暫くの沈黙が支配する。慎はその場でしゃがみこみ、俯き怯えている。額が切れて血が滲んでいる。慎は見えていないが、イロハが笑顔で慎の周りを漂うように歩いている。


「どうか、怯えないでください。」


間も無く口を開き、沈黙を破ったのはイロハだった。瞬間、慎の身体がビクリと跳ねたが、やがてカタカタと震え始めた。


「先程も言いましたけど、私の目的はあなたの命ではありません。勿論私に協力してくれなければ多少痛い思いをしてもらう必要もありますが、大丈夫ですよ。」


それを聞いて尚一層慎の震えは大きくなる。


(怯えるなってなんだよ、何が大丈夫なんだよ。見た目が可愛い化物じゃねぇか。百歩譲って化物だとしても、もっとマンガとかにあるように『惑星は手違いで破壊してしまったけど人間は好きなので捕まえて責任もってどうにかします☆』的な展開だと思ったのに、全然敵じゃねぇか。どうにか、どうにか仲良くならないとアイツの気分次第で殺される可能性もあるよな…)


慎は大体このようなことを思っていた。俯いている慎は知る由もないが、今まさにイロハの表情から笑顔は消えており、なにやら首がメキメキと音を立てながら蠢いている。


「埒が明きませんね、また殴りましょうか。」


イロハがいつの間にか慎の耳元に来てボソボソ呟いた。感情を読み取れない無機質な、高揚のない声で。慎は小さく悲鳴を上げ、声のする方向を見て、今度は大きな悲鳴を上げた。


イロハの首が慎の顔の横まで伸びていた。いや、所謂怪談の轆轤首のようなニョロニョロとした伸び方ではない。腕時計のバンドに三つ折れ式と言うものがあるのだが、まさしくそれのような機械的な伸び方をしている。分かりづらかったら蜻蛉の幼体、所謂ヤゴの口の伸びるところ、正確にはマスクと言うらしいが、それを想像してもらえればそっちの方が分かりやすいかも知れない。大体同じような感じだ。


それを見た慎は飛びはね、それでも衝撃で腰が抜け立ち上がれず、座りながら腕の力だけで後退った。やがて壁にぶつかりその場に倒れた。視線はイロハに向けていて、身体はガタガタ震えている。動揺と戦慄が脳を支配して尚、何故か思考は冷静だった。イロハの首の断面が見える。筋肉と骨が露出しているのに血は一滴も出ていない。結構無理な動作をしているのか、首と胴の接続部がギシギシと軋んでいる。アレは背骨と呼んで良いのだろうか。よく見たら骨が銀色だ。やはりと言うか、機械的な印象を受ける。そういえばアレほど胸骨が露出しているのに食道や気管の類いがない。


「……怖いですか?気持ち悪い、ですか?」


バキッ、バキッと音を立てながら首を収納しながらイロハが訊ねた。怖いに決まっているだろう。でも、イロハは笑顔でも無表情でもなく、悲しそうな顔だった。もしかしたら過去に何かあったのか?ここで肯定すれば更に悲しませる可能性があるし、激情してまた殴られるかもしれない。恐怖と哀れみが混ざったような複雑な心だったが、先程思慮したことを念頭にいれ、グッと押し殺し、ヨロヨロと立ち上がり、辿々しく口を開き、答えた。


「……ビックリした。けど、怖くはない。これはお前…イロハのほんの一面に過ぎないから。」


途端、イロハの口角が上がり、右手を口に当てて目を見開いた。束の間、その右手を胸の辺りへ持っていって、まるで胸がときめいた時にするような仕草をした。


「慎…!」


嬉しそうな声色で、今までにない笑顔で、イロハは慎に駆け寄ってきた。


(なんだ、結局やっぱり見た目通りの可愛い女の子じゃないか。俺が理解者になってやろう。そうすれば、邪な考えだが対等とまでは行かずとも多少の待遇は改善されるかもしれない)


と慎は思い、イロハを受け止める為に両手を開いて待った。後少しで身体が触れる、と言ったところでイロハは立ち止まった。慎が怪訝な顔をしていると、また笑顔でイロハが話し始めた。目は笑っていなかった。


「私は人間のこと、可愛いけど、殺したいと思ってます。」


耳を疑った。

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