邪
「自己紹介しますね、私はミラ星U型生命体168号と言います!呼ぶ際に長くて不便なので、イロハと呼称してください!それでは今度はあなたの識別名を教えてください!」
イロハは屈託のない笑顔でそう言った。
「…慎。真取部慎。」
慎はひきつった顔でそう言った。
「では、自己紹介も終わったところで色々と説明しますね!まず、あなたの惑星は我々が滅ぼしました!」
慎は驚きもせず、もはや無表情でイロハの言葉を聞いている。先に見た窓の景色。まだCGという可能性もあるし目の前の生命体も特殊メイクなどの可能性がないことはないと思うが、この空間には我々人類では到底辿り着けない科学の装置やら機械やらがたくさんある。これもハリボテで、慎を騙す為のものかもしれない。所謂ドッキリである可能性がある。もしそうならば何故俺なんだ?ただの高校生の俺が?と、慎はそんなことを思いながらイロハの話を適当に聞いている。
「それでですね…って、聞いてます?それとも私の話、面白くないですか?」
イロハが心配そうに慎の顔を覗き込んだ。宇宙色の綺麗な瞳だった。まるでそこにもう一つ別の宇宙があるような、引き込まれそうな瞳。
「…話が突拍子なさすぎて信じられない。大体、さっきの窓から見えた景色だってCGだろ?窓に見える液晶か何かに宇宙が写し出されている。そういったものだろうし、お前だって「イロハです。そう呼ぶことを先程推奨しましたよね?」
頬に走る鋭い痛みと鈍い殴打音。それと意識が一瞬揺らいで、視界がモノクロになった。慎の身体は少し吹き飛び、地面に倒れ臥した。同時に聞こえたイロハの声色は相変わらず朗らかなものだったが、イロハに殴られたことに気が付くのにそれほど時間は掛からなかった。
「あの、勘違いされてるかも知れないので言いますけど」
イロハが慎のもとに歩み寄ると、その4本しかない指の内2本で慎の胸ぐらを掴み、そのまま持ち上げた。大体平均的な高校生の身長をした慎の体重は少なく見積もって60キロ程だろう。そんな男の身体を、それよりも小さな少女の肢体をしたイロハは何の苦もなく持ち上げた。表情は相変わらず笑顔である。
「あなたは私に拿捕されたんですよ。対等な立場にあると思わない方が良いですよ。殺すことはしませんけど、傷付けることは承認されています。なので」
イロハはそのまま慎を乱暴に投げ捨て、少し乱れた自分の服を整えながら、それでも悪意のないような声色で言った。
「私のご機嫌を取り続けることを推奨します。」
両の眼を開ききって、それなのに瞳に光はなかった。そこに先程までの笑顔はなかった。
この生き物は何なんだろう。