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カレンダーの君

作者: 夢宇希宇

 窓外で油蝉がジージージーと鳴いている。夏の終わりが近い。8月も終わりを迎えようとしていた。

 ふと壁にかかったカレンダーを見ると、記しがあった。

 『約束の日』と書かれ、日付は丸で囲まれていた。

 約束?自分で書いたのだが、その約束が何かが思い出せない。そういや、毎年カレンダーを買った時に惰性で書いているような気もした。しかし、かなり昔から続けているのに、肝心な約束が何かがわからない。

 友人なのか仕事関係なのだろうかと思考を巡らせていると、腹の虫が「ぐぅ」っと鳴いた。そういや、昼近くに起きてから何も食べていなかった。

 何か食べよう。そう思ったのだが、買い置きのインスタント食品が何も無かった。冷蔵庫を覗くと…見事なまでに何も無かった。

 仕方ない。近くの定食屋にでも食べに行くか。そう思い、腰を浮かそうと思ったら、手元のスマートフォンが着信を知らせた。誰だろうと思い、表示を見ると覚えのない名前が表示されていた。『ミスズ』の表示に記憶が無い。スマホは子どもの頃から使っていた番号なので、その時に入れたのだろうか。

 電話に出るか迷ったが、自分の電話で自分で入れただろう相手なので、恐る恐る電話に出た。

『はい。タガギです』

『タカギ君?あ、出た出た。間違ってなくって良かったよ』

 俺の名前を知っている。誰だろう。怪しい勧誘とかの電話じゃないよな。

『私、私、私だよ~』

 新手のオレオレ詐欺なのだろうか。

『私って、誰ですか?』

 電話が一瞬沈黙をした。が、電話の相手はひるまなかった。

『私、私、本当に覚えてないの?』

『私という名前の人は知りませんが?』

『もう、仕方ないわね。ミスズよ、ミスズ。思い出した?』

 どうやら、電話に登録した本人のようだ。だが、思い出せない。

『ミスズさんで合っているようですが、申し訳ないのですが、俺の記憶にありません』

 正直に話した。

『う~ん、そうね。そうかもね。仕方ないかもね』

 ミスズさんとやらは、自分で言って何やら自分で納得している。

『申し訳ないです。ですが、俺は記憶喪失とかではありません』

 最近のことや過去の記憶は普通にあった。

『そうね。じゃあ、あの日にあそこで待ってるから』

『え?何ですかそれ?』

 電話が沈黙した。

『自分で考えて。じゃあね』

 電話が切れた。何なんだったんだ、いったい。ミスズさんとやらに電話をしようかと思ったが、最後の会話が気になって、その気にならなかった。

 思い出せ。

 何かあるはずだ。

 思い出せ。

 何か大切で重要なことを忘れているかもしれない。

 もしかして、…カレンダーか?そういえば…そうだ。

 俺は素早く着替えると、家を飛び出した。目的地は、あそこだ。

 約束の場所とカレンダーの記しは今日だった。あそこへ行かないといけない。

 家を飛び出し、ある神社へ続く、緩やかな坂道を上った。

 そして、彼女はいた。

「やあ、ススム。思い出したようだね」

 俺の名前は、ススムだった。

「お待たせ、ミスズ。間に合って良かったよ」

 ミスズは「大変よろしい」と、俺の知っている満足気な顔を見せた。時が経っても変わらないな。

 俺と彼女は幼馴染みで、この日この神社で会う約束をしていた。全部思い出した。

「それは良かった」

「そうね」

「積もる話でもしようじゃないか、ミスズ」

「そうね、それもいいわね」

「ああ、時間はたっぷりあるからな」

「…だね」

「約束だったからな」

「うん」


カレンダーの君

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