表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/94

アンマッチ

一方、特殊部隊拠点。

 山のように積み重なる書類に日向はため息をついた。仕事が回らないからと、自分まで動員されたことに大変不服である。いくらアカネの腰巾着といえど、所詮は子供。最初は集中していたがら飽きるのは早かった。

 (シュート)は書類の提出に向かわせてしまっているため、部屋には一人きりだった。いや、正確には3人。護衛の二人を含めると。

 飾り気のない部屋は気を散らさないために用意されたもの。時計が時間を刻む音が何度目かの一時間を告げた。

 静寂の中、護衛たちは己の仕事を全うするべく沈黙を貫いていた。それが日向には退屈に感じる。ここで質問をすれば、大体の返事は「その通りです」。まるで機械だった。

 一つ一つ書類に適当にサインをする。書類を読んだとて大人たちの世界が広がっているだけ。どこの誰が何を画策しようと害がないのであれば、見逃してやることにしていた。その分、仕事はきちんと済ませてもらうつもり。提案書やら計画書をみれば、誰がどれぐらい得をするか争いあっている様子が見えた。


「外に出てもいい?私、疲れたわ」


猫なで声で尋ねても、返ってくるのはダメという返事。といえども彼らは"話せない"ため、首を横に振るだけ。

 話せない護衛。日向にとっては大変便利な存在である。それは連携において損失を生みがちだが、彼らは目線だけでそれをやってみせる。チラッと一度見ただけで伝わってくるのだとか。

 日向と彼らのコミュニケーションは、筆談である。予め紙に書いたものを日向は見せられ、質問があればその場で追加で書く。聞き耳を立てられる可能性を真っ先に潰すことができる。時間はかかるが、モノは使い用とは言ったものだった。

 会話が終われば、退勤前に全ての会話を燃やす。彼らが休んでいる間は、蹴が日向の護衛に就く。3人で上手くシフトを組んでやり取りをしているため、すっかり仲は深まっていた。

 だが、3人とも生真面目で、仕事とプライベートは別。仕事中は一言も会話を交わさないという徹底ぶり。それでも話せないハンデを乗り越えてみせた。

 仕事をこなせるのであれば上司として文句はない。ないのだが…


「なんだか、詰まらない…」


遊び相手になってくれるような相手は不在である。アカネは会議だなんだと外に頻繁に出ているようだし、仲の良い六甲は任務中。その他の隊員とは話すのすら面倒。

 さらには、現時点で進行中の任務は史上最大に厄介だと推測されている。敵の数の推移やら座標やら統計的なデータをもとにする訳ではなく、ソースはアカネの勘。その勘が示す実態は本人たちは知らないのだから、本当に可哀想だと思う。

 恐らく、今回の任務で第六隊(ナンバーシックス)は大多数が死亡、または壊滅する。推測の域をでないが、日向が導きだした答えだった。敵が未知数な状況、さらに圧倒的な数の投入が十分に予想される段階で何故隠密部隊を動かしたのか。アカネの考えはイマイチ理解しがたいものだった。

 複数の部隊を導入した上での、隠密専門部隊導入であれば理解できたものの、今回の行動は自殺行為に近い。


「てっきりあの子を気に入ってると思ってたのに、目的には犠牲は付き物って…ことか」


考えたところで、真実を知るのはアカネのみ。取り敢えず仕事に飽きたため、別の誰かに構ってほしい。構ってもらうには、仕事を終わらせなければならない。このループを複数回繰り返し、大きくため息をついた。

 地道にでも手を動かすしかないのだろう。頭と体を切り離して、脳内ゲーム対戦でもして時間を潰すことにした。






そうして時間を潰していたのは数十刻前。今はその真逆。大忙しである。


「事態の把握を早急に、それと今動かせる隊員を招集して。総督…アカネに連絡をつけて、指示権利の所在を…」


事態が急変したのは、全国津々浦々に異変が生じたという一報から。突然災害級の津波が発生したらしい。津波に巻き込まれた人々はあっという間に姿を消したとか。所謂神隠し。

 この異変は国にも報告されているとの報せもある。どうしたものかと頭を悩ませる。一体誰が想像しただろう、触れただけで神隠しに逢うだなんて。

 第六隊の通信によると、既に隊の大半数が巻き込まれているという。姿を消した隊員たちとの連絡は断絶されており、現在は消息不明。現状の把握も難しい。

 通信といっても、送信と受信の間には時間がかかってしまう。機密だなんだというため、暗号を読み解くだけでも大作業なのである。中途半端に便利で、肝心なときに不便になるのは何故なのだろう。

 皮肉なことに、嫌な予感というものは当たるらしい。こんなところで当たっても何一つ良いことはない。こんなことになるのであれば、暇な方がよかった。


「隠し通すなんて無理!流石に無理」


 何度演算しても、小さなきっかけで特殊部隊の存在が明らかになってしまう。むしろ今まで隠し通せていた方が奇跡に近いのではないだろうか。国から切り離された対怪物部隊。密かに人間の敵を狩り、秘密裏に命を散らす。怪しまれなかったことの方がおかしなことだった。

 慌ただしく隊員たちが部屋の前を彷徨いている足音が聞こえる。未だ事態は収まっていないようだ。


「こんなときにアカネは一体どこに…」


会議やらで席を外していたアカネだが、ちょっと野暮用と出掛けたきりどこかに雲隠れしてしまった。追跡していた護衛は見事に撒かれ、目撃情報もない。完全にお手上げ状態である。

 もとよりアカネには放浪癖のようなものはあり、度々姿を眩ませている。しかし最近は落ち着きをみせていたため、皆が安心していたところにこの状況。いくら尻拭い専門でも、庇いきれない。

 アカネがいない状態で書類を貯めておくこともできない。山のように積み重なる書類が今にも倒れそうだった。書いても書いても継ぎ足される書類には当然、アカネにしかサインできないものもある。代筆不可というを文字を見る度、その文字を二重線で消してしまいたい気持ちが膨れ上がる。


「大変です!」


ノックも忘れ飛び込んできた隊員に、護衛が睨みを利かせた。普段であれば萎縮するような威圧感を放つが、この飛び込んできた隊員は気にも止めなかった。それよりも重要な用件があるらしく、息も絶え絶えで口を動かす。


「…なんです…」


よく聞き取れず、日向は手を止めた。訝しむ表情をすると、もう一度同じ言葉が放たれた。


「一般人_この辺りの住民らしき人間が、基地前で騒ぎを起こしていて…次々に集まってきてます!」


面白がった野次馬たちが特殊部隊の基地にお遊びで来る。いつかその辺の誰かが書きそうなシナリオだと思った。

 人知れず存在する建物。古くもあるがつい最近人の出入りがある。面白そうなものがあって、今まで誰も知らなかった。しかも自分が第一発見者かもしれない、と複数挙げた要素は人の好奇心を刺激した。更に近づいて見れば見たこともない黒装束の団体が、物々しい雰囲気でいる。陰謀論、その手のものが好きな人間であれば、食いつかずにはいられないネタに違いない。

 問題はそれが今だったということである。

 よりによって責任者がいない上、異常が各地で発生している。その状態で妙な行動をされれば邪魔でしかない。


「追い返せ…とは言えないか」


追い返して、隊員たちに紛れ混まれでもしたら厄介だった。やる気はあれど、所詮は一般人。お遊びで隊員に紛れ込まれても戦闘力など皆無に近いだろうし、殺されでもしたら国やらメディアが騒ぎ立てる。保護するにも少ない資源を割きたくはない。

 次々に頭を抱える事態が起きてばかり。もう、全てを投げ出したい。


「もういっそ招き入れるのはどうかと。今集まっているのは数人程度。今のうちに外に騒ぎが広がらないように口封じでもしておけば、後でシラを切ることもできる」


丁度帰ってきた蹴が、紅茶を片手に言った。湯気が立ち、仄かな華の香りが辺りに漂う。


「口封じ…それはリスクも高い。だって人が行方を眩ましたら、()()人を探すんじゃないの?捜索願とか、出すって聞いたけど」


普通であれば、警察でも国でもなにでも頼ることができる。生存が確認できないからといって見捨てたりはしない。それが普通の国民。特殊部隊の異常さを感じられなくなった瞬間、普通が何か分からなくなってしまった。

 蹴は紅茶と共に一枚の紙を差し出す。今朝の朝刊だった。

 新聞にはいくつか記事が記載されていたが、目についたのは国が進軍を始めたことと、そのため国民を徴兵する記事。齢で徴兵する男児を決めているらしく、都市部では既に訓練施設は動き出しているとのことだった。

 いくつかの写真にはこちらを見て敬礼する男性数人が写っている。どれもこちらを見つめて希望を抱いた目をしていた。


「現実も知らないようなガキばっかりね」

「貴女も容姿はそのガキよりもガキだけど」


日向は容姿は子供でも、中身は大人。抜きん出た知識でアカネに抜擢された優秀な人材である。痛いところを蹴に突かれ、日向は口を閉ざした。


「現段階におけるこの徴兵は粗雑だそうだ。所謂、でっち上げが横行している」

「でっち上げって…どうするの。年齢の引き上げ、引き下げでもするのかしら。もしするとしても引き下げ…でも記載するよりも齢を引き下げたところで、身体は未発達でしょ。そんな未熟な存在でどうやって大人のような力を…」


大人はある程度の知能と力を有している。そのため指示を出せばその通りにできるため、軍部では重宝される。無茶を命じたとしても乗り越える信頼。それが大人を軍事導入する利点。

 しかし一方で、子供を利用するとなると。大人では通れない隙間やしなやかな動きが可能になる。更には小柄な分素早い動きと柔軟な発想が魅力的である。

 そして、これは特殊部隊でも同様の見解だが_扱いやすい。これが子供を集める、及び齢を引き下げるメリットと言えるだろう。大人よりも子供であれは力も弱く、厳しい環境で生き抜くため大人に依存しやすい。洗脳も用意である。子供が抱く夢を争いに結びつけられれば万々歳である。

 兎に角、扱いやすさという点においては子供の方が優れている。だが一人前になるまで育てなければならないし、そこまで生きているという保障もない。そのため、特殊部隊では成長盛りのわんぱくな青年たちを集めている。


「…ああ、胸クソ悪い。子供だからってなにも知らない訳じゃないのよ」


子供だから察することもある。アカネが自分に対して、何の気持ちも抱いていないこととか_共にいれば分かってしまう。相手にとって自分がどれほどの存在なのか、を。

 だからといって日向もしてやられるだけの存在ではない。自分もアカネを利用している。子供である立場でアカネのことを狙って、いつか大逆転するのである。

 アカネ云々は切り離すことにした。今優先すべきことを片付けて、そのついでに諸々のことを巻き込んで解決しよう。


「………アカネのことはもう良いわ。見つかれば回収して。外の人間は一旦捕縛。でも扱いは丁重に、客室に通してあげて。ついでに各部隊の頭を集めてきてよ、仕事を蒔く」


振り回されるのはもう飽き飽きだった。考えれば考えるほど雁字搦めにされる。大人は自分勝手すぎる。

 蹴は何も言わず、日向の隣に控えじっとその旋毛を見つめていた。


「……そして京家に連絡してちょうだい。用件は、そうね…



次の当主について、とでも言って


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ