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イフ

 昔々。あるところに一つの国があった。

 国民たちは飢え、草木も生えないその土地で、ある1人の男が立ち上がり言った。


「この国はどうしてこんなにも貧しいのだろう」


男の問いに答えるように人は次々言葉を口にする。


「それは食料が足りないからだ。今日満足できても、明日はできない。昨日の分はもう食べてしまった」

「隣国の蛮族が食べものを持っていってしまったからだ」

「権力者が私たちのものを全て奪っていくから」

「神が俺達を見捨てたからだ。神なんてヤツらは、俺達が死にかけてても見向きもしない」


三者三様答えは異なった。だがこれら足並みが揃わない回答にも、唯一共通しているところがある。どれも無い物ねだりだったことである。


 あるところに、優しい心を持った人間がいた。誰にでも優しさを見せるその人はまさに聖人と呼ぶにふさわしい人格を兼ね備えていたという。

 あるとき。ある権力者は暴漢に襲われた。それを偶々ある人が見つけ、間に割って入り見事解決した。善行を積んだある人に、権力者は大量の魚を与えた。到底1人では食べきれないほどの量が山のように積み重なっていた。


「それほどの善良な心をもつ人は初めて会った。そのような人にこれを与えたい」


 権力者はある人に無理矢理渡した。そして姿をあっという間に消してしまい、見えなくなってしまった。ある人と魚は少しの間睨み合った。

 ある人が喉をならして躊躇っている間にも、魚は鮮度を失い腐っていく。ある者は自分に必要な分を取り、残りを薫製にした。さらに食べきれない分は近隣に与えることにしたのだ。

 ある人は称えられ、人格者と呼ばれた。人格者となり、ある人は偉大な権力を得た。満足で裕福な生活にある人は溺れることなく、善行を積み順風満帆な人生を送っていた。だが、それも長くは続かない。あれほど、山になるほどに積み重なっていた魚が底をつき始めたのだ。

 次の食料を集めるべく、人々は山へ川へと足を動かす。草の根掻き分けて木の実、果実から魚まで食べられそうなものを総出で探した。だが、見つからなかった。

 季節は冬。枯れて次の旬に備える植物ばかりだった。唯一見つけた真っ赤な果実は、食えば腹を下す。水が凍り、砕いて捕った魚は精々一食分。食料とも言えない頼りない食事だった。

 こんなことになったのは、誰の所為だ。

ある人の預かり知らない所から声がした。若い人の声だった。その声を聞いた瞬間、人々は顔をある人に向ける。

 落ち窪んだ眼窩と枝のような腕。か細く今にも切れそうな髪。掠れた声で人は責任をなすりつけ合う。

 ある人は誰も責めず、心穏やかに過ごしていた。誰が何を言おうと自分には関係ないと呑気に考えていたのである。なぜならば、自分は"善人"。困っていた人々に食料を与えた善良な人間だからである。そうある人は満身していた。


 「あの人からまた貰えばいいじゃない。前だってくれたもの。またくれるに違いないわ」


 純粋な子供が口を開いた。悪意のない純粋な期待だった。今度はその言葉を聞き、人々は首を縦に振る。


 「以前()だってくれたから、今度だってくれる」

「だってあの人は善人だもの」


ある日、ある人の家の前には人々が押し掛けていた。当然ある人は驚き、話を聞いて首を横に振った。

 ある人に魚をくれた権力者とはあれきり会っていない。そもそも偶然あった人間に、もう一度会えるだろうか。

 ある人の言葉を聞いて、怒り狂う人々はある人を異端者とした。食料を隠しているに違いない。あれほど山のような魚を持っていたのは、どこからか与えられているのだろう。

 人々は異端者を殺し、家を探し回った。だが食料はどこにもなく、人々は異端者の血肉を食らって腹を満たしたという。





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