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フィスト

 出口に向かうにつれて、地面は土から石に変わっていた。大理石の中々見ない装飾を施されている床や柱は、高級感を孕んでいた。置丹のブーツと素足の永遠永久の足音が静かに響いた。

 人の気配は相変わらず感じられない。まるで時が止まったかのように散った花が地面に転がっていた。空気は重々しく、空が紅く染まっていた。夕日よりももっと紅く血液のようにも見える。

 

「ここは妾の庭。妾は幼い頃からよく宮を逃げ出していた」


そう言って、永遠永久はとある柱の足元を手でなぞる。思い出を一つ一つ辿るように施された溝に触れる。わざわざ注文した柱は職人が手で掘ったと聞いている。その時の彼らの努力と思いはまだ残っている。丁寧に加工された柱の感触を確かめながら、永遠永久は凹凸を探した。僅な突起で、目で捉えることは難しい。

 置丹は周囲を警戒しながら、永遠永久をただ見守った。手出しはするなと永遠永久には釘を刺されていたし、頼みの綱である永遠永久が狙われては困る。それらしい敵の姿はないが、身を潜めている可能性は十分にあった。そしてもう一つ理由がある。


_それに永遠永久が敵である可能性も捨てきれない。本物かどうかも確かめようがないのである。


永遠永久が味方であったとしても、それは偽りの姿。未葉六という人間でさえ、嘘だった可能性もある。現状、永遠永久の目的は不明でそばには置丹しかいない。つまり置丹さえ口止めすれば未葉六=永遠永久と知っている隊員はいない。手間は省けるに違いない。

 置丹はずっと疑ってきた。親切な人間なんて存在するのか怪しい。一時は久方ぶりにあった六に感情を乱された置丹だったが、冷静さを取り戻しかけていた。だが


「…ろくでもないな」

「退屈だったんだ。悪いとは思っているさ」


口から出たのは自分に対してか、永遠永久に対してか。置丹には区別はできなかった。

 永遠永久が探りだした機構が作動すると、地震のように地面が激しく揺れた。重々しい音で歯車が久方ぶりに動かされている喜びを訴えているようだった。古い所為か硬いものが折れる音も聞こえた気がする。


「おいおい…完全に壊れた音が」

「何年も動いてなければ人も機械も壊れるものさ。嫌なら別ルートを通ることも出来るぞ」


永遠永久は置丹の返事を聞く前に、支給品の火打石で火をつけて中に入る。置丹は右も左も分からぬ土地で置いていかれる訳にもいかず、後に続く。だが、不満はあった。

 中は真っ暗である。明かり一つなく、土と埃の混ざった匂いがした。


「ちなみにもうひとつのルートはさっきの家屋_あれを玄関から抜ける方法だ。もれなくあの馬が襲いかかってくる。あれは厄介だぞ」


あの家で襲い掛かってきた馬は、暴れ馬が妖怪と化した姿。本能に忠実で、理性など無くなってしまったらしい。生前は飛びきりのじゃじゃ馬だったのだろう、死んでも元気があり余っているようだった。

 置丹は苦戦するだろうが倒せる実力の相手。だが武器があればという前提で。武器のない現状、相手をすることは出来るだけ避けたいところだった。


「あの馬は首切れ馬。首を切っても核を壊さなければ動き回るだろうな。その間に何度踏み潰されるか」


刀を折ってしまうほどの強度を誇る蹄に怪力。体表の硬度は不明だが、柔くはない。永遠永久は笑い話のように軽く話すが、それどころではない。

 一撃を避けて一発食らわせる。だが、そこに核がなければどうなる。十中八九、そばにいるであろう置丹は踏みつぶされる。もしくは重症だろう。馬の体重に人間の身体が耐えきれるわけがない。


「こっちは死ぬ危険はないのか。敵はいるんだろう。さっきまでは幸運なことに敵に遭遇しなかっただけで」


永遠永久は首を縦に振る。置丹の言う通り、"幸運なことに"誰にも出会わなかった。どう考えても罠としか思えない。明らかに安全なこっちの道へ進めと誘導されている。永遠永久に気付かれることも想定済みだろう。

 だが、もう一つの道で犠牲者は出したくない。それだけは永遠永久と置丹が一致する事項だった。

 人間の永遠永久と置丹。どちらも死なずとなると選ぶ選択肢は必然と一つしかない。


「こちらを手の上で踊らせているつもりだろう。玩具を箱にしまう時のように、丁寧にしまって、な」


人身術に長けているなら、その力を使わない方が不便。使えるものは使えと教えたのは間違いだっただろうか。犯人だろう一人の人物が過る。

 六甲と戦闘、以前あった未葉六との接触。明らかに隊員たちに存在をアピールしている。今までにない行動をするのはなにかをカモフラージュするためだろうか。

 考えが次々によぎり、纏まらない。永遠永久は自然と語気を下げた。


「先のことなんか誰も知らないし、分かりっこない。確実な未来なんて未来じゃない」


未だに定まっていないものが来るから未来だと置丹が告げると、思わず永遠永久は笑った。


「定まっていないから未来…か。その考えは嫌いじゃない」


六と同じように、無邪気な顔だった。

 その表情を見て、置丹は胸が締め付けられるような感覚に陥る。呼吸を忘れ、その一瞬の表情を目に焼き付けた。忘れられない景色。絶望の中でも光るそれは、置丹にとってなくてはならないものだった。



 狭い入り口を永遠永久を先頭に、置丹たちは進んでいく。幸い入り口だけが狭い造りだったようで、中は入口同様掘った壁がむき出しになっていた。地面だけが整備されており、足音が辺りに響き渡る。通路というよりも、坑道の方が近いだろう。


「かつてここから鉄資源やら鉱石を掘り出していた。だが、隣国がこの坑道を利用して間者を送り込んできたことがあったらしい。間者は処刑され、穴はそのまま存在が消された」

「埋めなかったのか、また利用されても文句は言えないような」

「なにかしらの旨味があったんだろう。先代も先々代もそのまた前の代も、何もしていない」


 明かり一つない坑道では、永遠永久が用意した灯だけが仄かに先を照らしていた。前も後ろも分からないような暗闇を永遠永久は迷うことなく進む。


「こんな前後左右真っ暗で先も見えないのに迷わないのか」

「なに暗闇には目が慣れている。これぐらいなら問題はない、もっとも田中(ガキ)なら耳に頼ったりできるだろうが、妾はそのような便利グッズは持ち合わせていない」


置丹にとって永遠永久も田中も変わらない。妖怪・妖人とやらの特徴なのかもしれないが、詳しいことは永遠永久は語ろうともしなかった。

 永遠永久と置丹が会話を交えていると、突然のことだった。暗がりの中、それは姿を現したのである。

 灯などなくても分かった。暗闇の中でも際立つ真っ白で継ぎ接ぎの跡が目立つ顔と腕。無理やりくっつけられたような長い指は、肌色とは異なり細く女性のもののように見えた。


「…雑談は終わりだ。戦闘態勢を」


声を潜めて永遠永久が言った。その声から緊張が伝わってくる。

 ソレはゆっくりと立ち上がり、置丹たちを見上げる。その手には目を大きく見開いた馬の頭が乗っていた。ゆっくり滴る液体が白い手を染め上げる。


「…おかエリなさイ、永遠永久」


紡がれた声はか細いものだった。呼吸に紛れて消えてしまいそうな小さな息吹。暗闇の中、明かりに照らされた瞳が一段と輝いて見えた。


「…ああ、蓮。置丹(コイツ)を招いたのはお前か、そんな()()()まで用意して」


 飄々とした態度で永遠永久が言葉を発する。

 置丹は蓮という名前は聞いたことがあった。永遠永久の知り合い、六甲を襲った人物でもあるとかなんとか。置丹はもっと男らしい人物を想像していたが、本人はか細い女性のような人物で虚ろな目をしている印象を受けた。肌と同じように真っ白な長い髪が自然と目を引く。

 その蓮は置丹と目を合わせた。置丹がピクリと反応ずると、愉快そうに()()()()。奇妙に口が歪んで見えた。


「ウん。前遊んだ玩具は空っポだっタから、今度ハ中身がありソウなものヲ選らンだ」


 微笑んだだけだというのに、その場の空気が凍り付いたような気する。身じろぎ1つすら許さな殺気がヒシヒシと置丹の肌を突き刺した。鋭い眼光で見られているだけで、自身が罪を犯した罪悪感に苛まれてしまいそうになる。


「永遠永久、お腹スいた」


子供のようなたどたどしい話し方だった。大人の容姿と発された言葉の幼稚さに置丹は思わず茫然とする。


「…置丹隊員、逃げられますか」


永遠永久は置丹を自身の背後に隠した。未葉六の姿では置丹を隠しきることは到底出来ないが、盾になることはできる。無駄に大きい服の懐に手を入れた。何か秘策があると相手に思わせるハッタリでも何でも使わなければならなかった。

 何故ならば今の永遠永久では勝てないからである。

 次の瞬間に、全ては覆されることになる。


置丹(それ)食べてイイ?」


瞬きをする一瞬だった。置丹の肩に穴が開いたのである。状況が呑み込めず、遅れてやってきた痛みにより置丹は漸く自身が喰われた事実を認識した。


「置丹隊員!」


 永遠永久は呻き声をあげる置丹の方を振り返り、自身の服を破りで置丹の傷口を止血する。だが溢れ出る紅は止まることを知らない。次々と服を赤く染める。

 なんとかうまく傷を覆うと痛みを堪える置丹が頷いてみせる。その額には大粒の汗が流れており、それでも本人はやる気があると言った。永遠永久は苦虫を嚙み潰したような表情で、律儀に待っていた蓮の方を見る。

 蓮は永遠永久と目が合うと、大げさに喜んだ。

 蓮は長い髪を乱雑に流し、口許を真っ赤に染めていた。まるで紅をさしたように紅く映えている。味わうように舐めて、美味しいと喜んでいる。まごちそうに喜ぶ子供の様であった。

 

「目が合っタ!永遠永久が私を見ていル!何度頑張ってもミてくれナかったノに!」


家族が喜ぶ様子は嬉しい。家族が喜ぶだけで永遠永久は、自分がどれだけ傷付こうとも喜べたはずだった。

 だが、不思議と湧いてくるのは怒りだった。憤怒が理性を飲み込み、目の前の敵を駆逐せよと訴えてくる。


「…分かった。相手をしよう」


永遠永久は穏やかに話したつもりだったのに、声のトーンが次第に落ちた。その声は暗く深淵の深さのような怒りを孕んだ。


「置丹隊員、立てるか」

「誰に言ってるんだ。立てるに決まってる」


置丹は意地で答えた。傷口が激しく痛むが、生き残ることに比べれば屁でもない。そう言い聞かせた。

 永遠永久から見て置丹が意固地になっていることは明白だった。突然知らない場所に飛ばされ、休むことなく動き続けた。限界を迎えかけて、体が休息を求めているのである。


「私はアレの相手をする。そのうちに奥へ進め」

「置いて逃げろってことか」

「バカ者め。今の場合、生存戦略と言う、全員が死ぬよりも良き方を捉えよ。”外”にいる隊員たちを見な避難させる時間を稼げる私が適任だ」


永遠永久は躊躇いなく言い放ち、覚悟を決めた。置丹との話を無理やり切り上げた。


「蓮、お前は妾の後継者で妾の家族だ。先代_母の実子だからと甘くしていたことが裏目に出るとは思わなかった」


ここは譲れない道で、後ろには大勢の命が乗っている。最愛の人の命も。永遠永久は負けられない。


「もう一つ聞く。……先代を、お前の母親を殺したのは”お前”か」


蓮は遊び飽きた馬の頭を地面に捨てる。それよりも楽しみなことが出来たからである。

 永遠永久が感情をむき出しにしている。己に向けて。それが蓮にとって嬉しい事だった。


「ウん。だって私カら大事ナモのを奪オうとスルから」


 錯乱状態になっている男に理性など期待できない。もはや永遠永久は期待を捨てた。

 永遠永久は呼吸を調える。気持ちを沈めれば、脳裏にとある言葉が浮かぶ。

 _皆に伝えよ、時は来たと。虐げられた我が記憶に誓い、妾も盟約のもと肩を並べよう。

 遥か昔。凶作によりある国が荒れていたという。人々は今日一日を生きるために必死で、食料をかけて争っていた。そこに現れた聖人が言った言葉。永遠永久も先代が口にした言葉を聞いただけだった。歴史を何度調べてもそのような聖人は一切登場しない。

 だが人々は存在が怪しい話でも縋っていた。それは共に戦ってくれる存在がどれ程心強いか知っていたからである。

 永遠永久は足に力を込めて一気に距離を詰めた。瞬きの合間に現れた永遠永久に動じることも無く、蓮は頬に一撃を貰う。人間だとしても妖人にダメージを与えられないわけではない。ミリ単位のわずかな傷がつく程度の傷を負うことはある。

 拳の勢いに押された蓮の首は左を向いている。


「永遠永久、そノか弱イ姿は捨テまショう」


そのまま愉快そうに蓮永遠永久の手に己の手を添える。そしてちょいっと力を加えると、あっという間に拳は押し返された。自身のそばにきた永遠永久に、蓮はその頬を軽くビンタする。たったそれだけの動きで、永遠永久は吹き飛び坑道の壁面へと身体を飛ばした。

 尋常ならざる力の差であった。永遠永久の姿は人間そのもの。力量もそれにふさわしいものになっていた。対して相手は人間の力を優に越えた化け物。化け物と人間の差がそう簡単に埋まるはずも無く、永遠永久は弄ばれる。


「行け!置丹薙!」


 置丹は行けと言われたものの、まだ自身で決断できず足を止めたままだった。置丹には自信がなかったのである。己の選択が後にどんな影響を及ぼすのかということに頭を働かせて、八方塞になっていた。そうしている間にも、永遠永久は敵の注意を惹きつけるべく奮闘して、己だけが無傷だった。

 かつてあった運搬任務と同じ流れ。置丹が無理だと言えば、六は首を縦に振って引き受けた。その結果、大怪我を負うことになった。本当は自分の責務だったのに投げ出して、自分ではなく他人に押し付けた。置丹の人生を振り返れば、大体そんなことの連続だった。


「だが、放っていけば絶対に…」


死ぬ。その言葉は口から出なかった。永遠永久も分かっていると察してしまった。これほど鈍感になりたいと思ったときはない。

 置丹は握りこぶしを作った。ワナワナとその手が震える。


「なにが死にたくない、だ。死にたくないと駄々をこねて人に押し付けているだけ。自分の嫌なことを他の誰かにしているだけの癖に」


自分の嫌いな部分。自分が怖いことを人に押し付けて、人の善意につけ込む。その癖に押し付けてその人が成長したら、うらやむなんて虫が良いにも程がある。

何のために隊の特攻隊長を務めた。自分を変えるためじゃないのか。見ているだけではなにも変わらない。永遠永久を無下に扱うのか。


_動け、勇気を出せ。


 置丹の体は漸く動き出した。置丹に出来ることを一生懸命すれば良い。第六隊もそれで成り立っていた。六甲が隊長で戦闘を。肥河は大雑把な六甲を支え、隊の指揮を取る。2人の後ろに同期の先輩たちが付いて、置丹たちはその後ろを。

 誰も疑うことはなかった。隊を引っ張る仲間の力が強く、誰もよそ見など出来なかったから。

 置丹は永遠永久に指示された通り、永遠永久と蓮を通りすぎて先に向かう。邪魔をされ気に障った蓮が、置丹を狩ろうとする。だが永遠永久は敵の注意を向けさせた。


「いいのか、お前の大好きな妾がお前を殺しに来るぞ」


近場に落ちていた廃材を拾い上げ、蓮の頭を殴る。廃材は折れ、白い肌は汚された。

 永遠永久は息も絶え絶え。瀕死状態で動き続けることは誰にでも出来ることではない。

 物音で置丹が振り返ると目があった永遠永久は、微笑んでいた。仲間に置いていかれるというのに、それを望んでいるとさえ思える。


「永遠永久、貴女はすっかリ壊れてシマった。直さナい、ト。完璧ナ神さマ」


永遠永久と蓮は何か話していたが、置丹に聞き耳を立てる余裕はない。ひたすらがむしゃらに足を動かした。

 何処までも続いて行きそうな坑道を置丹は走る。体力には自信があり、真っ暗な道にひたすら足を酷使した。縺れる足と挫けそうになる自分に渇をいれ、無理矢理体に言うことを聞かせる。どうしてもというときは、肩に巻かれた永遠永久の服の切れはしを触った。背後から坑道全体を揺らすような騒音が響き渡り、戦闘の過激さを語っている。

 まだまだと自分に鞭を打ち続け、ついに体力の限界を迎えた置丹は、石に躓き地面に転がった。惨めな姿だった。


「出口はまだか…」


一体どれぐらい進んだのかも分からない。前も後ろも視覚だけでは判断出来なかった。恐らく前と思われる方向を向けば、まだ依然として暗闇が広がっている。後ろも微かに見える灯りは永遠永久の光だろうか。もはや点にしか見えない。

 まだ先を目指さなければならないのか。置丹は考えた。前も後ろも逃げるところはない。戦闘とみている限り永遠永久も人間と変わらない身体状態と推測される。推測が当たりなら、あの男に勝つことは出来ない。いずれ戦闘音は止んで、ゆっくりと男の足音が聞こえるだろう。

 右も左も行き止まり。置丹に与えられたのは前か後ろかに進むことだけ。前に進むことが己の存在価値と強く結び付いていた。


 _足が切られようとも前に進め。


それ以外に手段はないのだから。今の永遠永久と置丹では、蓮に今立ち向かえる手段はない。立ち向かったとしても死あるのみ。なら生き残れる手段を取ることが、最優先事項。それに異論はない。

 置丹は足をハタと止めた。置丹の額から汗が流れ落ちる。地面にまで滴り、吸収されていく。


「……なに逃げてんだ…」


内側から熱いものが込み上げてくる。それは怒りか自分への苛立ちか。


「なにも変わってない。なにも変わろうともしない。どうして変われない。

…変わるのが怖いからか、死ぬことよりもか。誰かが自分の代わりになってくれるからか」


_違うだろ。

置丹は歯を食い縛った。悔しさが込み上げて、叫び声へと変わる。

 情けない。自分で自分に失望した。逃げるならさっさと逃げれば良い。だというのに、何をくよくよ悩んでいる。

 気付けば置丹は自身の頬を叩いていた。

 一発で目が覚めないなら、何発でも。頬を叩き続けた。

 永遠永久を確実に助けるのなら、他の隊員たちに助けを求めるべきだ。田中は率先して動いてくれるだろう。肥河だって、なんだかんだと。助けるなら、外に助けを…


「シャキッとしろ。なにも変わっていない訳じゃない、同じでいることの方が難しいに決まってる」


ヒリヒリと痛む頬の痛みを感じとりながら、袖で汗を拭った。いつの間にか視界を覆っていた前髪をあげると、視界が明瞭になりスッキリした気がする。

 靴紐を結び直し、皺のついた制服を正す。


「……いくか」


置丹は後ろを振り返った。

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