↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/99

ワンデイ

 右、左、下からの切り上げ、そして意識を上に向けさせてからの足払い。避けられた場合はまた考え直す。


「だぁぁぁぁぁぁぁぁあ!なんで当たらないんだ!」


六甲は木刀を地面に突き立てた。木刀が軋み、ゆっくりと寿命が削られていく。自然と汗が流れ落ちた。六甲はまだまだ動く元気がある。しかしどれだけ攻めてもあっさりと避けられ続けられては、イラついてしまう。

 六甲の動きは次第に感情任せになり始めていた。

 永遠永久は涼しい顔で木刀を首の後ろに当てている。余裕の表情で、六甲を煽り挑発する。


「降参か?」


その3文字を聞いた六甲は首を横に振る。動けるのに諦める訳がない。寧ろ楽しくなってきたところである。木刀を構え直す。

 やる気のある六甲を見て、永遠永久は微笑む。上機嫌の余り、思わずヒントをあげるぐらいには。



「さっき、どうして当たらないと聞いたな。答えは簡単、動きが読みやすいからだ。戦略を頭で考えるのは面白いが、それで攻撃が一歩遅れているな」


長い髪を振り回しながら、永遠永久は六甲の攻撃に合わせて動く。六甲は果敢に攻めていくが、永遠永久には効いていない。華麗に避けられ、いつの間にか六甲の背後まで回り込むと背中に一本の筋をペンで書き込んだ。


「さあ、5本勝負だったな。既に三本目だ」


六甲は体を翻し、距離をとる。そして土を掴み、目眩ましに使った。

 宙に浮かぶ土を見て、反射的に永遠永久は目を閉じた。所詮は土。当たったところでダメージはない。六甲の狙いはそれだった。

 永遠永久が目を閉じた一瞬で六甲は距離を詰め、木刀を振りかざす。空気の揺らぐ気配を感じて、永遠永久は首を横に反らす。その僅かな角度を六甲の木刀が通り、形勢を立て直した永遠永久に木刀を弾かれた。

 片目を開き追撃を加えようとする永遠永久に、六甲はすぐさま木刀を諦めた。背後を見せた時点で一気に詰められて仕留められているのは目に見えている。ならば、攻撃に賭ける方が良い。

 袈裟斬りを仕掛ける永遠永久に六甲はフラリと避け、背後に回り込む。そしてペンを取り出し、背後に書き込む。


「一本目!」


続こうとするが、そうは問屋が卸さない。六甲の左目に眼前に迫る木刀が映った。思わず左手で受け止めた。


「良い反応速度だ」


永遠永久はそのまま押し込む。六甲は堪えられないと判断すると、身を低くして攻撃を避ける。重々しい音が響いた。

 だが、ほっと一息つく間もなく長い足が迫っていた。六甲は咄嗟に受け身を取り、勢いを殺せず地面に転がる。六甲はタイミングよく地面に手を付くとスピードを生かし、体操の要領で体を起こす。そして追撃にやってきた永遠永久を蹴り飛ばした。

 永遠永久は予想だにしなかった反撃を受け、地面に蹲る。上手く鳩尾に決まったらしく、堪えきれない吐き気に襲われた。


「…よく当てたものだ…そして」


永遠永久が顔をあげると、先程己がやったように左目に木刀の切っ先が向けられていた。


「そこでトドメをさせたら満点だ」


手を伸ばし、六甲が持つ木刀を握る。いつの間にか永遠永久の木刀は奪い取られていた。

 永遠永久は木刀をぐっと握ると己の胸に当てる。まるで心臓の位置に誘導するかのように。


「油断はするな。慈悲を与えるな。戦場で敵だの味方だの言い訳しているヤツは真っ先に死ぬ」

「ああ、知ってる」


真刀であれば、永遠永久は死んでいただろう。実践形式の模擬戦だったから死ななかっただけ。六甲がトドメを差す気でいたのなら、永遠永久は死の危機に瀕したはずだ。


「ここに妾の心の臓がある。形は歪だが、ここに差し込めば必ず当たるだろう」


 そう言って永遠永久は木刀の位置を固定する。上下左右には動かせない。動くのは前後だけ。永遠永久は前にしか動かさせるつもりはなかった。


「どうした。殺れ、私は敵だろう。お前の仲間を殺したヤツらの敵かもしれぬぞ」

「分かってる…だが、実際お前が殺してないだろ」


 追撃を仕掛けない六甲に、厳しい口調で永遠永久は問い詰める。しかし返ってくるのはあっさりとした肯定。語気は次第に弱くなっていった。

 まともな回答が返ってこないと判断し、永遠永久はため息をつく。上着を脱ぎ捨てると、陶器のような素肌が現になる。

 木刀をもったまま立ち上がり、そして六甲を見据えた。


「さっさと攻撃を仕掛けてこい。今度こそ殺すぐらいにな」

「気が向けばやってやるよ」


六甲は両手に持ち替えた。そして身を低く突きに力を込めやすくし、永遠永久の胸に木刀を押し当てた。永遠永久は切っ先を掴み、程ほどに加減をしながら押し返す。だが加減をしたといえども、尋常ならざる力がぶつかり合い。一般人を想定して作られた物が耐えられるわけもなく_

 次第に何かが破裂するような音がして、木刀の表面に亀裂が走る。そして完全に真っ二つに割れた。力を込める対象がなくなり、2人は体のバランスを崩した。だがそのまま転ける間抜けではなく、六甲は永遠永久の横を素早く通り抜ける。

 そして六甲は後ろを振り返った。永遠永久も同じように六甲を見ていた。考えは同じらしい。だが、考えを変えるつもりはない。六甲と永遠永久はお互いにもつ破片を即座にお互いに突き立てた。


「そこまで」


ささくれの飛び出す破片は大したダメージにはなり得ない。だからお互いにを実力を発揮しようとした。


「お互いに殺気を抑えろ。動物たちまで気に当てられている」


田中は六甲と永遠永久の腕を受け止める。狙いはお互いの眼球。体のどこかに突き立てようともダメージは与えられない。ならば、確実に痛手になる部分を。

 田中は2人の持つ木刀をあっさり破壊したあと、手についた木片を払った。

 止めにはいった田中に2人の幼子のブーイングの嵐が襲いかかる。


「本気じゃないし、当てそうになっても引っ込めた。加減は出来る」

「ああ、知っている。だが…永遠永久様、貴方との組手で俺が何度骨を折ったと思っている」


永遠永久はぐうの音も出ない。かつて訓練と称した体術指導で勢い余って田中の骨を折ったことが何度も(・)ある。そう数えきれないほどに。そのお陰で田中は丈夫になった。

 

「今良いところだったのに邪魔するなよ、田中」

「隊長もいい加減にしないと、いつか意識が戻らないほどの怪我をする。笑い事ではないと思うが」


第六隊から引き抜かれたとはいえ、元部下。六甲に対して本気で気持ちを伝えると、六甲は僅かに迷うことを知っていた。かつて未葉がとある男のために、任務の交代を頼んだように。

 如何にも六甲を心配している風を装って話しているが、その実、ただ静かにしてほしいだけであったりする。

 六甲と永遠永久は朝から手合わせを続け、既に3時間程経っていた。始めは心静かに見守っていた田中であるが、いつまでも止まない騒音にようやく重たい腰を上げた。


「大体、怪我をして手当ては自分で出来るのか。肥河さんや俺のことを頼りにしているようなら、手を貸さないからな」


2人の肩が揺れる。

 何を隠そう永遠永久は不器用。包帯を巻くことはできても留めることが出来ない。何度巻いてもほどける。よって巻き続ける永久機関の完成。見ていられなくなった田中が手を貸すのが恒例である。

 一方六甲は手当ては出来る。自分の怪我を手当てするのは慣れており、熟練の技術がある。しかし毎度怪我をすると骨を折ったり、巨大な切り傷を負う。つまり自分では十分な手当てを行えない。よって、筋内や肥河に世話になるのである。


「それはズルくないか」

「すまない。反省するとしよう」


態度は違えど気持ちは同じらしい。六甲と永遠永久は手を下ろし、地面に座り込んだ。田中は一息ついた様子の2人にタオルを差し出す。


「流石に強いな。自分の武器でなかったとしてもここまで押されるとは思わなかった」

「いや、妾とてギリギリだった。情けをくれなければ、妾は死んでいただろう」


永遠永久は六甲の頭をポンポンと叩く。

 子供のような扱いだが、永遠永久にとっては褒める行為であり尊敬、愛情を表すことでもある。

 

「田中、一回どうだ?」

「まだ死にたくないので遠慮させてもらう」


体は悲鳴を上げているが、六甲はまだ動き足りなかった。自由に動ける時間は久しぶりであり、書類も面倒な人付き合いもない。

 六甲の誘いを断り、田中は永遠永久の後ろに立った。そして長く下ろしていた髪を結わえる。素早い手さばきで整え、簪をつけると長い髪は一房のお下げに纏められた。


「長いと邪魔になる。これで少しは楽になる」


永遠永久は整えられた髪を一撫でする。確かに髪に気を遣うことがなくなれば、心置きなく動き回れる。自分では出来ないため有難い。


「じゃあ、第2ラウンド…いくか?」

「ああ、勿論。今度こそ殺しに行く」


物騒ではあるが、両者心を弾ませていた。

 結局その日の晩まで動き続け、夕食をまともに食べられないほどに疲労困憊になり、肥河に2人揃って叱られることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。