ニューエピソード
車に揺られ、長い坂道を上る。もうすぐ目的地だが、焦りが生じていた。間に合うだろうか、今すぐにでも引き返すべきだ。自分の中から沸き上がる感情を押さえつけ、少し苛立たしげに足を伸ばす。
車内には六甲一人。周りには誰もいない。相棒は目立ちすぎるがために基地に置いてきたが、代わりにもってきた支給の刀では心細い。落ち着くべく、柄を強く握った。
車から降りると、六甲はある一軒家の前に立つ。周りの家と同じような作りで、少し片付いた庭先が特徴と言えるだろう。
あらかじめ連絡をしてあるが、怖がらせないよう刀を人目につかないように後ろに回した。
「こんにちは、連絡させていただいた六甲と申します」
家の奥にまで届くように声を張る。あまり大声にならないように気を付けたが、うるさかっただろうか。少し騒がしい物音がすると、慌ただしい足音が近づいてくる。音からして女だろう。
「まあまあ、いらっしゃいませ。お待たせして申し訳ございません。六がいつもお世話になっております」
六の母親だろう女性は六甲を朗らかに家の中へと迎え入れた。少し話でもどうかと誘われたが、六甲は断りをいれる。目的は別にあり、早く終わらせなければならない理由があった。
六甲の訪問は急に決まったことであり、用件を未葉家に伝えられてはいない。今更玄関先で用を告げるのは、慌てさせて申し訳ないと思うが、事情が事情であるため仕方ないと許してほしい。六甲は深々と頭を下げて、用件を告げた。
「急にで申し訳ないのですが、未葉壱さんとお話をさせていただきたいです」




