第4話 私の名前はティナなのです!
「い、いえ! 私一人でやれます! だから……!!」
そう言って女は剣を構える。
必死に戦おうとしているのは伝わって来るが、震えで足腰が機能せず、まるで走れそうにない。
これはキツいな……。
何か戦わなきゃいけない事情が、この女にはあるのだろうか。
まあそれは帰ってから聞くとしよう。
俺は女の前に立ってハイオークと対峙する。
「ちょ、だから私一人で!」
「黙ってろ、今詠唱を始める」
そして俺は詠唱を始めた。
暗き闇の世界へと我が身を堕とし、悲鳴さえもその空間に飲み込まん。
唱え終わった後、ハイオークの足元から闇の魔法陣が出現する。
その闇はハイオークの動きを封じていき、みるみるうちに弱体化させる。
《ダークネス》
闇属性の中でも上級魔法であり、B級レベルなどの魔物に使うとこんな簡単に無力化することができる。
そして俺の闇魔法は少しずつハイオークを侵食していき、やがてハイオークは闇に包まれていった。
先ほどいたハイオークの姿はもうなく、魔石が落ちているだけであった。
俺はそれを拾って女の方に振り向くと驚いていた表情をしており、開いた口が塞がらないと言った感じで呆然としている。
ちなみに、女を助けた後どうするかまでは考えていなかった。
「大丈夫か? ここは一人で入るような場所じゃない、気を付けないと」
まあ俺はさっき追放されたから一人だけどな。
すると女は我に返ったのか、顔がキリッとして頭を下げた。
「助けて下さりありがとうございます! 私、どうしても実績が欲しくて……」
「実績? 何でまた」
俺の疑問に女は少し黙りこんでしまった。
なんというか、掴み所が無さすぎてちょっとめんどくさいな……。
俺はその微妙な空気から抜け出すために、話を変える。
「とりあえずギルド支部へ報告に行くぞ。そこで依頼達成の報告をしたら良い、俺はもう帰る」
「ええ!? 私はハイオークを討伐していないですよ! ど、どうして?」
「別にハイオークなんてたいしたことはない、俺はただのオークを討伐しただけだ」
俺はそう言って女に背を向けて歩き始める。
しかし俺の服の裾が引っ張られており、振り返ると女が裾を掴んでいるのが分かった。
女は少し恥ずかしそうにしながら言う。
「私の名前はティナです! あなたの名前は?」
「俺はアランだ」
こうして俺はティナという名の少女と知り合うことになったのであった。