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霊感がある2人が避暑地で見たもの  作者: きつねあるき
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第4章~道案内をするもされるも

「何何、どうしたの?」


 ぼくが訳も分からずフォローに入ると、左側にいた女性が連れの方を(たしな)めました。


「まあまあいいじゃん!教えてあげようよ」


「でもさぁ、これってナンパでしょう?」


 そこで、()かさずぼくがフォローに入りました。


「あの、すいません…、すぐ近くにあるクレープ屋さんは前もって焼かれた生地に具材を巻いただけって書いてあったんで、どうせならここに行きたいなって思って」


「そうなんだ、実を言うとね、私達さっきそこに行って来たんですよ」


「マジですか!やっぱ美味(おい)しいんですか?」


「そりゃあもう、ね~」


「悪いけど近くまで案内してもらえたりしませんか?」


「ねえ、どうする?」


「困ってそうだから行ってあげようよ」


「まあいっか、昨日もここに来てたから少し()きてたしね」


 その時、旧軽井沢銀座通りは観光客を中心にかなり混み合っていました


 なので、2列縦隊(じゅうたい)で中谷君と右側にいた女性を前にして、ぼくと左側にいた女性はその後ろについて歩きました。


 中谷君と一緒に歩いていた女性は、時折り笑いを交えて楽しそうに会話をしていました。


 それで、ぼくも一緒に歩いている女性とは何とか場を(つな)ごうと思いました。


 いろいろと話していると、2人は都内にある女子校の3年生で卒業旅行に来たとの事でした。


 昨日から軽井沢に来ていて、明日の夜には帰ると言っていました。


 ぼくらは都内にある男子校の3年生で、日頃から全く出会いが無い事を話すと、それは女子校でも同じですよと答えてくれました。


 中谷君の思い付きで、旧軽井沢で東京から観光に来ているの女子高生2人組をナンパするというプランを聞いた時は、本当にドン引きしました。


 何故なら、全国から来ていてもおかしくない程有名な観光地だったからでした。


 しかし、よくよく観察していると、方言だったり雰囲気(ふんいき)だったりで、何となく判別出来る事が分かりました。


 だとしても、この2人組に声を掛けたのは奇跡的(きせきてき)でした。


 それは、その女子校がうちらが通っている男子校から2駅しか離れていなかったからです。


 人によっては、これを運命的な出会いと思われる方もいるかも知れません。


 ですが、この時のぼくらはそんな事を考えている余裕すらありませんでした。


 道が混んでいてなかなか先にに進めない時に、ぼくが偶々(たまたま)出会いについて話したのが切っ掛けで話が(はず)みました。


「中学生の時はモテモテだったけど、男子校になってからは全く出会いがなくなったから、(ひま)さえあれば腕相撲(うでずもう)をする毎日ですよ」


「そうなんですか、女子校だととにかく彼氏が出来ないんで男友達がいる人に紹介してって(むら)がるんですよ」 


「へ~、イメージしていたのとはけっこう違いますね」

   

「秋には女子校で文化祭があるので、その時にカップルで回っていると羨望(せんぼう)の眼差しを受ける事が出来るんですよ」


「これ見よがしに見せつけるってやつですね」


「そうなると、どこで知り合ったの?って質問攻めにあうんですよ」


「それはそれで面倒ですね」


「ところで、軽井沢にはいつから来ているんですか?」


「ぼくらは、昨日から来ていて明後日(あさって)帰るんですよ」


 そう言うと、彼女はぺろっと舌を出してから、


「あの~、明日は何をしているんですか?」


 と、真顔で聞いてきたのです。


 ぼくは、明日こそはサイクリングをする気でいましたが、その事について中谷君と話し合っていなかったので、


「特に決めていないかな…」


 と、答えると、彼女は軽く(うなず)きました。


「私達は明日が最終日なので塩沢湖レイクランド(現在の軽井沢タリアセン)に行くんですよ」


「へぇ~、そこってどの辺にあるんですか?」


「中軽井沢駅からタクシーで10分位だったかしら?軽井沢駅からもバスが出ていると思うから調べてみたらどうですか?」


「そんな所があるなんて初めて知りましたよ」


 すると、彼女ははにかみながら、


「私達10時に入園するのでよかったら一緒に来ますか?」


 と、言ってきました。


 ぼくはその発言にとても驚きましたが、


「そうだなぁ、連れが乗り気だったら行きますよ」


 とだけ答えました。


 すると、彼女はぼくの顔をじっと見ながら、


「今日は会ったのが1回目だからこんな感じだけど、明日会えば2回目なんでもっと仲良くなれそうですね、それで明日もし来てくれたら私達の名前とポケベルを教えますよ」


 と、ゆっくりとした口調で誘ってきたのです。


「それは楽しみだね」


 と、話していたところで手焼きクレープのお店に到着しました。


 すると、想像以上に長蛇(ちょうだ)の列になっていて、40分待ちと表示がありました。


「あっちゃー!もうこんなに混んでるんだ」


「どうします?並ぶんですか?」


「東京でもクレープのお店はあるんでぼくは止めとこうかな」


「だったら私達とこの先にある美術館でも行きませんか?」


「ぼくはいいですけど中谷君はどう思う?」


 きっと奴も喜んでこの話に乗って来るに違いないと思っていると、思い掛けない返事がきました。


「いいや、俺はここに並ぶよ」


「そ、そうなんだ…、じゃあこれでね…」


「あっ、今迄道案内ありがとうございます」


「いえいえこちらこそ」


 そこでぼくはサッと列から外れてさっきまで一緒にいた女性に話しました。


「せっかく誘ってくれたのにごめんね」


「いいのよ、明日の事を考えてくれればね」


「おーい、そろそろ戻って来いよ、整理券配ってるから」


 中谷君にそう呼ばれると、ぼくは急いで列に戻って行きました。


 待つこと35分、何とか大人気の手焼きクレープにありつく事は出来ましたが、ぼくの心中は複雑でした。


「別に、ここのクレープが食べられなくても皆で美術館に行けば良かったのに…」


 と、思ったので、中谷君にその事を話すと、


「だって、ここのクレープが食べたかったんだもん!」


 と、悪びれずに言ってきました。


「マジか…、ぼくもあんなに頑張ったのに」


 とは思いましたが、これでナンパが終わりなら、今度はぼくの楽しむ番だと思って頭を切り替えました。


 しかし、その思惑は外れて、再び旧軽井沢銀座通りの入り口付近にナンパをしに戻ったのです。


 中谷君は、また同じ文言で声を掛けようと思っていましたが、午後からは親子連れの観光客が多くその(すき)すらありませんでした。


 しばらくの間、中谷君はイライラしながら人の流れを見ていました。


 ぼくは、2メートル以上も後ろにいましたが、もうナンパの見込みが無いと思って中谷君に近付いて行きました。


 すると、不意にぼくの(かた)をトントンと(たた)いてきた人がいました。


 振り返ると、中谷君と同じガイドブックを持った若い女性が2人いました。


「すいませーん、ここのクレープ屋さんに行きたいんですけど分かりますか?」


 ナンパの口実(こうじつ)に利用していたお店を、東京寄りの千葉県から観光に来ていた女子高生から(たず)ねられたのですが、今までぼくらはこんな事をしていたのかと思ってハッと我に返りました。


 想定していたのとは逆のパターンでしたが、ここは素直に行っとくべきだろうと思いました。


 すると、中谷君が二つ返事で引き受けました。


「いいですよ、ちょうど俺らもそっちに行くのでご一緒しますよ」


 今回は、男女ペアにならないまま2列縦隊(じゅうたい)でお店向かうと、さっきよりも列が短くなっていて30分待ちになっていました。


 ぼくは、今度こそはクレープを食べた後に遊びに誘おうと思って、2人の女子高生の後ろに並びました。


 待ち時間が30分もあれば、まだ行っていない芸能人のお店だけでも一緒に回ってもらえないかと交渉する気でいました。


 しかし、その考えも(ことごと)(くつがえ)されました。


 何と!一緒に並んでいると思っていた中谷君が、いつの間にか向こうの方に去って行くではありませんか…。


 ぼくは、(あわ)てて列から外れました。


「おーい、待ってくれよどこに行くんだよ」


「ん、何だよ、もう観光客は家族連ればっかだから無理だろ」


「何言ってんだよ!一緒に来た女子高生とクレープを食べながらナンパすればいいじゃないか」


「バーカ、俺は朝飯をたっぷりと()ったんだからもう食えないの分かるだろ!」


「はぁ?お前が食えなくてもあと1個位ならぼくが食えるよ!」


「嫌だね、それに東京からの観光客でもないだろうが!」


 それを聞いて心底ガッカリしたので、これ以上は言い返しませんでした。


 それと、中谷君のナンパのスタイルが見えてきました。


 彼は悪魔(あくま)でも自己中心的で、思い描いた通りに物事が進まないと決して納得する事が無いんだなと…。


 それにしても、何でこうもタイミングが悪いのか、こちらの思惑とは逆になるのか…、とは思いましたが、これでやっと初めてのぼくのナンパは終了しました。

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