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魔法使いになりたい。


 その夜、魔法で食器を洗う真夜の横で食器を拭きながら、コハクは気になっていたことを聞いてみた。

「真夜さんは、シャルムが来たら嬉しい?」

「え…あれが、嬉しそうに見えたの?」

 真夜が信じられないという顔で返す。


「ううん、でも、ほっとした感じがする」

 コハクの言葉に、真夜は苦虫を噛み潰したような顔で声を絞り出す。

「まあ…付き合いは長いし、正体バレないようにとか、色々気を使ったりはしなくていいけど…」

「おんなじ魔法使いだから?」

「そうねえ、苦手だけど」


 ふうん、とそれだけ答えて一拍開けた後、コハクは尋ねてみた。


「僕が魔法使いになったら、ほっとする?」

 真夜の指が一瞬、ピクリと止まった。


「魔法使いにはならないわよ」

 いつもより冷たい声で告げられた答えに、コハクは少し面食らいながら返す。

「なんで?ぼくも真夜さんと一緒の魔法使いになりたい…!」


 すると、真夜は食器洗いの手を止めて、くるりとコハクに向き直った。

「コハクはこの街好き?」

「うん、友達たくさんできた!」

「良かったわ。」


 コハクの答えににこりと微笑んだ後、真夜はコハクの頭を撫でながら、「でもね」と続けた。

「コハクだけならずっとここに居られるけど、魔法使いの私は、あそこの十年時計の紫の針が十二時のところに来るまでに引っ越さないといけないのよ」


 真夜が指指した壁掛けの時計は、周りを十個の宝石で取り囲んでいて、針が三本あった。黒い時針と分針のほかにある紫の針は、ひどくゆっくり進んでいて、一二時から数えて四つめの宝石を過ぎたあたりを指していた。

 十年時計と呼ばれるこの時計は、形はさまざまだが、ほとんどの魔法使いがこれを持っていた。


「なんで引っ越さないといけないの?」

「それはね、私や他の魔法使いたちが安全に暮らしていくために、みんなで守ってるルールだからよ」

 少し要領を得ていないコハクの顔に、真夜は少し早かったかなと、思いながら続けた。


 魔法使いに対する周囲の反応は、その地域の人の気質や信仰などによって大きく異なる。

 ただ、共通するのは、どの地域でも魔法使いは異質な存在で、良くも悪くも『特別な扱い』を受けることだ。 


 だから、魔法使いたちは、迫害も利用もされないように、自分たちの正体を隠してきた。


 正体を隠すには、あまり人と近づき過ぎるべきではない。違和感が確信に変わるその前に、親しくなった人たちとは、離れなければいけない。

 いつしか「同じ街に10年以上とどまらない」というルールが協調性のない魔法使いの中で、唯一かつ絶対の掟になっていた。


「魔法使いはどんなに仲が良くなった人とも、十年以内にバイバイ。コハクがもし私と引っ越しても、人間ならまた会いに行けるけど、魔法使いはそれもダメ。そんな暮らしがずっと続くの…そんなの寂しいでしょ?」


 真夜の言葉に、ここにきてから、ずっと一緒に遊んでくれた幼馴染たちの顔が浮かぶ。

 余所者でも気にせずに仲良くしてくれた彼らと離れるのはとても、

「寂しいけど…あっ」

 心の声がでてしまい、思わずコハクは口を押さえた。その様子を見た真夜は、少し眉を下げて「ごめんね」と言った後、コハクの頭を撫でながら言い聞かせた。

「だからね、魔法使いなんか、なれない方が良いのよ」


 でも、僕が魔法使いにならなかったら、いつか真夜さんはあいつと一緒にどこか遠いところへ行ってしまう…そんな気がしたコハクは、それが何よりも怖かった。

「でも…」

 ただ、それを口に出したら、今すぐにでもそうなってしまいそうな気がして、コハクは言葉がうまく出てこなかった。


 何も言えないまま俯くコハクに真夜はぎゅっと抱きしめたい。

「私からすればコハクが羨ましいわ」

「そうなの?」

 首を傾げるコハクに、真夜はまた少し眉を下げて微笑んだ。


 そして、この話はこれで終わり、とでも言うように、流しに向き直った真夜は、スポンジを手にとって食器を洗い始めた。


【おまけ】

「真夜さん、あぶらよごれ、取れてないよ」

「あらやだ…何回擦っても落ちないのよ」

「ぼくも手伝うから、もう一回洗おう?」


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