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思い出を描く

 次の日、晩御飯を食べた後、魔女はコハクに提案をした。


「絵本作ろう」

「えほん?」

 魔女は表紙も中身も真っ白の本を手にしていた。


 意味がわからず首を傾げるコハクに、魔女は「だから」と続ける。

「お父さんの得意な料理、名前が思い出せないなら絵で書けばいいのよ」


 まだ意味が飲み込めないコハクだが、魔女はお構いなしだった。

 はいっとコハクの手をとって真っ白なページの上に載せて「お父さんの料理、どんなのだった?」と問いかけた。


 コハクは、よく分からないまま、魔女の質問に、先日は名前が出なかった料理を思い浮かべる。


「えっとねー、お魚が入っていて、野菜もあって、いろんな香りがしてパンとたべたらおいし…」

 思い出しながら言葉をあげていたコハクは、手を乗せている本から、自分が思い描いた通りの絵が浮かび上がっていることに気がついて、言葉がとまった。


「すごい…わー、これ!これほんとに美味しかったんだよ!」

「コハクの思い描いた事が絵になる魔法をかけたのよ。思い出したことや、忘れたくないことはこのノートに書いたらいいわ」


 忘れたくない事、と言われて真っ先に思い浮かんだ顔たちも、コハクの思い浮かべた料理の上下に現れた。

 その一人一人をコハクは魔女に紹介する。紹介する時に思い浮かんだ思い出のものや光景も、コハクが話すたびに浮き上がってきては、イラストの顔の周りを彩り、ノートは一気に賑やかになった。

 魔女は人差し指を指揮棒のようにふり、コハクの絵の周りに、人や料理の名前やコハクの話す解説をつけてやった。


 その後、魔女が少し目を離した間にもどんどんページは埋まったようで、後から見返すと、その中には魔女の姿もあった。あったと言うか、一ページ丸々使われていた。

 青い空と白い壁が背景の黒いワンピース姿の絵を見つめて、魔女は目を丸くした。

「なんで、私まで」

「初めて会った時のまよさん。忘れたくないもんね」


 他にもいっぱい書く!とニコッと笑うコハクに、魔女は呆れたように返す。

「良いけど、五冊しか作れてないから、あとは自分で紙からはみ出さずに描けるようになりなさいよ。」


 先日、魔女を描こうとして盛大にはみ出して、机を汚していたことを思い出しながら注意すると、コハクは「がんばるー!」と軽い返事を返したあと、こちらを向いて改まった。

「まよさん、ほんとうにありがとう」

「どういたしまして」

 魔女は小さな頭を撫でようとして、その下にある鼻をつまみながら笑顔で返した。

 すると、コハクは両手で鼻を押さえながら渋い顔をした。

「おはなは、つまむのやめてください…」

「あらやだ、つい…」


 その後も、コハクは新しい絵を生み出し続け、気を抜くと夜中じゅうやりかねない様子だったので、魔女は首根っこを捕まえて、寝室に運び込んだ。

 それでも絵本は手放したくない様子で、ぎゅっと抱いたまま、眠ってしまった。


「こないだの落書きのお礼よ」

 涙の跡のついていない寝顔を見ながら、魔女はふふ、と笑った。

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