魔法にかけられて
2022年6月24日時点
本当にすみません!数話投稿漏れがございました。
21話「冷たい紅茶と街の風景」
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28話「黄色の置き手紙」
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43話「真夜はどうしたいの?」
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45話「國潰しの魔女」
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ちりりんと鈴を揺らせば、すぐそばで本を広げるコハクが苦い顔をした。
「師匠、もう夜ですよ」
魔法をかけてもらってから、コハクの音は本当に聞こえなくなった。
いつもうるさいくらいに家中に溢れていた音が、全く聞こえないのは、なんだか落ち着かなくて、街で鈴を見かけてはつい買ってしまっていた。
でも、どれもコハクの音とは違っていた。
それでも気休めになるので、しばらくは暇な時に鳴らしているのだが、すぐに聞き飽きてしまう。
ちなみに、飽きた鈴を小さいお客さんに、お使いのご褒美としておまけで渡してるおかげで、子供たちから、鈴おばさんの薬屋と言われていることを真夜は知らない。
「これも違うんだよなぁ」不満そうにテーブルの上に置いた鈴を突いていると、 パシッと手を掴まれた。顔を上げるとコハクが少しむすっとして、隣に座っていた。
「鈴に嫉妬しそう。」
「え?」
コハクは「最近、急に好きになりましたよね?」と自分が注意したくせに、鈴を摘んで、ちりりんと耳を近づけた。
「なんでですか?」
「昔気に入っていた鈴の音を思い出して、なんとなく、また聞いてみたくて…うん、なんとなく」
真夜は鈴を返すコハクに目を合わさないようにして答えた。
だが、その反応を見てコハクは僅かに目を細めた。
「ふうん…で、目当ての鈴はなかなか見つかってないんですか?」
「…そんな感じ」
「どんな音を探してるんですか?」
なんて答えたらいいんだろう、真夜は何度も何度も聞いた音を思い出しながら言葉を選んだ。
「繊細で綺麗な音よ…澄んだ冬の朝みたいにキラキラしていて、初夏の風みたいに優しいし、春や秋の草木のように鮮やかに表情が変わるの」
綺麗すぎて持て余した、その音色を思い返す真夜の様子に、コハクはすこし口を尖らせた。
「鈴が羨ましいですね。俺の頭も音が鳴ったらいいのに」
どんな音が鳴るんだろう、とコハクが頭を振り出すので、真夜はその動きに併せて鈴を小さく振ってみた。いつかの初めて聞いた時の彼の音が重なって聞こえた気がした。
鈴を振る真夜に気づいたコハクはおかしそうに笑った。
「僕の音はどうですか?」
「…さっきと同じ鈴よ。似てるけど音が違うわ」
残念、と笑ったコハクは窓の近くにある時計を指さした。
「でも、今日はもう遅いので、そろそろ本当にダメです。」
「ああ、もうこんな時間なのね。」
時計の短針と長針はもうすぐ真上を指そうとしていた。ちなみに、紫の針は八時ごろを指していた。
「真夜さんの準備は終わったんですよね、僕も下で少し明日の用意してから寝ますね」
コハクはそう言った後、真夜の額に顔を近づけた。真夜はすかさず手で顔を押し退けて阻止した。
その反応にも慣れた様子のコハクは、ケチと頬を一瞬膨らませた後、笑って階下に降りていった。真夜は、コハクが戻ってくる前にと、急いでテーブルの鈴を集めて寝室に駆け込んでベッドに傾れ込んだ。
シャルムとバイオレットは解けてるっていうけど、あの師弟の言うことは信用できないし、絶対解けていない。
むしろ中途半端に解けたおかげで、不意にぶり返すから本当に心臓に悪い。
コハクとのおやすみ前の軽い攻防と、解けもしない魔法をひとしきり呪うことが、いつのまにか、真夜の寝る前の習慣になっていた。
【おまけ】
「あれ、それかわいいね」
シャルムが声をかけると、目の前の女性は嬉しそうに笑った。
「ああ、甥っ子が鈴おばさんにもらったのよ」
「鈴おばさん?」
「あそこの薬屋よ、鈴集めがマイブームらしくて、いらない鈴を子供に渡すのよ」
「へえ…」
「どれも綺麗だから、泣いてる子供が泣き止むって評判なんだけどね」
「甥っ子ったら、綺麗な音だから私にくれるって…きっと今にいい男になるわよ」と微笑む彼女の横で、シャルムは鈴おばさんとあだ名をつけられた魔女の顔を頭に思い浮かべた。
「ほら、言わんこっちゃない」
耳を塞げば塞ぐほど、心にその音が灼きつくだけなのに。
まじないとのろい、真夜にかけた呪いはどっちになったんだろう。
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