14.異世界に繋がる好奇心
――スイスの錬金術師である『パラケルスス』が提唱したと言われる四大精霊。サラマンダー・シルフ・ウンディーネ・ノーム。
特にノームは12センチ程の小さい身体をした小人ながら、鉱脈の場所に詳しいと知られている。
――そして、オリジンゲームワールドからなる異世界。そんな四大精霊の意志を継いだゲーム戦士・エレメンタルナイツにもその習性らしきものがあった。
万物のゲームの原点にして、仮想空間『ゲームワールドオンライン』の始祖である異世界。時系列が異なるパラレルワールドに我々の想像を超えるファンタジーな世界観があるのは予想出来るでしょうが……
レトロゲーム筐体が眠る鉱脈なんて、絶対に聞いた事が無いでしょう!!!
「夢みたいやな……! この岩に埋められてるのが皆レトロ筐体なんか……!?」
エレメンタルナイツとの格闘ゲームの際に、フィールド外の洞穴に吹っ飛ばされた豪樹はその中を見るなり驚愕した。
鉱脈が岩の節々に宝石や鉱石を埋め込まれているように、この洞穴にはなんと古のゲーム筐体が埋め込まれているという無茶苦茶な情景。
……と言っても、これは鉱石でコーティングしたショーケースに筐体を入れてるだけ。周りを見渡せばそれらがジャンル毎に仕分けされており、ランプの明かりで足元も整備されている。まるで自然が造り上げた博物館みたい!
「ホンマに博物館みたいや。こんなファンタジーな洞穴に誰がこんなモンを……」
と、飾られた筐体をケース越しに触れてじっくり見惚れる豪樹さん。すると、
「コリャーーーー!! ワシのコレクションに触るなーーーーー!!!」
弾丸の如く洞穴に突っ込んできたのは、この博物館洞穴の主であり、只今豪樹と絶賛ゲーム中のノム・ジーであった。
「触ってへんがな! 見とっただけやで!!」
「じゃかぁしいわ!! レトロの素晴らしさを知らん奴は大概そんな口叩いて汚い手で触るもんじゃ! さっさとどかんかい!!」
どうやらここはノムさんのプライバシーに関わる洞窟だったようで。そこを不本意に土足で踏み込んだ事と私物に手を触れたと思ったのか、逆上全開ただならぬ顔で怒っている。
「んなもんジーさんの偏見やろ!? ワイにも分かるがなこのペニーアーケードの雰囲気漂う『バッフル・ボール』の筐体が―――」
「なぬ!!?」
と、先程まで怒ったノムさん。何を思ったか急に憤りが収まり豪樹に問いかけた。
「……お、お主。何故に『バッフル・ボール』の筐体を知っとるのじゃ?」
「たまたまや、友人がレトロゲーム扱ってるのを見てな。フリッパーも電飾も無くただボールを打ち出して穴に入れるだけのゲームやが、後のピンボールの原点になったゲームや」
「お前さん、詳しいのぉ〜! これはワシが最近この鉱脈で見つけ出したコレクションを知ってたとは!!」
何やら時系列がややこしい話になってますが……、このオリジンゲームワールドは、歴史の成り行きも現実世界とは大きく異なるパラレルワールドな訳で。
今のバッフルボールは1931年のアメリカに登場したゲームですが、オリジンゲームワールドでは500年前から既に発見された事になっているのです。と言う事は、最先端ゲームも既にオリジンには存在していた……って事も無くはないと解釈して良いでしょう。
「成程のぉ……、お前さんらの時代の若いもんにも古いゲームを知っとる者が居たのか……!」
「ゲームってのはただ最先端を進むだけでは進歩せぇへんとワイは思いますわ。パズルや格ゲーやって昔の成り行きってものがあるさかい、そこを探し求めてそこから初めて新しい知識や見解がある。それもまた強さの糧になるんですわ!」
『古きを訪ね、新しきを知る』。このような導きを俗に【温故知新】と言います。豪樹さんはこの教えを今も尚大事に受け止めていたのでした。
「お前さん……、中々面白い奴じゃのう――!」
この時、エレメンタルナイツのノムさんの心に確かに、異邦人に対する好奇心が芽生えた。そしてこれは彼だけの事ではなかった!
▶▶▶ NEXT▽
――変わって場所は『ウンディーネ・マリン』。海底深くではディーナが指揮する『ウォーターパズル・アラカルト』なるパズルゲームリレーに翻弄するレミと穂香の姿が。
「どうです? 海底での水圧、浮上感を利用してパズル内を水没させる遊奥義の力を。予測不能な展開に脳内が追いつくにも時間が掛かる、貴方らが焦ってゲーム終了する確率も私からは90%と計算されてますよ?」
等と理論的な煽りも入れつつ、二人を無機質に見つめながら淡々とゲームをこなすディーナ。しかし。
「そんなの、頭を捻ればちょちょいよ!!」
逆算思考も軒並み優れた知能を持つレミ、GTR構築中の積みぷよが水没しようとも連鎖を繋ぐ核を見極め、連鎖の引き金を引いた!! 若干のズレはあったが、それでも4連鎖の消費となった!
「……10%の死角を突いてきましたか」
「そんな数理あてにならないわよ! ただ頭もぷよの積み具合も逆さにひっくり返せば簡単よ!!」
水没した今は積んだぷよが上に浮き上がって、落ちてくる新たなぷよは逆に水底から浮くように上へと上がっていく。
――この逆転作用を、レミは困惑しながらも見極めたのだ!!
「穂香ちゃん! 焦んないで先ずは同じ色を四つ詰めるとこをじっくり探して! 落ちるよりも浮く方が、底へ積み終える時間も長いわ!!」
「成程……分かりました! レミさん流石です!!」
なんとレミは自由落下と浮上する時間の差をも計算して穂香にフォローした。調べてみると確かに浮上する側が若干思考時間を長く稼げている。無意識であると思いますが、レミさんマジで頭が良いんでしょうね!
(……二人の友情指数、60%。畠田レミの知能指数、測定不能……。知りたい、彼女の心を、私のものにしたい………!!)
……ん? ディーナさん、何か言いました……?
▶▶▶ NEXT▽
〔シルヴィー 4―0 槍一郎&倭刀〕
「ほらほらどーしたどーしたー! 私のビューティフォーな風の戦術に為す術もないのかしらーー!!」
ご機嫌上戸に上昇気流。気分アゲアゲな風が吹き荒れながら、『シルフ・ウィンドバレー』では槍一郎と倭刀が決死の勢いでエアホッケーに挑むも、シルヴィーの気まぐれな性格と風読みを利用しての戦術に圧倒されていた!
「何て事だ、彼女の行動パターンが全く読めない!」
「読めってのが無理ゲーでさ先輩! 上も下も右も左もピューピュー吹いてる風のせいでパックの動きも不規則や! ちくしょう!!」
直感に優れた槍一郎は困惑し、倭刀は吹き荒れる風と無得点の状況に苛立つ様子。
そうしてる間にもまた、パックはフィールド中央にセットされて再びシルヴィー側に寄ってきた。
「キャハハハッ、来たきたー☆ 今度は猛烈な突風で行っちゃえ〜!!」
完全に余裕ぶったシルヴィーは、目も塞ぐほどの突風を呼んでその勢いでまた点数を稼ごうという戦法か。
だが毎度毎度風に煽られる倭刀はとうとうそのストレスから理性のリミッターが解除された。その瞬間。
「だぁぁぁぁぁシャラクセェッッッ!!!!!!」
破れかぶれに振りかぶるマレットの右ストレート! その衝撃は突風の圧力をもぶち破る反動スピードによってとうとう……!!
――――シュコンッ!!
〔シルヴィー 4―1 槍一郎&倭刀〕
勢い任せが功を奏したか、倭刀のカウンターによって初得点だ!!
「いやぁ〜ん嘘ぉ〜〜!!?」
これにはシルヴィーも予想は出来なかったようだ。そしてこの手応えに倭刀はある事を閃いた。
「そうや! コイツに勝つにはパワーが必要なんや!! シルヴィーはマレットを持ってへん、だから俺らよりも防御に劣るのを利用してゴリ押ししてやりましょ!!」
「それは考えてもいなかった作戦だな! よし、やってみよう!!」
倭刀のゴリ押し作戦に乗った槍一郎。心做しか彼らの表情も明るくなった所をシルヴィーは見逃さなかった。
(そうそう、その顔を待ってたのよ! 楽しくなければゲームじゃないわ!)
―――たとえ時系列が全く異なる異世界であろうとも、ゲームを核に交流し、互いに興味を持つ心が芽生えた時。それを人は【絆】という心の形を生むのであろうか……!?
そしてゲームを終えた時、彼等の待つ心情の変化、勝敗の先に待つものは一体何であろうか……!!?
――本日のゲーム、これまでッッ!!
▶▶▶ TO BE CONTINUED...▽