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「見えてんだろ?」
オカルト研の富樫は、ふつーにそんなことを言う。
で。
ここで俺はどうしたらいいんだ?
素直に肯定する?
じょーだん。
そんなことしたら、ますます大騒ぎになるって。
俺、昔から勘だけはいいから。
言っていいことと悪いことはわきまえてんの、いちおー。
「つーか、誰? 本間って」
「この前飛び込み自殺した子」
「あれ、自殺じゃねーだろう?」
「新聞だとな。でも実際はそうだったらしいぞ」
「まさか」
「何で否定すんの? 否定する材料でもあんの?」
「……」
「本人がそう言ってた?」
「知るか」
「なあなあ、言ってたのか?」
「言わんし!」
「何で?」
「知るか」
「写真見たけど、結構可愛い子だったじゃね?」
「知るか!」
「可哀想だよなー。まだ処女だったかなー」
なーんて不謹慎なことを、あいつが言うから。
俺、反射的に足出ちゃった。
昔からそう。
怒ると手より先に足出ちゃう。
それで何度兄貴にボコられたことか。
「ちょっ! いてーんだけど?」
「公衆の面前で、アホなこと言うな! 天下のドーテーがっ!」
「ばっ! 馬鹿! お前こそ、こんなとこで何てこと言うんだよ!」
富樫が真っ赤になってそう叫んだ途端。
隣のばーちゃんが吼えた。
俺等の何万倍もの声量で。
「ちょっと!! あんたらうるさいんだけど!!!」
…はい。
すんません。
ごめんなさい。
てか、悪いのはこいつで。
俺は何もしてないんですけど?
…したか。
したよな。
ごめん。しました。
ま、いいや。
もうそろそろ、ガッコ着くし…
@ @ @
富樫のせいで、俺はまたまたブルーになって。
授業も聞いてんだか聞いてないんだか。
思い出すのは、ネットで見たまゆちゃんの写真。
小さな顔。
控え目な微笑み。
真っ直ぐな髪。
あんま長くはなかった。
いい感じで頬にかかってる。
化粧っ気なし。
あれ、高校の頃の写真だよ、絶対。
何かそんな気がする。
俺、一応道民だけど。
北見には行ったことなかった。
免許もねーし、友達もいねーし。
遠い親戚はいるけど、交流ねーし。
それでも。
まゆちゃんがどんな高校生だったのかは想像出来る。
スカートはプリーツ。
セーラーじゃなくてブレザー。
あのリボンってどうやって結ぶんだ?
最初からああいう形に出来てんのかな?
細っこい脚。
黒い長靴下。
茶色の革靴。
トラッドっちゅーの?
あの学校指定の奴。
彼女、好きな奴はいたんだろーか。
付き合ってた奴とか。
勉強で、それどころじゃなかったかな。
まさか。
今時、そんな女いる訳ねーし。
格好いい彼氏とかいたんだろーな。
でもって、遠距離だったりして。
毎日メールとかしてたんだろーな。
だとしたら。
そいつ、相当参ってんじゃね?
俺なんかよりずっと。
正門から出ると。
俺の足は真っ直ぐ、地下鉄駅へ向かってた。
昔っから、霊感強くて。
いろんなユーレイさんと交流してきたけど。
こんな気分は初めて。
何ていうか。
感化されたというか。
呼ばれてるというか…
ねえ。
何か、ヤバくね? 俺。
ちょっと、本気入ってるっぽくね?
やだやだ。
らしくねー。
でもさ。
会いたいの。
まゆちゃんに。
今度は、ちゃんと話したいの。
もし、向こうにその気があればって話だけど。
玉砕したら、笑ってやって。