5
翌朝。
俺はとりあえず、さっさと兄貴を叩き起こして。
ぶつぶつ言うあいつに、カバンを突きつけた。
その時にはもう、動いたりはしてなかったけど。
念には念を入れないとね。
「何、これ?」
「いーから」
「何で俺がこんなの開けなきゃなんねーの?」
「ま、深く考えず」
「意味判んね。テメーでやれよテメーで」
などとぶつぶつ言いながらも。
兄貴はさくっとファスナーを開けやがる。
俺は反射的に、背中を向けたけど。
背後から聞こえてくるのは、ズームインの音声のみ。
…?
何で?
何も起こらんの?
恐る恐る振り返ると。
兄貴はあぐらをかいて、こたつに潜り込んでる。
さっきとおんなじ格好で。
あー?
ちょ、テメー。
ちゃんと見たのかよ?
「…兄貴」
「ん?」
「何、入ってた?」
「何って。心理学の本と、ペンケースと、英和辞典」
「……」
「それがどうしたんだよ?」
「…いや。何でもないっす」
すっかり意気消沈した俺。
じゃああれは、単なる通りすがりってこと?
それとも、何かの間違い?
…ま、いっか。
そう言いながら道新見てる俺。
ほっといて。
所詮、乙女座Bだから。
今日は講義なし。
だから、兄貴に付き合って大通まで出ることになったんだけど。
地下鉄にはやっぱり、優香タン(←仮名)の姿。
昨日とちょっと服が違う。
ゴスロリっちゅーの?
これがまためっちゃ可愛い。
しかもね。
今日、気付いたの。
彼女、絶対俺に惚れてるさ。
何で判るって?
だって。
彼女のこと見てるの、俺しかいねーし。
彼女が見てるの、俺だけなんだもん。
…単純?
@ @ @
大通で降りるまで、俺は何だか妙にテンション上がってたけど。
兄貴と一緒に地上に上がった途端、がっくり落ち込んじゃった。
だってね。
冷静に考えると、やっぱありえねーもん。
地下鉄でしか見えないユーレイなんて。
実用価値ゼロじゃん。
とは言うものの。
PARCO行って、洋服見てる間も。
タワレコ行ってる間も。
俺はどーもガラスばっかり見ちゃう。
ひょっとして、ユーカたん(←仮名)がいるんじゃないかって。
でも、やっぱりそこに彼女はいなくて。
変な話だけど。
何となく寂しかったりする。
兄貴は何も入ってねーって言ってたけど。
あの時俺はばっちり感じたんだよね。
何かをお持ち帰りしちゃった気配って奴を。
だから。
多分さ。
見えなくても、彼女は意外と近くにいるんじゃねーかって。
そんな風に考えたらさ。
エロ本手に取るのもためらう訳よ。
やーね、俺ってば。
何でそんな可愛いの?
てか、判り易いの?
・・・やってらんねー。
こいつ置いて、さっさと帰ろうっと。