〜エピローグ〜
「すみませーん」
「はい?」
「札幌銀行本店には、どっち行ったらいいですか?」
「ここ真っ直ぐ行くと、西改札ありますから。そこ出て、3番出口んとこです」
「ありがとうございまーす」
休憩終えて、戻ろうとしてる間も。
俺、何故か、ひっきりなしに呼び止められる。
「あ、ちょっと!」
「はい?」
「霊園前って駅なかったっけ?」
「昔あったんですけど。イメージ悪いからって、南平岸って駅名に変わったんですよ」
「じゃ、平岸霊園には、南平岸で降りればいーの?」
「ですね」
すたすた去っていく男の足元は、何故か半透明。
これは切符を買う必要のないお客さん。
まあ、でも。
こういうのにも、いい加減慣れた。
「あのー」
「はい?」
「琴似と新琴似って違うんですか?」
「違いますねー」
「西区役所はどっちなんですか?」
「琴似ですね。ここから宮の沢行き乗って、6つめの駅です」
「判りました。どうもー」
「いえいえー」
なーんてやってるうちに。
部署へ戻るのがすっかり遅くなっちまった。
「こら、三国! また油売ってたのか?」
「いやいや、ちょっとお客さんに捕まってて…」
「そんな暇があったらCAIでもやっとけ!」
「あいあいさー」
先輩のお小言は聞き流すに限る。
制帽をかぶり直しながら、俺は再び構内を歩き回って。
危険物がないか、不審者がいないか、一つ一つ点検していく。
あれから5年。
富樫は俺より先に大学を出て、岩見沢でセンセイやってる。
他の連中もそれぞれ、就職したり、結婚したり。
親父とおふくろは、相変わらず遊び歩いてて。
妹は受験に失敗して、結局、東京の私大に進学した。
美奈ちゃんは美貌の巫女さんとして、ネットアイドルになっちまった。
俺は何とか大学を出て、札幌市職員の採用試験を受けて。
何故かすんなり、交通局へ配属になって。
しかも何故か、地下鉄勤務になっちまった。
そんなんで。
ユーレイも生きてるお客さんも、勤務中の俺を捕まえて。
道を訊いたり、雑談してきたりするから。
そういう意味では、適職のような気もするし。
やっぱり、生き方間違ったような気もする。
慌ただしい毎日の中。
大勢の人が行き来するのを眺めながら。
俺は時々左手に、ふと、あったかいものを感じたりする。
それを追いかけながら、ぼーっとしていると。
また背後からどやされる。
「三国ぃ! 何やってる!」
「はいっ!」
「いつまでも学生気分でいんじゃねーぞ!」
「はいはーいっ!」
「はい、は一回でいいっ!」
「はいっ!」
毎日毎日、こんな風に。
怒鳴られて、叱られて、急かされて。
走り回ってる俺のこと、遠くから眺めつつ。
呆れたり、首傾げたり。
くすくす笑ったりしながら。
俺がここにいる限り。
いや。
例え、ここを離れても。
まゆちゃんはずっと、俺の傍にいる。
- 完 -






