表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/44

35

その日。

講義終わってから、地下鉄乗って。

まゆちゃんに、ある程度話する。

対決するつもりだって言ったら、彼女びっくりしてたけど。

何か出来ることあるかなって訊いてくれた。


いいって。

そんなん。

全然。

てか、気持ちだけで嬉しいから。



南北線も東西線も、思ったより混んでたんで。

今回はあんまり話せなかった。

けど。

まゆちゃんにも、覚悟みたいなものはあったらしくて。

彼女は彼女なりに、俺のこと考えてくれてたっぽい。

だから。

その気持ちに応えられるよーに、俺も頑張んないと。

男三国、いよいよ正念場だぜ。




名残惜しい気持ちはあったけど。

予定通り、西28丁目駅でまゆちゃんとバイバイして。

自宅に帰ってから、冷蔵庫覗いてみる。

チルドにはしっかりと、例の左手があったけど。

前より随分と、透明化が進んでるみたいだ。

ちょ。

ヤバくね?

これが消えたら、何となくダメな気がするから。

富樫に電話して、決行日を早めることにした。




「てか、三国ちゃん。どっちかってーと、平日の方が良くね?」


大事な打ち合わせだってのに。

たまたま夕飯時だったのか。

アホ富樫、ずーーーーーーっと何か食ってやがる。


「やっぱそうかな」怒るな俺。平常心平常心。「土曜の方が参加しやすいかなと思ったんだけど」


「参加者はいーけど」くっちゃくっちゃ。「ギャラリーも多くなるべさ?」


「まあなー」


「だったらいっそ、木曜の昼とかにしちゃったら?」


「俺、ガッコあんだけど?」


「あ、そっか。俺もあった」くっちゃくっちゃ。「じゃ、終電間際とか?」


「終電だったら、帰れなくなる人がいるんじゃね?」


「それもそうだな」くっちゃくっちゃ。「金曜の朝にすっか」


「俺はいーけど。杉本とか大丈夫かな?」


「あいつはああ見えて要領いいから」ずっ、ずずずずずずずずずずずび。「大丈夫じゃね?」


「…あのさ」


「あん?」じゅるじゅるじゅる。「なした?」


「お前、何やってんの?」


「何って」ぷはぁ。「カップラーメン食い終わって。ビール飲んでる」


「俺、真面目に喋ってんだけど?」


「うん」ずっ、ずずずずずずずずずび。「だから俺も、真面目に答えてんだけど?」


「電話中に飯食うか、ふつー?」


「飯食ってる時に電話して来る方がおかしーべ?」


「……」


「それよか。巫女さんに連絡着いたのか?」


「…あ゛?」


「まさか、そっちのアポも取らないで、奔走してるんじゃねーよな?」


「……」


「俺より先に、巫女さんに連絡すべきじゃねーの?」


「……」


「んじゃ、決まったら電話して」


そー言うと。

富樫、ぶちっとケータイ切りやがる。


かー。

くそー。

何やってんの俺?

マジムカつく。



そんなんで。

今回は、俺のフライング。

不覚にも、一本取られちまった。


あーあ。

ほんっと、悔しーぞ。







     @  @  @






そんなんで。

屈辱を押し殺しつつ、旭川に電話する。

出たのは、彼女のおかーさん。

つまり、俺の叔母さんに当たるヒト。


「あらあら、ヒロくん! どうしてた?」


「あ、どうもです」


「札幌にいるんでしょう? ちゃんとガッコ通ってるのかい?」


「あ、はい。いちおー」


「めんこい彼女出来たかい?」


「いや、多分まだです」


「多分?」


「で、美奈ちゃんいます?」


それ以上突っ込まれるとたまらないんで。

俺、ついにこう切り出した。

すると。

叔母さん、あっさり答える。


「あ、いるいる。今お風呂から上がったばっかりだけど」


「はっ? いや、じゃあ、あとでいいです!」


「大丈夫大丈夫。みなー! みなー!! ヒロくんから電話!!!」


げっ!

マジで?

ちょ、やめてくんねー?


と、大いに慌てつつ。

その時点で俺、思わず妄想しちまう。

てのは。

前に何度か会ってるけど。

美奈ちゃんは、ぶっちゃけ可愛い。

真っ直ぐの黒髪に、ぱっちりお目目で。

将来超美人になるに決まってる。

でさ。

あのカオで、巫女服なんか着られてご覧なさい。

でもって、みー? とか言われて御覧なさい。

にぱーとか微笑まれて御覧なさい。

もう、俺なんか総崩れ。

心臓ワシ掴みだから。



「はい」


そんな俺の妄想をぶっちぎる勢いで。

電話の向こうから聞こえてきた不機嫌ヴォイス。

あ、

やべー。

何か知らんけど、めっちゃ怒ってるっぽい。

遅い時間だったからかな?


「あ、どもども。ヒロだけど」


「知ってる」


「……」めげるな、俺。「ごめんね、夜遅く」


「ふつーはないよ、この時間電話とか」


「メールしたけど、返事なかったからさ」頑張れ、俺。「で、ほんとごめん。風呂入ってたんだって?」


「うん」


「悪いけど、ちょい急用でさ」


「……」


「美奈ちゃん、今週あたり、遊びに来な ―― 」


「やだ」


まさかの即答。

これも美奈ちゃんクオリティ。

いやいや。

ビビるな、俺。

いつものことだ。


「まー、そう言わずに。円山動物園でも、何処でも案内するからさ」


「興味ねーし」


「スイーツ食い放題とかは?」


「ダイエット中」


「あ、じゃあ。ビアホールでジンギスカン食い放題とか」


「だーかーら、ダイエット中だって言ってんでしょう?」


「……」


「…黙ってんなら切るよ?」


「ちょっと待った。あの、アレだ。すすきのツアーとか」


「未成年なんだけど?」


「駅ビルで買い物ツアー」


「この前おかーさんと行ったから」


「あの、じゃあさ。どうしたら来てくれる?」


「てか、何であたしが札幌行かなきゃいけないの?」


「それがちょっと、困ったことがあって…」


「困ったこと?」


「うん。ぶっちゃけ、浄霊のお願いなんだけど」


沈黙。

そりゃそーだ。


「…美奈ちゃん。聞いてる?」


「聞いてるけど。ひょっとして、地下鉄の奴?」


「あ、知ってんの?」


「うん」


「マジで?」


「あれは無理だから。北海道神宮にでも頼んで」


「いやいや。そう仰らず」俺、もう必死。「お願いだから、助けると思って…」


「やだ」


「まあその、そこを何とか…」


「やだ!」


「交通費とか、全部出すからさ」


「やだ!!」


「判った。そっちまで車で迎えに行くから」


「やだ!!!」


「じゃあ、こうしよう」しゃーねー。最終兵器発動。「キャンパス・ツアー付けるから。それでどうだ?」


再び沈黙。

おっ?

いい感じじゃね?


「…もう一声」美奈ちゃん、ぼそっと言う。「何かない?」


「うーん。そしたら。新さっぽろのセルレでコスメ買い放題」


「乗った!!!!!」



よっしゃー。

これで、美奈ちゃん召喚完了。



てかさ。

女って不思議。

何でコスメで釣れた?



美奈ちゃん、小四なんだけど?

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ