表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/44

30

耳をつんざくブレーキ音。

それ聞いた瞬間、体は勝手に動いてた。

自慢じゃないけど俺、グランドセフトオートとか、メタルギアソリッドとか。

アクションゲーおたくなの。

だから、咄嗟に思い出したのは、こういう場合は横に飛ぶってことで。

ホーム下には、退避場所があるってことで。

セオリーに従って、そいつを右手で探って…




…。



……。



…退避場所、ねーし。

影も形もねーし。

暗くてよく判んねーけど。

ここって、ただのコンクリートの塊っぽい。




…嘘だろう?


さわさわ。

さわさわ。


しつこく触ってみるけど。

ねーのよこれが。マジで。




いや〜ね、もう!


これって完璧、死亡フラグ?




でも。

命根性汚い俺は、まだ諦めない。

何とか、ホーム下の狭い空間にへばりつく。

前に友達から聞いたんだけど。

札幌の地下鉄って、鉄製じゃなくゴム製の車輪使ってんだって。

そいつに轢かれると、切断されるんじゃなく、ぐしゃっと押し潰されるらしいから。

俺が幾らどMでも、そんな痛い死に方したかねーよ。

いや。

どんな死に方もしたかねー。

まだ、何もやってねーんだから。

何一つ解決してねーんだから。

これで俺までユーレイになっちゃったら、まゆちゃんはどーすんの?

一生、ここに閉じ込められたまま?

てか、俺はどーなんの?

末永く幸せに暮らしましたとさって?


じょーだん。


俺にはまだ、やるべきことあんだから。

そう簡単にユーレイにはなれねーの!




なんて思ってる数秒間に。

電車はもの凄い勢いで近付いてくる。

風圧と恐怖のせいで、まともに息出来ねーし。

目も開けられねー。




怖い。


マジで怖い。



音怖い、振動も怖い。

周囲の悲鳴も。何もかも。



こんな恐怖を、まゆちゃんも味わったんだろーか。

それで。

何が何だか判らないうちに、死んじゃったんだろーか。

今の俺みたいに。





って思ってたら。

また、ぐいって腕引っ張られて。

今度こそダメだぁって覚悟した。

くそ。

歯の根合わねー。

ちびりそう。

気ぃ失いそう。


痛いんだろーな、地下鉄に轢かれるのって。

てか。

こういうのって、賠償金とか損害金とか取られるんじゃなかったっけ?

1分間で50万とか? 100万とか?


どーしよう。

うち、ビンボーなのに。

どうやってそんな金払うんだろう?

許せ、おふくろ。

怒るな親父。

妹はどうすっかな?

BL好きの腐女子ではあるけれど。

いちおーは悲しんでくれるかな。

で、兄貴は…




あいつのことは、考えたくねーな。

絶対笑うな。

うん。

間違いねー。

バッカじゃねーの? って、笑うなきっと。








…な〜んて思ってたら。


今度こそほんとに、腕がっしり掴まれて。

ホーム下に、わらわら人が降りてきた。

挙句の果てに。


「何やってんだ!」


「怪我ないか?」


「君! 早く出て来なさい!」


って。

いろんな人から怒鳴られてんの、俺。





…へっ??



ふと見ると、電車は俺の鼻先で止まってて。

ホームにいたおっさんとか、にーさんとか。

有無を言わずに、俺を引っ張り上げてんの。

いやいやいや。

てかみんな、何処持ってんの?


「せーので上げるぞ! せーのっ!」


って。

何だよそこの自衛官。

でもって車掌。

ライフセーバー気取り?


いや、サーセン。

何でもありまっせん。

あざーす。

ご迷惑おかけしましたっす…


あ。

ちょっと待て。


痛い痛い!

そこのオバサン、リュックごと引っ張んないで!

にーさん、ベルト持たないで!

その位置ヤバい!

マジヤバい!!

ちょ、見てみー?

いいだけ大事なトコに食い込んでるっしょ!


あああああ。

ちょ、待って!!


痛いって!

大したもんじゃねーけど、ちゃんと引っかかるんだって!

でもって、マジ痛いんだって!!






     @  @  @






言いたかねーけど。

それからはもう、大変な騒ぎ。



何が大変だったって?

そりゃもう大変もいいとこ。

説明するのも大変なくらい。




大掛かりな救出劇のあと。

何処も怪我してないって言ったのに、誰も信じてくれなくて。

生まれて初めて救急車乗せられて、そのまま無理矢理入院させられて。

でもって、誰かが勝手に連絡したらしく。

おふくろと親父とワンセットで、旭川から飛んで来ちゃって。

ボコられるやらわめかれるやら泣かれるやらで、もう、わや。


あ。

わやってのは、北海道方言かな?

要するに、もうぐっちゃぐちゃのしっちゃかめっちゃか状態。

兄貴は案の定爆笑してるし、妹には頭はたかれるし。

関係者各位からは事情聴取されるし、怒られるし、説教食らうしで。

ほんとわやだった。



そんなんで。

俺がようやく社会復帰した時にはもう、事故から3日も経ってて。

まゆちゃんとの約束、しっかりブッチしちまった計算になる。

あーあ。

明日ちゃんと話すって言ったのに。

どーするよ?

彼女、待ってたかもしれないのに。

俺のこと信じて、頷いてくれたのに。

全く。

やってらんねーぜ。

何でこんなことに巻き込まれたのか、よく判んねーけど。

結局、俺、嘘つきになっちゃったじゃん…





で。

いよいよ退院ってことになった時。

よせばいいのにうちの親、またもや旭川からのこのこやって来て。

俺を車に詰め込んで、ご丁寧にも、西28丁目のアパートまで護送する始末。

ん?

それって送迎じゃないかって?

ちっちっ。ちげーのよ。

単なる護送。

またヘンなことやらかされないように。

別に、親心でも何でもねーのよ。

自分達がメーワクかけられるのがイヤなだけ。

基本的にうちの家族って、そういう連中だから。




「いやいや、ほんっとここ、カビ臭いもんねぇ!」


窓を開けながら、おふくろがぼやくと。

基本的に空気読まないうちの親父、すたすた行って閉めやがる。

てか。

病院いる時からこいつら二人、アホな会話ばっかして。

他の患者さんは爆笑してるわ、俺はマジで頭痛くなるわで。

出来るもんなら、他人の振りしたいくらいだった。

でもね。

運の悪いことに、俺、おふくろそっくりなんだわ。

ガキの頃から、戸籍謄本要らないねって近所のオバサンに笑われてたんだわ。

しかもね。

うちのおふくろも乙女座B。

さらにね。

言いたかねーけど、妹もおんなじ。

兄貴は何故か獅子座O。

長男だから、いちおー考えたらしい。


てかさ。

考えたって、一体何をどう考えたんだよ?

ほんっとイミフなんだけど?

五人家族のうち、三人が乙女座Bってどうよ?

どう考えてもおかしくね?

何だよこの家庭環境?

どんだけ計画的に子作りしたのよ、あんたら?

これで俺がまともに育ったら大したもんでしょ?



すっかりブルー入ってる俺に気付くこともなく。

親父とおふくろは、大声でわめき始める。

あああ。

もう知らねー。

絶対近所から苦情来るって!


「おとーさん! なして窓閉めるのさ?」


「いーべや。寒いから」


「いくないっしょ! 換気しないとダメだべさ!」


「したっけ寒いんだもの!」


「寒いんだら何か上に着ればいいっしょ?」


「ジャンバー、車の中だもの」


「ほんっときかないねー! ちょっと、ヒロ!」


「あ゛〜?」←俺、もうやる気ゼロ。「何?」


「おとーさん寒いって! ストーブ点けて」


「ストーブ点けるだけ無駄っしょう? 窓開けてたら」


「ほんっとうるさいねー! あんたまで逆らう気?」


「ここガスストーブしかないんだから。先月も北ガス値上げしたっしょう?」


と、抗議するも。

おふくろは基本的に人の話なんか聞かないから。

さっさと元栓開けて、ストーブ全開にしやがる。

だったらいちいち人に訊いたりしないで、自分でやれって。

そう思いません?



そんなことはまあいいとして。

いや、ほんとはよくねーけど。

とりあえず置いといて。

久し振りに帰った部屋の中で、俺、何故か違和感バリバリ。

いない間におふくろが来たのは知ってるけど。

エロ本エロゲーの類がごっそり持ち去られたのも知ってるけど。

そのうちの80%が兄貴ので、15%は富樫のだから、俺は基本ノーダメージなんだけど。

でもってその手の回収品は、いつの間にか親父に回ってるってのも知ってるけど。

そういうんじゃなくて。

何かおかしいの。

何か足りないの。

そう。

何ていうか、いつもここにあった…





…。




……。






あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!



あれだ、あれ!

あれがない!!

まゆちゃんの手!



なんで?

ねえなんで?

何処行った?

何処消えた?



半ばパニクりながら、台所へ駆け込んだ俺。



見ちまった。



まゆちゃんの手を乗せてたタオルが、いつの間にか洗濯されてて。

ふつーに干されてるの。




…。




……。






ちょ。





ねーわ、これ。

マジねーわ。

ありえねー。






てかさ。

いっつも思うけど。


親って、頼んでもないのに。

何でいっつも余計なことばっかすんの?





もう、最悪なんだけど?

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ