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そっからまた歩いて、部屋まで戻んだけど。
俺は落ち込み継続中。
だって、しゃーねーべ?
言うしかねーべ? あのシチュエーション。
でないとまゆちゃん、明日までずーっと一人でいるんだし。
一人で悶々としてんだし。
幾ら相手がユーレイさんだからって。
俺のせいで、そーゆー思いさせたくねーし。
中途半端なまま、終わらせたくねーし。
中途半端だったとしても、余計なこと考えさせたくねーし。
だから、しゃーねーのよ。
ああするしかなかったの。
でないと俺の方が悶々としちまうもん。
明日地下鉄に乗るまでの間、ずーっと。
途中にあるコンビニ寄って、カップ焼きそばと牛乳買って。
アパート帰って、鍵開けて、電気点けて。
念のため確認に行くと、例の手はまだそこにあった。
半透明のまま、ちょっと握り加減の状態で。
最初見た時はかなりビビったけど、今はそーでもない。
これが、まゆちゃんの手だって判ったし。
悪いことしないって判ったし。
夜中に動き出したりしないってことも判ったから。
台所でお湯沸かして、カップ焼きそば作って。
ふと思いついて、窓ハンド(仮名)をタオルごと移動する。
テーブルの上にそれ置いて、焼きそば食いつつ眺めてたんだけど。
見れば見るほど、シュールな感じ。
うーん。
あらためて思ったけど。
俺って意外と、ユーレイ耐性あんのな?
それにしても。
ケロロの件、どうしよう?
とりあえず、俺のだってことにしておけばいいんだろうな。
一番波風立たん方法ってことで。
そーだ。
そーしよっと。
飯食い終わってから、シャワーして。
明日の予習はとりあえずほっといて、ベッドに潜り込む。
窓ハンド(仮名)もいちおー、枕元に移動して、と。
電気消したあと。
横向きの状態で、その手眺めてたんだけど。
何だか、胸がずきずきした。
これって何だ?
罪悪感?
まゆちゃんにウソついてることの?
いや、ちげー。
まゆちゃんが、俺のせいで事故に遭ったってこと。
その事実に対する、何ていうか、やりきれなさっての?
何だか、すっげーもやもやするんだけど。
そのもやもやを上手く説明出来ない自分にイラっとしたり。
ほんと。
知らなきゃ知らないで俺、恐らく、一生面白おかしく生きていけるタイプなのに。
明日のバイトのことぐれーしか、心配しなくて済んだ筈なのに。
やれやれ。
何でまたこんなことに巻き込まれちゃったんだろう?
…な〜んて思ってるうちに。
いつの間にか、寝ちゃったらしい。
でもっていつの間にか、夢の中にいた。
しかも。
誰かの記憶を辿ってる感じの夢。
言いたかねーけど。
これってさ。
多分、まゆちゃんの記憶だ。
@ @ @
夢の中で。
俺は、東西線のホームに立ってる。
周囲には、沢山の人。
丁度混む時間帯っぽい。
で。
俺はずっと俯いて、黄色い線と睨めっこしてんだけど。
ふと開いた左手は、何だかちっちゃくて。
自分の手とは思えなかった。
ピンク色のカバンには、いろんなキーホルダーがついてて。
その中から何故か、ケロロを外す。
でもって。
俺はそれを、ずーーーっと眺めてる。
周りがやけにがやがやしてきたことにも気付かずに。
それから、視線は向かいのホームに向けられて。
そっちにも人がいっぱいいる。
リーマンやら、学生やら、その他大勢。
そのうち、新さっぽろ行きの電車が来て。
そこからも、ぞろぞろ人が降りてくる。
中身も大体同じ。
リーマンや、学生みたいな若い連中。
最初俺は、そいつらをぼーっと眺めてたんだけど。
あるところで、視線はぴたりと止まって。
それから、デジカメみてーにズームする。
ホームを歩いてるのは、二人の大学生。
小さくてよく見えねーけど。
左側の背の高いのが…
あれ?
ひょっとして、安西か?
あの朝たまたま、同じ車両で出くわした。
だとすると、その隣って…
…。
……。
あれ?
ヘインズの白Tに緑チェックのネルシャツ。
垢抜けねーぼさぼさ頭に、505のジーンズ。
靴紐の解けたナイキのスニーカー。
…。
うー。
マジかよ。
あれ、俺じゃん?
ってことは、これは…
って思ってたら。
俺、何故か歩き出す。
俺が向かってる方へ。
多分、追いかけようとしたのかな?
途中の連絡通路のあたりまで。
そこへ。
電車が入りますのアナウンス。
俺、まだ歩いてる。
俺の方ずーっと注視しながら。
そこへ。
向こう側から、誰かが走ってきて。
突然、ふわりと体が浮いて。
そのまま、背中から叩きつけられて。
向こうから、眩いライトが迫ってきて。
車輪が強烈に軋む音がして。
うわ、ヤバいっ! って目を閉じた瞬間。
不意に。
出し抜けに、記憶はなくなった。
てか、戻ってきた。
安穏とした俺の朝に。
平和極まりない俺のベッドの中に。
そんなんで。
目は覚めたけど。
イヤってほどばっちり覚めたけど。
そこまでせんでもって感じで覚めたけど。
俺は起きる気力もなくなって。
ひたすら、ぼーっとしてた。
やっぱりなって気持ちと、嘘だろう? って気持ちのまま。
ぼーっとしつつ、天井眺めてた。
妙な夢ん中で、あらためて判ったことだけど。
まゆちゃん、俺にあれ渡そうとして。
じゃなくても、何とか声をかけようとして。
つまり。
俺の推論は、ばっちり当たってたってことで。
あー。
どうしましょう?
どうしようかしら?
このめくるめく罪悪感を。
ちげー。
この前代未聞の凹みっぷりを。
でもって、どうしよう。
ケロロと、この手と、まゆちゃんと。
まだ、アイテム全部揃ってねー気がするけど。
はぁ。
また最初っから、考えていかなきゃいけねーなぁ…