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「あ、それなー。俺んだわ!」
なーんて富樫が言うもんで。
俺、一瞬、椅子から転がり落ちそーになった。
はぁ?
何だよそれ?
「ドム子に貰ってケータイに付けてたんだけど。いつの間にかなくなっちゃってたんだよね」
「それって、かなり前の話だろう?」
「うん。なくなったのに気付いたのも相当前」
「……」
「で、それがどーした?」
「いや、別に…」
そう言いかけて、軍曹をポケットに入れようとしたら。
富樫の奴、げへげへ笑いながら手ぇ出しやがる。
「返せよ」
「いや、要らないべ?」
「とりあえず返せって。呪いかかってるかもしんねーから」
「呪いとか言う? お前、ほんっと失礼だよな?」
「まゆちゃんが握ってたもんなんだろう?」
「そうだけど。だから何か、意味があんじゃないかなって…」
「あ、それ、アレだ。彼女、俺に気があったんじゃね?」
「ありえねー」俺は、きっぱり言ってやる。「それはないわー」
「オカルト研に来たのも、ひょっとしたら三国じゃなくて、俺目当てだったんかも?」
「ねーし!」
「何で判る?」
「まゆちゃんは、俺に惚れてんの!」
「だから、何でそれが判んのよ?」
「……」
「ちゃんと告ったのか?」
「……」
「それとも、ちゃんと告られた?」
「それはとりあえず」
「サイアクだな、お前」富樫は、ずずずずずずっとアイスラテを飲む。「女に告らせるか、フツー?」
「サイアクな奴にサイアク言われる筋合いはねーよ」
「ちゃんと訊いてみ。でもって言葉で伝えてみ。お前が本気ならさ」
「……」
「…って訳で、今回もお前の奢りね」
「はっ? 何言ってんの?」
「いっつも俺にばっかり愚痴ってくんじゃん?」
「愚痴ってる訳じゃねーよ。至極健全な世間話だろーが!」
「ま、いっから」と、手を出して。「軍曹返せよ」
「……」
高級感溢れるスタバの店内で、軍曹片手にあーだこーだ言ってる。
かーなーりー場違いな雰囲気のアキバ系二人。
中国福建省出身の貧乏旅行者って感じの富樫と。
チェック柄のネルシャツにデイパック背負ってる俺。
ああ。
俺としたことが。
またもや人選を誤ったぜ…
「ところで三国、経済学出んの?」席を立ちながら、富樫が言う。「あれ、まともに出欠取ってるぜ?_」
「うわ、マジで?」
「マジマジ。そろそろ出ねーとマジヤベーよ?」
「しゃーねーな。出てやっかぁ」
そう言いかけて、デイパック背負った時。
俺は見ちまった。
富樫がゴミ箱に、軍曹捨ててるの。
「ちょっ! テメーッ!! 今何やった?」
思わず叫んだ俺に対して。
富樫はきょとんとした顔を向けてくる。
「いや、だって、要らねーし?」
「ばっ! あれはまゆちゃんが大事に持ってたものじゃねーの?」
「でも元々俺のもんだし? 留め金壊れてっから、もう付けられねーし?」
「アホっ! だからって、捨てることねーだろー!!」
と言いつつ、ゴミ箱のドア開けて。
紙コップやらストローやらに手ぇ突っ込んだ。
幸い軍曹はそんな奥まで落ちてなくて。
何とか、探し出すことが出来たけど。
ほっとして手を引っこ抜いた俺。
気付いちまったんだ。
周囲のおねーさん、おにーさん。
おじさん、おばさん。
ママさん、お子様の冷た〜い視線に……
あーあ。
俺、またやっちゃった?
やっちまった?
駄目なんだって。
まゆちゃんのこととなると、フツーに理性がぶっ飛ぶんだって。
てか。
アホ富樫の暴挙のせいで。
もう完璧、痛い子フラグ立ったな…
@ @ @
アホ富樫を大通にポイ捨てしたあと。
フツーに地下鉄に乗る。
てかさ。
皆さん、お忘れかもしんねーけど。
俺、いちおー、大学生だから。
たまにはガッコ行かなきゃいかんのよ。
階段下りて、南北線の麻生行きに乗るとすぐ、まゆちゃん来てくれる。
今日は、ごくごくフツーの格好。
しましまのパーカーにピンクのTシャツ、ジーンズ生地のミニスカート。
でもね。
これがまた可愛いんだわ。
俺、にやにやしちゃう。
けどね。
他の人から見たら、単なるヘンタイだわ。
でも。
北17条で電車降りようとしたら、まゆちゃん悲しそうな顔するから。
今日はごめんって、両手を合わせた。
これだって、他の人から見たら単なる頭おかしい奴になる訳で。
案の定、周囲のリアル女子は俺をじろじろ見てやがる。
あー、マジうぜーよお前等。
ドムみてーな体型してる分際で。
足に大根標準装備しやがって。
悔しかったらそれ、取り外して見せろってーの。
とりあえず今日は真面目に講義出て。
それから、カテキョのバイト行く。
今受け持ってるのは、中二女子と高一男子、高二女子。
やったことある人は判ると思うけど。
これが結構タイヘンなのよ。
…ん?
何気に女子比率高くね?って?
冗談言っちゃいけませんよお客さん。
ロマンスなんか生まれようのない方々だから。
こー見えて俺、仕事は仕事って割り切るタイプだし。
女子というよりは、量産型ザクに近い方々だから。
妄想すら出来んのよ。
で。
バイト終えて電車乗ったら、もう22時過ぎ。
ぐったりして座席に倒れこむと、まゆちゃん来てくれる。
うん。
何ていい子だろう。
24時間、俺のこと見ててくれてんの。
でもって。
いつも通り、終電ぎりぎりまで往復する間。
俺、ふと思いついて。
ケロロのこと訊いてみようと思って。
カバンの中に手、突っ込んでみたんだけど。
…。
……。
あれ?
…ない。
いや、あるって。
富樫から回収したんだもん。
あんな恥ずかしー思いして。
あるって。
ある筈…
…。
マジで?
うっそぉ。
失くしちゃった、あれ?