表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/44

25

アホ富樫と別れてから、もっかい地下に潜ったんだけど。

どーゆー訳か、大通駅はいっつも混みまくり。

三越前にたむろってる学生やら、フーゾク勧誘要員のイケてない黒服メンやら。

そういう連中に背を向けて、黙々と階段を下りる。

南北線のホームは、なるべく行きたくなかった。

まゆちゃんが轢かれた場所だから。




東西線に乗ると、彼女はすぐに現れて。

にこにこしながら、俺の隣にちょこんと座る。

今日は、如何にも女の子っぽい格好。

ふんわりした袖のブラウス。

パフスリーブっちゅーの?

その下に同系色のピンクのキャミ着てる。

ボトムは、細身のジーンズとピンクのサンダル。

てかね。

最初のゴスロリも、制服も勿論いいんだけど。

こういう格好がまた似合うんだ。

でもって、すっげー可愛いの。

それだけに。

誰にも自慢出来ないのが、ちと辛いんだよなぁ…




今日は用事があったんで、デートは短めに。

しかーし!

こういう時に限って、電車は嫌がらせみたいに混みやがる。

それでも。

まゆちゃんと同じ場所にいて、人目を盗んで筆談したり。

そーゆーのがすっげー楽しいの。

他の連中には多分、見えてないと思うけど。

キョドってるようにしか見えないと思うんだけど。


でもね。

何てゆーか、俺、見てるだけでいいのよ。

少なくとも、今の時点では。

全く。

小学生カップルが、仲良く手ぇ繋いでコンドーム買ってるこのご時勢に。

どんだけ純情なんですか、俺?

てか、どんだけ女のコにメンエキないんですか?



そんな自分に思わず笑っちまったりもするけど。

最初のうちはやっぱ、戸惑ったりもしたけど。

いろんな煩悩捨てきれずにいたりもしたけどね。

何かね。

もうどーでもよくなった、そーゆーの。

俺の姿見つけると、まゆちゃん、すっげー嬉しそうな顔して。

どれだけ混んでても、近くにいてくれる。

たまには例の裏技発揮して、人払いしてくれたりもするんだけど。

彼女の笑顔見てるだけで、俺、何も要らねーなって思って。

まゆちゃんが喜んでくれるなら、それでいいやって思うようになった。

富樫に言わせれば、ばっちり憑依されてる状態らしい。

そのうち、精気吸い尽くされるぞ? って脅しやがる。

ったく。

牡丹灯篭じゃあるめーし。





宮の沢から折り返して、西28丁目へ。

ここで今日はお別れってことになる。

まゆちゃん、寂しそうだったけど。

俺のこと思って我慢してくれてる。

不思議なんだけど。

そーゆーのって、言葉にしなくても判るんだ。

だから。

また明日って思いつつ、ホームから手を振った。

電車はみるみる小さくなる。

まゆちゃん乗せたまま。





バスターミナルのところに出て、北欧パンでパン買って。

東急ストアで惣菜買って。

それからぶらぶら歩いてアパートへ帰る。

カバンの中には、例の左手があるけど。

全然重さは感じなかった。

てか。

むしろ、前より軽い気がするんだよね。



アパートの郵便受けには、相変わらずゴミばっか。

ピンクチラシには目もくれず、道新だけ抜き取って階段を上がる。

とはいえ。

俺もまあそのお年頃なんで。

前はそーゆーのにも興味あったりしたんだけど。

やっぱね。

なんかの歌詞じゃねーけどさ。

愛がなくちゃいけないなーと思った訳よ。

あー、そこのお客さん。

引くとこじゃねーから。

俺、乙女座Bだけど。

基本ヘタレだけど。

こう見えて、結構真面目なのよ?





ベッド脇のバスタオルの上に、ちっちゃな手を置いて。

それからテレビ点けて、はねトびかけて。

こたつに座って統計学のレポート書いたりするんだけど。

どーも、集中出来ねーの。

まゆちゃんの寂しそうなカオ思い出すとさ。

あと一往復ぐらい、付き合ってやれば良かったかなって。

そう思ったりもするんだけど。

でも、それだと俺、絶対4年で卒業出来ねーし。

そしたら速攻かーちゃんに絞め殺されるし。

うーん。

どうしたらいいんだ? こーゆーの。

なんせ、初めてだから。

ぶっちゃけ、何が何だかで。

どう接したらいいのか判んねーんだよね。

くそ。

誰か教えてくれねーかな。




なんて考えてた時。

ふと気付いたんだ。

バスタオルの上にある、例の左手。

軽く閉じられた指の中に、何かあるってことに。




…。





……。







あのー。





さすがにこれ、やばくない?





てかさ。


やっぱ、開いて見なきゃダメ?







…てかさ。







もう怖いのなしって思ったのに。

せっかく安心したのに。






俺、また、涙目なりそーなんだけど?







     @  @  @






軽く閉じられた指。

そいつを、一本一本めくっていく。




…。





…ごめん。



やっぱ、無理。

少なくとも、夜は無理。

俺には無理。

だって。

確実に、何か出るフラグが立ちそーで。

そんなん出たら、卒倒しちゃうかもしんねーし。

でもって、救急車とか来ちゃうかもしんねーし。



…考え過ぎ?




だよね。

考え過ぎだよね。




…でも。




やっぱ、明日にしよーっと。







そんなんで。

ヘタレ通常モードに戻った俺、ふつーに風呂入って。

ふつーに飯食って、ふつーにゲームやって。

それから、寝ることにしたんだけど。

まゆちゃんの手を枕元に置いておくのが、ちょっとだけ怖くなった。

冷たい奴って思うっしょ?

でもさ。

実際問題として、皆さんが俺とおんなじ立場になったとしたら。

半透明の手首から先が、枕元にあるのって。

ちょっと怖いと思いません?


俺もガキん時からこーゆー体質で。

他の人よりはかなりメンエキあると思うんだけど。

それなりに、経験値もあるとは思うんだけど。

やっぱね。

怖いもんは怖いし、気味悪いもんは悪い。

まゆちゃんは全然怖くないし、むしろ好きなんだけど。

それとこれとはちょっと違うんよ。


てかね。

大分前に兄貴と話したことあるんだけど。

人間って、丸ごといるのは別に怖くないんだよ。

死体でも何でも、多分、それほどじゃないと思う。


ところがね。

あれが何故か、パーツになると怖いんだわ。

人が倒れてるのは、大丈夫かな? って見ちゃうけど。

手とか足とか指とかが、その辺にごろんって落ちてたらどーする?

びっくりするっしょ?

スクリームするっしょ?

元ネタは同じなんだけどね、確かに。

パーツはいかんよ。

あれは駄目。

例えばさ。

ロッカーに小指とか入ってたら、俺、その場で即死する。

確実に死ぬ。

それくらいこえーのよ。

どうしてかは知らんけど。





なんて言い訳をいろいろしながら。

俺、ようやくベッドへ潜り込む。

うとうとしてから、どれくらい経っただろう。

レムをうろうろしてる段階で、はっと目が覚めんのよ。

どうも気になって。

まゆちゃんの手のことが。


いや。

駄目駄目。

明るくなってからにすればいいんだから。

そう自分に言い聞かせてみるけど。

やっぱ気になって仕方がないんだわ。

だから。

1時間ぐらい悶々としたあとに。

俺、完全にギブ。

だから。

ベッドから抜け出して、取りに行ったんだ。

台所のテーブルに上げておいた、可愛い左手を。



それは同じ場所にまだあって。

置いた時と同じように、軽く握った形のままだった。

それを、下に敷いたタオルごと、そっと持ち上げて。

ゆっくりと部屋に運んでいったんだ。

さすがに、まゆちゃんも寂しいのかなって。

そんなこと思いながら。



しかし。

俺のやることが、すんなり行く訳ないんだな。

案の定、途中でけつまづいて。

転びはしなかったけど、爪先がっつりぶつけちまった。

あまりの痛さに、一人でぴょんぴょんしてたら。

まゆちゃんの手から、何かがぽろりと落ちた。




…はっ?





何これ?





何この展開?





恐る恐る、それに近付いてみたけど。

ころころ転がって、テレビ台の下に入っちゃった。

あーあ。

何やってんのよ、俺?


でもさ。

今更自分のアホさ加減をぐだぐだ言ってもしょーがないんで。

定規突っ込んで、何とかそいつを引っ張り出してみる。



ごそごそ。


ごそごそ。



かちん。




よし、取れた。

グッジャブ、俺。

1年分の埃ももれなくついてきたけど。



で。

あらためてそいつを、確認してみる。

いや。

引っ張り出した時点で、確認はとっくに済んだんだけど。

もっかい見直してみる。




…。





……。





うーん。






何だろう、これ?

どう解釈すべき?



うん?

結局何だったのかって?


それがね。

ケロロ軍曹のキーホルダー。

しかもね。

鎖が切れて、本体部分だけの奴。






…あのー。



まゆちゃん。




一体、これをどーしろと?

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ