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記憶が戻った頃、電車は丁度新さっぽろに着いて。

そこから再び折り返す。

ラッシュ時間も過ぎたせいか、人は少なくなってきて。

その間も、俺はずっとまゆちゃんと手を繋いでた。

他の人には見えないと思うけど。

俺はちゃんと感じてられたから。

彼女の温もりとか、息遣いとか。



西28丁目を過ぎると、車両はがら空きで。

まゆちゃんは再び、俺の隣にそっと腰を下ろす。

静まり返った車内。

真っ暗な窓の向こうからは、地下鉄独特の走行音が聞こえてくる。

あの、ううううううううううぅんって感じの奴。

それが仮にがたんごとんって音だったら、こんなに寂しくはないんだろーけど。

やっぱり、ね。

そんな話聞いちゃったらさ。

判らなくなっちゃったよ。

この件に関して、どうリアクションするべきなのか。

どうフォローしていったらいいのか。


それで。

俺、どうしたらいい?

これから彼女と、どう接していったらいいんだろう?

だってさ。

まゆちゃんがどういう訳か、俺のこと覚えててくれて。

好意らしきものを持ってくれて。

それ聞いた時は、馬鹿みたいに舞い上がっちゃったけど。

よくよく考えたらさ。

彼女あの日、俺に声掛けようとして。

事故かどーかは判らねーけど、その結果線路に落ちて。

つまり。

まゆちゃんが死んだの、俺のせいってことじゃん?

俺とあの日会わなかったら、こんなことにはならなかったんじゃん?




そんなんで。

さっきまでのテンションは何処へやら。

俺、がっつり落ち込んじゃった。

だから。

今更言うなって突っ込まれそうだけど。

知らなきゃ良かったかなーなんて、無責任にも考える。

RPGなら、リセット効くけど。

セーブポイントからやり直せるけど。

俺が後悔したって、まゆちゃんはもう生き返れないし。

何もしてあげられない。

目の前にいるのに。

こうやって、傍にいるのに。

なーんにもしてやれないの。

それが、一番悔しい。




誰もいない車両の中。

ユーレイさんと二人きりなんだけど。

不思議と、怖いとは思わない。

まゆちゃんが可愛いからか。

俺がそーゆー体質なせいか判んねーけど。

とりあえず、怖くはなかったけど。

何だか、すっげー寂しくなった。

まゆちゃんいるのに。

そこにいるのに。

俺のこと、好きって言ってくれたのに。

生まれて初めて告ってくれた相手なのに。

幾ら何でも、ユーレイとは付き合えねーって思ってる自己中な自分がいて。

夢だったらいいのになんて思ってるヘタレな自分がいる。


…やだ。

何かやだ。

俺、サイアクじゃね?

サイテーの人間じゃね?

俺にしか、まゆちゃん見えねーのに。

まゆちゃんには俺しかいねーのに。

他の連中はみんな、一方通行なのに。

さっきのヒロアキみてーに。


でもさ。

俺、夢だったの。

好きなコと、手繋いで歩くの。

ガキっぽい夢かもしれねーけど。

大通公園とか、ポプラ並木とか。

一緒に飯食いに行ったり、買い物したり、映画行ったりしたかったの。

彼女が俺のアパートに来て、泊まっていってくれたりだとか。

週末には何処か遊びに行ったり。

この19年間。

そーゆー、トシ相応の夢ばっか見てたのよ。

なのに。

何で、こんなことになるんだろう?


好きじゃなきゃ簡単。

俺、いつだっていいヒトで終われるタイプ。

本気で好きになった相手だとしても。

大体どーゆーことになるか、想像はついてる。

尽くして、貢ぎまくって、捨てられるんだって…

てか。

どんだけネガティブなのよ、俺?





そんな風に。

一人でぐちぐち悩んでる俺の手を。

まゆちゃんは、そっと掴んでいてくれる。

あれから何度も確かめてみたけど、左手も普通にあって。

少なくとも、俺にはちゃんと見えてる。

だとしたら。

あのカバンの中の手は一体何なんだろう?

そんなことを考えてる間に。

電車はホームへ滑りこむ。

本日何度目かの西28丁目。

やれやれ。

もう、何回往復したかも覚えてねーぞ。



そこでふとカオ上げた時。

俺、やっと気が付いた。

まゆちゃんが、おっきな瞳にいっぱい涙溜めてて。

それが、ぽたぽた胸元に落ちてることに。

え?

何で?

何でまゆちゃん、泣いてるの?


おろおろする俺の手に、彼女が書く。

子供みたいに、手の甲で涙拭いながら。



【ごめんね】って。



ちょ、待って。

何で謝るの?


何もしてねーじゃん? まゆちゃん。

謝らなきゃならないようなこと。

何も悪いことしてねーし。

誰にも迷惑かけてねーのにさ。






…てか。






もういい。

もう、いいよ。






もういいから。



判ったから。



ここでしか会えなくていい。

ユーレイでも何でもいいよ。






そう思ったら。

俺、完全に、抑え効かなくなった。

やべーよ。

さっきも言ったけど。

好きじゃなきゃ、何の問題もないんだって。

気持ちがあるから、こんなに苦しくて。

こんなに辛いって感じる訳で。

だから。

勇気を出して、まゆちゃんのこと抱き締める。

もういいから。

泣かなくていいから。

俺、何とかするから。

どうにかするから。

だから、泣かなくていい。





…てか、ぶっちゃけ。





泣きたいのは、俺の方なんですけど?






     @  @  @






「 ―― …馬っ鹿じゃねー?」



…とは、富樫の弁。

そう。

俺、よりによって、こいつに相談しちまった。

あーあ、やっちゃった。

ミスミス。

痛恨のミス。

ドラクエ5買って、3日がかりで攻略した時。

セーブするの忘れて、ラスボスに倒されてさ。

あれほど自分の間抜けさ加減を呪った日はないと思ってた。

けどね。

俺もまだまださ。

あるのよ、これが。

その時以来の大ボケが。




大通公園のミスドで、奴と向かい合いながら。

カフェオレ飲みつつ俺、溜め息ついちゃった。

だってさ。

それはねーべ?

いきなり、馬っ鹿じゃねーって。

お前一体何様よ?


「ぜってーやめた方がいいって!」奴は、三つ目のポン・デ・リングを頬張った。「やべーって!」


「そうか〜?」俺は、オールドファッション派。「やべーかな?」


「何か最近ヘンだと思ったら、そういうことだったのか」


「あのな。お前にヘンとか言われたくねーし!」


「いや、でも、ないわー、それ。マジありえねー」


「何言ってんだ。オタ研究会の分際で」


「オタじゃねー。オカルト!」


「似たよーなもんだべ?」


「全然ちげーし!」


「まあいいや。これ食ったら帰るべ?」


「はっ? 何で?」


「人選を激しく誤った。お前になんか相談するんじゃなかった」


「あのねぇ三国ちゃん」奴は時々、気味の悪い呼び方をする。「ひとつだけ言っていい?」


「そう言う奴って、大抵、ひとつじゃ済まねーんだけど?」


「あらかじめ用意した答えを相手に期待するってのは、相談って言わないんじゃね?」


「……」


「俺じゃなくても、皆同じこと言うと思うけどね?」


「……」


「まっ、でも。最終的には、お前が決めることだから」


「……」


「俺なら諦めるか。じゃなきゃ、どうしたらいいか、まゆちゃんと直接話し合うだろーな」


「でもさ。泣かれるんだよ。それってまずくね?」


「うーん。涙は女の最大の武器だからな」


「だから、どうしたらいいのか考えてたんだけど」


「…てかさ。いっぺん、北見まで行ってきたらいいっしょ?」


「はっ?」


「その手。返して欲しいって意味じゃねーの?」


「ああ。手な」俺は、傍にあるカバンをチラ見する。「…てかさ。お前には見えてねーじゃねーの?」


「それ実家に持ってったら、別なアイテムが貰えるかもよ?」


「アホかお前? ゲームじゃあるまいし」


「ま、いっから。そんなに気になるなら、線香の一本でも上げてくれば?」


「……」


そう言ったあと。

横を通り過ぎようとしたねーさんを、富樫は素早く掴まえて。

カフェオレのお代わりをねだる。

そういうとこだけは、抜け目ないんだよな。

でもさ。

いきなり知らない人ん家行くの?

それってヤバくない?


俺がそんな疑問をぶつけると。

富樫はまたげへげへ笑った。


「大丈夫だって。同じ大学なんだし。何とでもなるんじゃね?」


「まーな。確かに…」


「それにしてもさ。何でまたよりによって、地下鉄のユーレイなんか好きになっ ―― 」


「こら、馬鹿っ! 声でかっ!」


奴がいきなり、そんなこと言うもんだから。

俺は慌てて、富樫の脚蹴っ飛ばす。

でも。

あいつの声、かーなーりーでかいもんで。

向こうにいる家族連れが、ちらっと振り返り。

隣のカップルが、怪訝なカオしてる。

あー、もう、すんません。

変人なんすよ、こいつ。

あ、俺?

俺は違いますから。

一般人ですから。

ごくごくノーマルですから。

ユーレイに恋してるとこ除けば。



でも。

今回の富樫は、一味違ってて。

妙に正論ばっかり吐きやがる。

だから。

俺もそうしようかなって思った。

とりあえず、まゆちゃんの家行って。

線香の一つも上げないと。

なんて思ったりして。





あ。




でもさ。




この手、どーする?




ナマモノじゃねーけど、保存状態はいいし。

でも俺以外には見えてねーみてーだし。





うーん。






とりあえず…




ピンクのリボンでもかけておくかい?

 

 

 

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