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…でもさ。


俺、アホだけど、楽観主義者じゃねーの。

だから。

まゆちゃんの反応見て、喜ぶのはまだ早いんじゃねーかって思った。

だってさ。

まゆちゃんにそんなこと言われたら、今更引き下がれねーじゃん?

乗りかかった船どころの騒ぎじゃなくなるって。

あ、でもね

すっげー嬉しいの。

これは嘘じゃない。

滅茶苦茶嬉しいの。

まゆちゃんみたいな可愛い子に、惚れられてたなんて。

いや、惚れられては大袈裟だな。

とりあえず、いい印象持ってもらってたなんて。

それだけで俺としては、120パー達成したようなもんなの。


だってさー。

ちょい想像力を逞しくしてみてよ?

今まで、人に好かれたことなんかなかったのよ、俺?

郵便局のバイトすれば、犬に吠えられるし。

ボランティア活動で保育所行けば、赤ちゃんに大泣きされるし。

電車座れば、俺の両隣だけいっつも空いてんの。

で、しょーがねーなーって座るのはいっつも、ばーさんかおっさん。

若い女の子なんか、半径5m以内に近付きゃしねーし。

吊革掴まってても、しゅるしゅるって何処かに行っちゃう。

それくらい人気ねーのよ、俺?

だから、ありえないっしょう?



とはいえ。

沈黙してるのも何だから、話続けてみる。

てかさ。

まゆちゃんと俺、いつ会った?

何処で会った?

ぶっちゃけ、全然覚えねーんだけど?

まゆちゃんに好かれるようなことした記憶どころか、会った記憶も。



かなりテンパったまま、俺がそう説明すると。

まゆちゃん、にっこり笑って続き書いてくれた。


【つどーむのコミケ、覚えてる?】


「はい?」


【あれに来てたでしょう?】


「あー、そう言えば。富樫に連れて行かれたんだよ。去年の4月だっけ?」


【そのあと、アニメイト行ったでしょう?】


「うーん、行ったなー。行った行った。ルルーシュのキーホルダー買うって」


【その時のこと、覚えてない?】


「えー、どうだったかな?とにかく混んでたからな〜…」


って言いかけて。

俺、ふと閃いた。

今更おせーよって感じだけど。

思い出したんだよね。

フルフルそっくりなエヴァとか、マジありえねーイヴとか。

顔がバイオハザードなコーネリアとか、そういったイタいねーさん達の中に。

一際可愛いゴスロリっ娘がいたことを。


なんで。


「 ―― ………あーっ!!!!!!」


って。

思わず、叫んじまった。

近所迷惑顧みず。

周りの乗客お構いなしに。





そうだ!


そうだって!!



何やってんの、俺?

間違いないって!!!





あの子だよ、あの子!

階段とこでグッズぶちまけて、泣きそうな顔してた!!!



富樫がそのあと2ヶ月ぐらい言ってたじゃん!

名前ぐらい聞けばよかったなぁって!!








んーと。





でもって、そん時…




俺…




何したっけ?








えーとね。

確か…






それ…拾ってやったんだっけ?






     @  @  @






まゆちゃんが話した通り。

あの日俺は、富樫と一緒にコミケ行って。

帰りにアニメイト寄って、いろいろ買って。

Yellowでスープカレーでも食って帰るかぁ? なーんて話しながら。

何の気なしに、階段下りてた。


その時。

如何にもアキバって感じの兄ちゃんが、凄い勢いで駆け込んできて。

出ようとしてたコスプレ集団と見事にぶつかった。

でもって、先頭にいたゴスロリっ娘の袋、叩き落としちゃったんだけど。

その中身が、がばーっと路上に散らばったんだけど。

そいつ何故かあとずさりして、アーケード街を猛ダッシュ!

まあ、ね。

顔と体型がかなりヤバい連中揃いだったから、相当ビビったんだろう。

俺だってビビったぐらいだからさ。

でもさー。

最強のコスプレ嬢達が、それを許す訳がねー。


「ちょ、てめー!」


「待ちなさいって!!」


「謝れ、このオタク野郎がぁっ!」


って叫んだかと思うと。

もの凄い勢いでそいつを追っかけたもんだから。

あとに残されたのは、大量のキーホルダーをぶち撒かした女の子。

相手が相手だったもんで、かなりの勢いで弾き飛ばされて。

広い歩道の真ん中まで散らばっちゃったんだ。



「すみません、すみません…」


なんて小声で言いながら、彼女、一生懸命拾い集めてるけど。

だーれも、見向きしないんでやんの。

そーゆーとこ、結構冷たいんだよね、札幌のヒトって。

所詮都会だからなぁ。

で。

俺と富樫は、目を見合わせた訳。


「…どーする?」富樫は、メンドーなことは嫌いなタチ。「ほっといても大丈夫だよね?」


「何言ってんだ。手伝うべ! 男として」


「だよな。手伝うよな普通?」


「…てか、お前どんだけ変わり身はえーの?」



と、結局ゴーインに手伝わして。

さっさとキーホルダー拾いに明け暮れた。

彼女、長めの金髪カツラかぶってるもんだから。

顔までは、はっきりと判んなかったけど。

フリルやらレースやらついた黒い服から覗く手足が、びっくりするぐらい細っこくて。

誰かに踏まれたら、ぽきんって折れちゃいそうな感じだった。

てか、あるじゃん?

見た目というか、雰囲気というか。

スタイルだけですでに、可愛いオーラ発してる子って。

まさにそんなタイプの子だったんだけど。

俺、それほどディープなオタクじゃなかったし。

こういう子と付き合ったら、ちょい大変かもなんて思ってた。


だってさ。

富樫の元カノとか、大塚の今カノもそうなんだけど。

アニオタだったらもう大変。

一日中、らきすたやらハヤテやらひぐらしやらの話熱く語られて。

プラス。

やおい萌えの腐女子だった日には、目も当てられねー。

そんなんで。

その時はホント下心抜きで、純粋に手伝ってた。

女の子一人でこんな量買うの半端ねーとか思いながらも。




で、全部拾い終わってから。

俺と富樫は、ゴスロリっ娘にそれ全部手渡して。

揃ってるか確認してっていちおー言ってみた。


「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございました」


なんて言いながら、ぴょこんって頭下げられた日には。

こりゃもう腐女子でも何でもいっかーなんて妄想がアタマ掠めていったんだけど。

そこはほら、ヘタレな乙女座Bだから。

いや、こんな可愛い子が彼氏いねーとかありえねーって判断して。

例えいなくても、俺となんか絶対ありえねーって解釈したんで。


「じゃ、そーゆーことで…」


なーんつってカッコよく別れる筈が。

長い前髪の下から見えるちっちゃな唇が、すっげー可憐で。

それに見とれてた俺、前から来たおっさんにがっつりぶつかった。

いや、それがでけーでけー。

アレックス・ルイ・アームストロング少佐も真っ青って感じ。

しかも見るからに、関西からの観光客。

背後にいるおばさんも、真っ赤やら真っ金色やら。

あんなド派手な服、道民はまず着ねーもん。


「何処見て歩いとんじゃー! ボケー!」


って。

そのおっさんに、すっげー勢いで怒鳴られて。

俺と富樫、文字通り飛び上がったさ。


「すいません! すいません!」


って叫びながら、ソッコー逃げた。

あ?

カッコ悪いって?

だよね。

実は俺もそう思う。

だから、二度と振り返れなかったの。

ゴスロリっ娘の方。

恥ずかしくて。

みっともなくて。

そりゃそうでしょ?

振り返れないっしょ?

無理ですから、このシチュエーション。

何処までお笑い系なんですか、俺。





そんなんで。

俺の記憶からは、その辺が見事にデリートされてたって訳。

せっかくいい感じでクリア出来そうだったのに、最後に痛恨のミスって感じだったから。

多分、思い出したくなかったんだろーし。

思い出すこともなかったと思う。

まゆちゃんに、そのこと言われるまでは。

 

 

 

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