22
びっくりドンキーは、意外と空いてたから。
俺と富樫は一番奥のカウンター席に陣取ることにした。
それから、メロンソーダで乾杯する。
レギュラーバーグディッシュの300g食いながら。
「いやいやいや、ほんっとサイコーだったわ!」
「だろ? 出来れば動画で撮りたかったな」
「で、ニコ動かYou TubeにUPしてか?」
「そうそう。ぜってーウケるから!」
「だよなー。あれは完璧面白映像だったぞ?」
そんな話しながら。
富樫はいかにも楽しそうに笑う。
なんで。
こいつはアホで、お調子者だけど。
オカルト関係には一応の理解があるからして。
やっぱ、打ち明けた方がいいうな気もして。
飯食ってる間に、まゆちゃんのこと話しちまった。
これまでのいきさつを。
予想外なことに。
富樫は、結構親身に俺の話を聞いてくれた。
混ぜっ返すことも、気持ち悪がることもなく。
「あー、それでかぁ。本間まゆのこと調べてたの」
「そうなんだよ。何でこんなことに巻き込まれるんだか、俺にもぜんっぜん判らねーんだけど」
「そりゃお前、縁ってもんじゃないかい?」
「縁?」
「そう。何でか知らねーけど、好かれてるってことは確かなんじゃん?」
「まーな。だからって、何がしてやれるって訳じゃねーし…」
俺が溜め息つくと、富樫はげへげへ笑った。
何故かこいつはいつもげへげへ笑うんだよね。
「でもやっぱ、帰してやんなきゃいけないんじゃね?」
「うーん…」
「あ、アレか。幾らユーレイちゃんでも、寂しいんだな?」
「寂しいっていうか。とりあえず理由を訊きてーんだよね」
「それもそーか」
「だけど、声聞けねーし。前みてーに、手の平使って筆談するしかねー感じ」
「手間かかるけど、そやって聞き出すしかないんじゃね?」
「だよなー。やっぱそれしかねーか!」
なーんて話しながら。
ようやく、飯食い終わって。
さて、会計するかとなった時。
奴は笑顔でこう言い放ちやがった。
「じゃ、今日は三国センセイのおごりだな?」
「…はっ? 何で?」
「だって、お前のせいで全力疾走するハメになってさー」
「……」
「それに。いろいろ相談に乗ってやっただろ?」と、肩に手を置いて。「なっ?」
…。
……。
前言撤回。
やっぱサイアクだ、こいつ。
@ @ @
結局何でか知らんけど、富樫におごる羽目んなって。
どうにも納得いかない気持ちで、奴と別れた。
全く。
ほんっとずーずーしーよな。
ま、いっか。
結果おーらいだし。
まゆちゃんに、戦勝報告せねば。
そう思って、地下鉄に乗ってみる。
まゆちゃんに会いたかったから。
バスセンター前で、人がどかどか降りたから。
一車両丸々貸切状態。
そこでようやく、まゆちゃんが来てくれた。
今日は、最初の頃と同じゴスロリ調の服。
そんな格好で、隣にちょこんと座ってくれたんだけど。
脚、真っ直ぐ伸ばして、きちんと揃えてるんだけど。
白い靴下と黒い靴のコントラストが眩しくて。
それがまた、ね。
すっげー可愛いの。
「…見てた?さっきの」
俺がそう訊くと、まゆちゃん、こくんって頷いた。
ちょっとだけ微笑みながら。
いや、これがほんとやべーの。
って、それはまあ置いておいて。
話進まなくなっちまうから。
「まゆちゃん、あいつと付き合ってたの?」
また、こくん。
あー。
これはちょっと妬けるわ。
事情知っちまった今は余計。
「…でも、あれ、ろくでもねーよ?」
また、こくん。
うんうん。
判ってたか。
そりゃそうだよね。
人間、見た目じゃねーって。たく。
「…んで。大学入ってからも、ずっと、その…好きだったの?」
ここでまゆちゃん、初めて首を横に振る。
ううん、って感じで。
えっ?
ちょ、話違うんだけど?
「あ、違うの?」
で、こくん。
うーむ。
何だか、yesno問題やってるみてー。
「…あのさ、俺、あんま頭良くないから。ここに書いて説明してくれる?」
そう言って、左手差し出すと。
まゆちゃん、こくんって頷いて。
右手の人差し指で、一生懸命字書き始めた。
まゆちゃんの話は、すごく判り易かったけど。
なんせ一文字一文字書くから、かなり時間がかかって。
結局、東西線の端から端まで往復することになった。
でも。
彼女の話を聞いて、俺、ようやく納得がいった。
要するに。
最初はあいつのこと追っかけたい一心で猛勉強して、大学入ったんだけど。
途中から、別に好きな人が出来て。
その人を見かけて呼び止めようとした時に、誰かに後ろから押されて。
それで、ホームに転落したって。
相手が誰なのかは見てないし、わざとなのかも判らないって。
気付いたら、地下鉄から出られなくなってたんだって。
なるほどね。
人目を気にしながらも、俺はいちいち頷いて。
ようやく、何があったのかを理解したんだけど。
一つだけ、引っ掛かってることがあった。
そりゃあね。
乗りかかった船だけど。
フラれるのにもいい加減慣れてるけど。
こりゃあ男たるもの、一発ストレートに訊いておかなきゃなんない。
まあ。
大抵、予想通りの答えが返ってくるに決まってるし。
ぶっちゃけ俺、そーゆーの慣れてっから。
カラオケ行っても単なる頭数合わせだし。
合コン行ってもお笑い専門だし。
彼女いない歴19年だし。
ドーテーだし。
オタクだし。
秋葉チャンだし。
友達も兄弟も変人ばっかだし。
出身は旭川だし。
…それは関係ねーか。
でもさ。
やっぱ、訊かなきゃいかんでしょう。
なんで。
話が一段落したところで、勇気出して訊いてみた。
他のことはともあれ。
俺的には、一番興味のあること。
で。
相手が富樫か誰かだったら、速攻バス通学に変更しようって。
札幌にいるうちは、二度と地下鉄なんか乗んねーって内心決めたぐらいにして。
訊いてみたさ。
まゆちゃんに。
てかね。
俺もうその時点で、かなりフテ腐れてて。
とりあえず今度は、まゆちゃんの思い人探してやんなきゃなんねーのかなって。
本音言うと、あんまり訊きたくなかったけど。
訊いたさ。
こんな感じで。
「…ところでさ」
俺がそう言うと。
まゆちゃん、大きな目きょとんとさせて、顔上げる。
ヤバいって。
マジ可愛いんですけど?
いや、ちょっと待て。
萌えてる場合じゃねーだろ?
「その、まゆちゃんが好きだった奴って、誰?」
まだ、きょとん。
ちょっと小首傾げたぐらいにして。
ああ。
ヤバい。
ヤバい。
マジヤバい。
どれぐらいヤバいかって言うとマジヤバい。
いや、だから。
そんなんどーでもいいんだよ!
「やっぱ、同じ大学の…」
そう言いかけた時。
まゆちゃん、突然笑い出す。
くすくすって。
前傾姿勢になって。
女の子がよくやるじゃん?
腹抱えて笑ってるってのを示すあの仕草。
いや、それがまた萌えるんだけど。
って。
どーでもいいっすね、それはこの際。
で。
まゆちゃん笑うから、今度は俺の方がきょとんとしちゃう。
え?
何で?
俺、何かおかしいこと言った?
内心おろおろしてる俺。
その手を、まゆちゃんはしっかり握ってくる。
笑い過ぎて涙ぐみながら。
で。
俺の肩に、ぽんぽんってする。
…へっ?
何これ?
そのぽんぽんって、何?
どーゆー意味?
てかこれ、どーゆー展開?
…えっ?
あ、何?
ちょ、待って。
あのー。
俺の右半身が、「ありえねー!」って絶叫してんですけど?
左半身は、「ネタにマジレスカコワルイ」って言ってんですけど?
で。
まさかとは思うけど。
…つまり。
そーゆーこと????