表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/44

21

なんかね。

それ聞いた瞬間。

俺、完全にスイッチ入ったさ。

完璧アタマに血ぃ昇ったさ。

だから。

隣にいるまゆちゃんをそっとどかして、降りる人に紛れて。

ヒロアキとかいう名前の奴をおっかけた。


だってさ。

ありゃないべ?

一度だって付き合った相手のことをさ。

しかも、事故で死んじゃった相手のことをさ。

あんな風に言うとか、俺、信じられねーし。

絶対に許せねーって思った。

ましてや。

それがまゆちゃんだって知って。

こんな場所に、ずっと縛りつけられて。

辛かったり、寂しかったりする筈なのに。

まゆちゃんはずっと、あいつのこと思ってたに違いなくて。

それをさ。

あんな言い方はねーべ?

それほど好きじゃなかったとしても。

最低だべ?

別れたカノジョのこと悪く言う男なんて。

多少迷惑かけられたにしてもさ。

あんまり気持ちなかった相手だったとしてもさ。

ああいうのって、ヒトとしてどーよ?

幾ら何でも、あんな言い方はねーべ?




気に食わねー。

ガチで気に食わねー。

あんなオトコ、別れて正解だっちゅーの。

ありえねーっちゅーの。

しかも。

どういう字書くのか知らねーけど。

俺とおんなじ名前だってのも気に食わねー。

だからさ。

これはもう、やるっきゃないっしょ?

てか。

俺しかやってやれないっしょ?

他の奴には、判らねーんだから。

まゆちゃんがそこにいることも。

泣きそうなカオして、俺のこと見てることも。

だから。

俺、やってやる。

絶対、やってやる。

あんな馬鹿。

許しちゃおけねーよ。




「 ―― あれ? 三国? みくにぃ!!!! 何でここで降りんの?」


あちゃー。

俺としたことが、すっかり忘れてた。

でっかい声で俺のこと呼びながら、追い駆けてくる馬鹿がいたってこと。

振り返ると、富樫の向こうにまゆちゃんの姿があって。

電車の中から、心配そうに俺のこと見てる。

大丈夫だって。

俺、ヘタレだけど。

乙女座Bだけど。

基本日和見な日本人だけど。

ケンカ滅茶苦茶よえーけど。

逃げ足だけははえーから。

こう見えて、意外と頼りになんのよ。




電車の中のまゆちゃんに向かって、親指突き出したあと。

富樫を無視って、まっしぐらに階段へ向かう。

あの馬鹿をおっかけて。

まゆちゃんの元カレ。

長身のイケメン。

それも何だか気に食わねー。

目の前に迫る、ローライズのジーンズ。

くそ。

やってやる。

てか。

今、気付いたんだけど。

これって、やっかみか?

嫉妬もコミか?



慌ただしく階段駆け上がる俺の前で。

今カノの細い脚が、ちらちらしてる。

でもって、やっぱりしっかりおパンツ見えてんだけど。

それがまたよりによってピンクの総レースなんだけど。

んなもん、この際関係ねーし。

俺が目指すのは、ヒロアキだけで。

あの馬鹿の背中だけ。



あとちょっと。

そこへ、歩くKY富樫到着。

でも、んなこたぁ関係ねー。

まゆちゃんに見せられないのが残念だけど。

ちゃんとやってのけるから。

ほら。

あとちょっと。

あと30cmであいつに追いついて。

あと10cmで、射程距離に入る。

よし。

こいつ、俺が後ろに張り付いてんのに。

殺気マンマンで尾行してんのに。

まったく、全然、気付いちゃいねーし。

下らねー自慢話しながら、女と手繋いでやがる。

ありえねー。

てか、こいつ、マジで馬鹿?



さて。

いよいよ、ミッション開始。

いくぜ、三国廣明。

一世一代の大勝負。

どーでもいいけど、無駄に画数多いのよ俺の名前。

何でふつーに広明にしなかったんだろーね?

全く。

お陰で小学生の頃は、ひでー目に遭った。

俺は死ぬまでとーちゃんを恨むね。



で。

奴は無防備。

完璧なまでに無防備。

そりゃそうだろう。

こいつ馬鹿だから。

徹底的に馬鹿だから。

こいつがH大入ったこと自体奇跡としか思えねー。

だから。

俺は瞬時に攻撃態勢に移る。

よっしゃ。

いい角度だ。


では…三国、いきまーす。



じゃ、ねーや。






―― 突撃ぃ!






     @  @  @







ヒロアキAのこうげき!


「ていっ!」



かいしんのいちげき!



「うあっ!!!!」




って。

みっともない悲鳴を上げた途端。

ヒロアキBは、階段の最上階でバランス崩して。

そのまんま、ごろごろと転がり落ちる。


…筈が。


現実はそーは上手くいかなくて。

奴は階段をしぶとく上りきり、そこで一瞬よろめいた。

でもまあ、俺にしちゃあグッジャブ!

ミッション成功!




…なーんて思った瞬間。




「…何すんだテメー!!!」




…やだなー。

叫んじゃったよ、このヒト。

大衆のど真ん中で。

じょーだんなのに。

かなりマジだよ?

一人でマジ切れしてるよ?



こんな時。

俺はセオリーに従って、ある行動に出た。

そりゃあまあ。

逃げるが勝ちに決まってる。


「ちょ、三国! おま、何やってんの?」


と。

すっかり忘れてた。

でも、今は説明してる暇ねーから。

相変わらずKYな富樫の腕、がっと掴んで。

俺、改札へ向かって猛ダッシュ!


「 ―― っざけんなテメーら! 待てこらぁっ!!」


や、やべー。

超ウケる。

だってね。

あいつ、すげーの。

あんなイケメンが、顔真っ赤にして。

ケツ押さえながら走ってくんだから。

いやいやいや。

その格好がやたら笑えんの。

つーかさ。

今回も冴えてるわ、俺の必殺技。




「待てって言ってんだろ! この野郎!!!」


待てって言われて待つ訳ねーだろ?

やっぱ頭わりーな、こいつ。


…って思ってたら。


「きゃーっ! 変態っ!!!!」


今度は、女の悲鳴。

ん?

何だ何だ?


振り返ると。

ヒロアキBは床にばったり倒れてて。

後ろにいるOL風のねーさんが、きゃーきゃー悲鳴上げてる。

あ、そっか。

俺、カンチョー食らわしたついでに、奴のベルト思いっきり下げたんだけど。

あいつアタマ来てたせいか、それに気付いてなくて。

しかも、勝手に裾踏んづけたらしく、半ケツ見えてんの。

うわー。

みっともねー。

サイアク、こいつ。


「三国、何やってんだよ! 逃げっ、逃げっっ!!!」


いきなり、腕がっと掴まれて。

今度は俺が、富樫に連行される。

てか俺、もーちょい見てたいんだけど?


「やだー! あんた、バッカじゃねー? 何やってんのよー!!」


黄色い声は、奴の今カノ。

文字通り、腹抱えて笑い転げてる。

そりゃ笑うよね。

笑うしかねーって。

でもね。

他の乗客も、見て見ぬ振りすりゃーいーものを。

一緒になって笑ってるもんだから。

マジ切れ中のヒロアキ、ますますヒートアップしたもよー。


「うっせえ! 見てねーで、さっさとあいつらおっかけろって!!」


「はぁ〜? てゆーか何様? あたしに命令する気?」


「いいから早く追えって言ってんだろう? このバカ女!」


「ちょ、何よそれ? 信じらんない! あんた誰に向かってそんなこと言ってんの?」


なーんて。

バカップルの痴話喧嘩が始まって、駅員がどやどや駆けつけたあたり。

俺と富樫は、悠々と改札を出る。

まゆちゃんを傷付けたことへの制裁にしちゃ、ちょいと甘過ぎたかもしんねーけど。

次回は事前にウェポン用意しとこっと。



息切らせながら、三越前に出て。

俺と富樫、ぱっと顔見合わせる。

で。

次の瞬間、ほぼ同時に爆笑。


「いや、死ぬ、死ぬ! チョー腹痛え!」


「だろ? 俺、ガチで笑い死ぬかと思った。見たかよあいつのカッコ?」


「見た見た! 俺最初、三国が何やってんのか全っ然判んなかったんだけどさ」


「あいつ宿敵なんだよ。懲らしめてやろーと思ってさ」


「つーか腹痛え! 息出来ねー!」


「俺なんか涙出て来たさ!」


「しかしお前、やる時やんのな?」


「そりゃもう」


「俺、ずっとヘタレだと思ってたからさ」


「ちょ、ふざけんなって。お前にだけは言われたくねーし!」


「…で。これからどーする?」富樫は、眼鏡を拭きながら言う。「あいつ、まだ探してるかな?」


「まさか。ぜってー覚えてねーって」


「なら、いいけどさ」


「とりあえず俺、ソッコー、手ぇ洗いてーんだけど?」


「何で?」


「いや、手加減なしだったからさ。かなり深く入っちゃって…」


「うえー。じゃ、先にトイレ行くか」


「それから…」


「うん?」


「…ドンキー、行くかぁ〜?」

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ