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瞬時に固まる俺。

その前方3mに、まゆちゃんと男の姿。

でも。

ここでまた活躍する訳だ。

空気読めない誰かさんが。




「…ん? なしたの?」


「どーもしねー」


「いや、何かあったべ?」


「何もねーって!」


「いやいやいや、あったべさ!」


「あー、ほんっと、しつこいね!」


さすがにキレそうになって、富樫に向き直ると。

あいつ、何だかにやにやしてやがる。

ん?

ん?

何だよ?


「…知ってるぞ?」


「何が?」


「三国チャンってば、見えてんでしょ?」


「だから何が?」


「あそこにいる…いや、ここで言ってもいー訳?」


思い掛けない言葉に。

再び、フリーズしちゃう俺。

は?

何?

どーゆーこと?

ひょっとして、お前にも見えてんの?




…なーんて。

勘繰った俺がバカだった。

てかね。

こいつ、基本的にハッタリ野郎だから。

シッタカ野郎だから。

でも。

富樫の口から出まかせを信じちゃうほど、俺のショックはでかくて。

このままこの話ジ・エンドに持ち込もうかと思ったぐらいにして。

けどね。

富樫とぎゃあぎゃあ騒いでたせいで。

まゆちゃん、俺のことに気付いてくれたみたいだった。




彼女と目が合った瞬間。

お約束どーり、三度目のフリーズ起こしたんだけど。

まゆちゃん、しょぼんとしたまま、俺んとこ来て。

俺のカラダに細い両腕回して。

左肩に、こてんって頭乗せてくるから。

俺、ますます訳判んなくなって。

富樫のことなんか、もうどーでもよくなって。

ぶっちゃけパニックよ。





はっ?


なんだなんだ?




何があった、まゆちゃん?


あっちのイケメン、どーすんの?





あいつ、彼氏とかじゃねーの?


ほっといていーの?






てか。






何よこの、萌えシチュエーション?






     @  @  @






てかね。

もし隣に、富樫がいなきゃ。

悪趣味なカエル色のトレーナーを着たこいつがいなきゃ。

俺、マジで、まゆちゃんのこと抱き締めてたかもしんない。

周りから見たら判らないかもしんないけど。

はっ? こいつキモッ! 何やってんの? 的視線びしばしかもしんないけど。

俺、多分そうしたと思う。

出来たらね。


でも。

実際の話、電車は帰り際の学生やら専門学校生やらでごった返してて。

とてもじゃねーけど、そんな余裕はなさそうだった。

精神的にも、空間的にも。

なんで。

札幌駅でわんさか人が降りて、またわんさか乗って来た時も。

吊革に掴まるのが精一杯。

そんな中で。

まゆちゃんはぴたっと俺に寄り添って。

すんごい辛そうな感じで目閉じてる。

それ見たらね。

もう、ユーレイとか関係ないもんね。

俺、心底可哀想になっちゃって。

何とかしてやらなきゃって思った。

事情は全く判んねーんだけど。

とりあえず、あいつがまゆちゃんと繋がってるらしいってのと。

多分。

俺の勘だけど。

彼女が死ぬ前に、何かあったんだろうなって。

それは何となく想像がついた。

でないとさ。

こんな風にならねーって。

リアルの女の子だって。

こんなに悲しそうにしてる訳ねーって。




揉みくちゃにされたせいで、富樫と二人分距離が離れて。

俺はちょっとだけほっとした。

で。

ふと見ると。

いつの間にか、あいつの前には女が立ってる。

このクソ混んでる中、真っ赤なケータイ片手で操って。

慌しくメール打ちながら、そいつに話しかけてる。


「…んで、どーすんの、今日? いちおーカオ出す?」


「行きたかねーけど。行かなきゃしゃーねーじゃん?」


意外とチャラい声。

ここで俺、すでにワンランク下と見た。

女の方は、まあ、結構綺麗っぽいんだけど。

まだ秋口だってのに、露出たけーたけー。

銀色のおっきいカバンに、真紫のカーディガン。

てか。

あのスカートの丈は何?

膝上20cm?

いや、もっとか?

ちょっと屈むと、おパンツ見えんじゃん?

別に見たかねーけどさ。

如何にも女子短大生って感じの、ど派手な子で。

ガングロじゃないけど、化粧はマジ濃いし。

まばたきすると、つけまつげがばっさばっさしなってる。

あんなの初めて見たよ、俺。

てか、どんだけつけてんだ?


「じゃあ〜、何処で乗り換えんの〜?」


「おーどーり。マジたりーけど」


アホっぽい話し方。

さらにワンランクダウン。


「何でたりーの?」


「大通あんま行きたくねーんだよね」


「えー、何で?」


「死んだ奴いんだよ。俺の後輩で」


「はぁ? ガチで?」


「ガチで。てか、ぶっちゃけ元カノなんだけど」


「はぁ〜? ヒロアキ、あたしだけって言ってたじゃん?」


「嘘つくなよ。言ってねーし!」


「てか、何で死んだの?」


「前に事故あったじゃん」


「あー、はいはい。何か友達言ってた」


「俺んとこにも友達から連絡来たんだけどさー、マジうざかった。もう関係ねーしって感じで」


「うざいってあんた」


そこで女、笑いやがる。

まあ、女も女なんだけど。

ケータイ打ちながら、脚組み替えてる奴。

そいつも、くすくす笑ってる。


あーと。

その。

何だ。

あいつちょっと、殴っていい?


「マジうぜーんだって。女の癖にアニメイトとか行って。アニメの話しかしねーの」


「え、可愛いじゃーん? そういうの?」


「何処がよ? マジきもかった」


「でも、付き合ってたんでしょ?」


「付き合ったってか、ぶっちゃけ二股。あんましつこいからさ」


「うわー、サイアクこいつ!!」


「サイアクなのは向こうだって。二回デートして、サイッコーつまんなくて。速攻別れた」


「ますますひでー!」


「でもさー、あいつはずっと俺に惚れててさ。高校出るまでストーカーされまくったわ」


「あはは! ストーカーって!!」


「しかも、俺がH大入ったら、ここまで追っかけてきて。ずっとシカトしてたけどね」


「いやいや、可哀想でしょ? そこまで言ったらさ」


「可哀想なのは俺の方だって。てか、もうどーでもいーんだけどさ、あんな奴」


「そんなこと言ったらダメでしょう? 化けて出るよ?」


「化けて出ても平気。俺、霊感ぜんっぜんねーから。一生死んでろって感じ」


はー。

こんだけ距離あるのに、全部聞こえてくるし。

俺、何か無性にむかむかしてきて。

今にもスイッチ入りそう。

でも。

まだ、確証がある訳じゃねーし。

何かの間違いかもしんねーし…




そう思った時。

丁度、大通に電車が滑り込む。

てかね。

女の子ずっと立たせておいて、平気な顔して座ってんの。

それだけでもムカつくのに。

立ち上がった瞬間、そいつ、笑顔でこう言い放ちやがった。

よりによって、まゆちゃんの目の前で。

皆が振り向くよーなでっかい声で。



「 ―― ぶっちゃけ、まゆが生きようと死のうと。俺には関係ねーからさ!」

 

 

  


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