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翌朝。
いつもの時間に起きて、テキトーな服着て。
ポケットの中身確かめる。
ケータイ、財布、家の鍵。
よっしゃあ。準備万端…
…じゃ、ねーよ。
アレがいたのよね。
テンパると何故か、オネエ言葉になる俺。
つまり、それだけテンパってたの、マジで。
心理学の教科書とか、思いっきり入ってるし。
でもって、まだビミョーにカタカタ動いてるし、それ。
…ま、いっか。
あとで何とかしよう。
3秒後にはそう考えてフツーに部屋出る俺。
こう見えて、乙女座Bだったりする。
西28丁目からまた地下鉄に乗る。
昨日の事故は、乗り換え先の大通。
ガッコ行ったら、図書館で新聞見なきゃ。
なんて思ってたら、たちまち円山公園着。
通勤客がぞろぞろ降りてったから、やっと座れた。
で。
いつもの癖で、右肩にかけたカバン確かめるけど。
アホだよなー。
今日は、アレがいるから置いてきたんだっけ…
え。
ちょっと待て。
何あれ?
…向かいのガラス。
何か映ってね?
ちょ。
マジで?
誰か、いるんですけど?
見えるんですけど?
俺の、左隣…
空席なんですけど?
@ @ @
一度、左を確かめたあと。
念のため、もう一回窓見てみる。
…いるよ。
いるのよ。
間違いなく。
で。
しょーがないんで、もっかいチラ見。
リアルの座席、不在。
窓に映る座席、存在。
やべーな、俺。
昨日ろくに寝れなかったし。
かなり疲れてるっぽい。
またチラ見。
いない。
いる。
再度チラ見。
いない。
…やっぱいる。
一人できょろきょろしてる俺。
気付くと、斜め向かいの綺麗なねーさんにガン見されてんの。
絶対アホだと思われてる。
でなきゃ、はちきれそうなスカートの奥覗こうとしてるとか?
いや、見れるもんなら見たいっすけどね。
今、見たかねーもんが見えてるんですよ。
でも。
よく見ると、ちょっといい感じかも?
いやその、ねーさんじゃなく。
窓にいるお隣さん。
あ。
うん。
結構、可愛いかも。
優香っぽい。
服とか、顔立ちとか。
なーんて考えてるうちに大通。
電車を降りると、彼女は消えちゃって。
階段下の鏡にも映らない。
そう言えば、誰かが言ってたな。
このでかい鏡、自殺防止のために置いてるんだって。
じゃ、あの優香タンは、昨日ここで轢かれた子なんかな?
判んねえけど。
ひょっとしたら、東西線のヨーセイさんかもしんねーし。
俺のモーソーかもしんねーし…
で。
そっからまた、南北線に乗り換えたんだけど。
俺はさすがに窓見る気がしなくって。
でもさ。
そういう時に限って。
不思議と、富樫って男に会うんだわ…