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で。
思いっきり気が進まないまま、上映会スタート。
何処のテレビ特番なんだか判んねーけど。
売れないタレントがきゃー! とか、わー! とか、大袈裟に叫ぶたびに。
連中は皆、スクリーンに釘付け。
わざと暗くした、こ汚らしい部屋ん中。
ポテチとかつまんだぐらいにして。
でもさ。
内容以前の問題がひとつ。
俺、あんま目良くないから。
暗視カメラの映像だけでも辛いのに。
手ブレだらけのビデオ画像見てるだけで、具合悪くなってくる。
てか。
ここ来ていつも思うことだけど。
何が悲しくて、廃墟になった病院とか、炭鉱とか。
学校とか、そーゆーとこに行きたがるもんかね?
ほっときゃいいものを。
何でわざわざそんなの見たがるもんかね?
俺、確かにユーレイ体質だけど。
さっき富樫に言ったのはウソで。
実は、はっきり見える訳じゃない。
どっちかっていうと、ふわふわの白い固まりがそこにいる感じで。
俺が見ると、ほわんほわんって近付いて来たり。
ふっと消えちゃったりするくらい。
けど。
はっきり見えないわりには、いろんなこと感じちゃうから。
不思議なことに、年齢とか性別とか、何となく判るし。
話は出来ないけど、何が言いたいのかも大体判る。
何処に行っていいか判らなくて困ってる、とか。
寂しいとか、退屈だとか。
意外と、恨んでやるってユーレイさんっていないのよ。
てかね。
あっちにはあっちのコミュニティーみたいなもんがあって。
ユーレイさん同士で付き合ったり、その辺に座ってぼーっとしてたり。
天気のいい公園には、そーゆー連中が沢山いるから。
多分、俺等が好きそうなとこは、ユーレイさんも好きな訳で。
ちっちゃいユーレイなんか、その辺走り回ってて。
悪さしたり、めそめそ泣いたり。
別にこっちと変わりない感じ。
そういうの知ってる俺だから。
ありえない窓からよいしょって入ってくる女の子がいても。
病院の中、ふらふら歩いてるお爺さんがいても。
だからどうした? って感じで見ちゃう。
そういうのを見て、怖いとか気持ち悪いとか。
興味本位で騒いでる連中の気が知れない。
明日例えば、富樫が車に轢かれたとして。
いや。
俺としては、結構本気で轢かれて欲しいんだけど。
そしたら、イヤでもあっちの世界に行っちゃう訳で。
ミセモノみたいに扱われたら、やっぱ気分良くないんじゃないかなと。
そんなことを、思っちゃう訳で。
…ん?
だとしたら、何でまゆちゃんは、ちゃんと見えるんだろう?
勿論、これまでもたま〜に全身見えるヒトはいて。
すれ違うつもりが通過して、初めて気付いたりもするんだけど。
彼女とは、ちゃんと意思が通じてるし。
ちょっとだけど、ちゃんと触れるし。
そこまで突っ込んだ付き合いになった相手は初めて。
ということは。
まゆちゃんと俺の、波長っての?
波形っての?
そういうのがぴったんこ合ってるのかもしれない。
あ。
そういえば。
霊感バリバリある親戚の叔父さんが、前に言ってたんだ。
ユーレイ体質にも、フルオートタイプとマニュアルタイプがあって。
オートのヒトは、勝手にチューニングが合っちゃうんだって。
俺の場合はマニュアルどころか、自分で調節出来ないタイプらしい。
つまり、チューニング出来ないテレビみたいなもんかな。
波長が合ってないと、完全には見えないけど。
たまたま周波数帯が合う相手だと、実体として飛び込んでくるんだって。
まあ、その叔父さんも乙女座Bなもんで。
何処までホントかなんて、俺には判んねーけど。
とりあえず。
まゆちゃんと俺は、何かで繋がってるんだなって。
恐怖映像見ながらきゃー! きゃー! 言ってる連中の先頭で。
きったないテーブルに肘突きながら。
俺、ずっと考えてた。
まゆちゃんからの預かりものの意味と。
それをこれからどうしたらいいのかと。
あと。
さっき富樫が言ってた件。
何で、まゆちゃんが死ななきゃなんなかったのかって。
それをまず、訊いてみようかなと思った次第。
…でもさ。
訊きづらいよね。
そういうことって。
さてー。
何て切り出そう?
明るく?
楽しく?
じゃなきゃ、真剣に?
・・・ないわー。
俺の中にないわー、その手のマニュアル。
でもさ。
やってみるべ。
とりあえず、やってみるべ。
やらないと、先に進めないから。
まゆちゃんが可哀想だから。
あのままずっと地下鉄にいるんじゃ。
幾ら何でも、可哀想だべ?
@ @ @
「なーなー、このあとどーすんの?」
なんて言いながら、くっついてくる富樫をシカトして。
黙々と、地下鉄へ向かう俺。
とりあえず、まゆちゃんに会わなきゃって。
アタマん中には、それしかなかった。
けど。
富樫はそんなんお構いなし。
バス定期も持ってる癖に、わざわざ俺についてきやがる。
あーあ。
こいつに好かれるぐらいなら、ユーレイに好かれる方がなんぼかまし。
とりあえずうるさくないし…
「三国ぃ!」
「なにっ!」
「お前何で最近冷てーの?」
「最近どころじゃねーだろ?」
「あん?」
「四半世紀前から、お前には興味ねーの」
「いやいやいやいや、それってちょっとひどくね?」
「ぜんぜん?」
「んなこたねーって」
「ちっとも?」
「いや、ひでーわ」
「まったく?」
ばたばた真駒内行きに乗り込んだ俺を、富樫はしつこく追ってくる。
あのさー。
お願いだから。
少しは空気読もうな?
「腹減らね?」
「別に」
「ドンキでも行かね?」
「行かね」
「おごるからさー」
「だから、行かねーって…!」
そう言いかけた時。
ようやく、まゆちゃんを見付けた。
でも。
彼女、何だか様子が変だった。
うつ向いたまま、吊革に掴まってんの。
俺に気付いた様子もなく。
で。
まゆちゃんの前に座ってる男。
小栗旬似の茶髪のイケメン。
見た感じ、同じ学生っぽい。
どういう事情か知らねーけど。
まゆちゃん、そこから動かない。
そいつのこと、黙って見てんの。
泣き出しそーなカオして。
…えっ?
ちょ、待って。
誰それ?
てか。
何? この展開。
あー。
…ひょっとして。
そーゆーこと?