17
真夜中。
何でか知らないけど、ケータイ鳴ってる。
しかも、俺の耳元で。
ぶーん。
ぶーん。
マナーモードにしっ放しだったっけなと思って、うつ伏せのままもぞもぞ手動かして。
やっと掴んでみたものの、何か違う。
ん?
てかこれ、俺のじゃねーし。
何この、オレンジのケータイ?
でもさ。
何だか出なきゃいけないよーな気がして。
ぱかっと開けて、通話ボタン押してみる。
最初は無音。
でもよくよく耳澄ませると、ごーんごーんって、低い音が聞こえてくる。
あ?
何これ?
乗り物みてーだけど。
…。
……。
あの。
…ひょっとして、地下鉄?
それに気付いて、ちょっとだけ戻ってくる俺の意識。
ガッデムだべ。
ジーザスだべ。
無視して寝ちまえばいいものを。
お前ホント気がきかねー。
何でこのタイミングで正気に戻るかな?
まあいいや。
ほら。
言ってみ。
何か伝えたいんでしょ、俺に。
聞いてあげるから。
何でも言ってみ、にーさんに。
今なら配送料負担でご奉仕中だから。
でも。
ケータイの向こうはあくまで沈黙。
マジで?
何か言いなよ。
俺、もう開き直ってるから。
だってここ、札幌だもん。
何が起きてもおかしくねー場所だもん。
って思ってたら。
やっと、ハンノーあり。
予想通り、可愛い声がこう言ったんだ。
ちょっとだけ、遠慮がちに。
「…三国、くん ―― ?」
@ @ @
「あっ、はい!!」
緊張のあまり。
これでもかってかんじのでかい声で返事した俺。
でも。
そこはベッドじゃなく、大教室で。
みんなの冷た〜い視線が、四方八方から集まってくる訳。
…わぉ。
ひょっとして。
またやっちまった、俺?
「ちょ、何でそんなおっきい声出すの!」
俺のこと咎める一方で、周囲にすみませんすみませんってアタマ下げてるコ。
なーんだよ、杉本か。
オカルト研一年、唯一の女子だけど。
どちらかとゆーと、こいつのカオの方がオカルト。
いや。
念のため弁解しとくけど。
俺じゃなくてね、みんなが言ってんの。
「てか、講義中に声かける方が悪いべや?」
目擦りながらそう言うと。
杉本はややずり落ち気味のメガネを上げながら囁いた。
「あのね。講義中に熟睡してる方がどうかと思うけど?」
「しょーがないべ。眠れなかったんだから」
「てか、ヨダレ拭きなよ。きったないなー」
げっ。
そう来たか。
慌てて口を拭う俺。
やべーやべー。
何よこの展開?
超カッコ悪い。
「…で、何か用?」
「あ、そうそう。富樫くんからメール来て。帰り部室にカオ出してって」
「はぁ? 俺、用事あんだけど?」
「久々に上映会やるらしいから。メール行ってない?」
「…あ」
「ん?」
「ケータイ、忘れてきたかも」
「マジで?」
「うん。多分あいつのメール読むなっていう神の啓示が」
「何言ってんの。とりあえず来てね。みんな待ってんだから!」
「いや、だからやることあるって言ってるっしょう?」
と、再度抗議したところで。
杉本は聞きもせず、さっさと席移りやがる。
生意気にも、こいつにはちゃんと彼氏がいて。
講義中もいつも一緒に座ってやがる。
これがまたオカルトくせーカオの彼氏なんだけど。
何故かそういう同士がカップルになんだよな。
俺なんかこんなに地道に生きてんのに。
もうちょっとで、彼女いない歴20年になっちまう。
だからさ。
世の中、ほんとどーかしてると思うよ、ったく…