表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/44

15

マジかよって思いつつも。

俺、何とか頷いた。

しょうがねーべ。

やるしかねーべ。

男たるもの。

こうなったら、皿を食らえば毒まで。


…ん?


違った。

毒を食らわば皿まで、だっけ?





ごめんね。

俺、いちおー教育学部なんだけど。

教育よ、教育。

ヒトサマにガクモン教えなきゃいけない立場になる予定なんだけど。

ご覧の通り。

日本語、あんま得意じゃないんだわ。





で。

やっと決心したもんで。

まゆちゃんの方みて、いいよって頷いた。

そしたら。

彼女、何故か、ちょっと複雑そうな顔した。

えっ?

何?

そのハンノー。

ひょっとして、断った方が良かったの?


と、俺もやや複雑な気分になりながら。

まゆちゃんの手、握り返す。

判るの。

何かね、あったかいの。

モーソーとか、錯覚とかかもしれないけど。

手、繋いでるって感じ判る。



なんて、せっかくいい雰囲気の時に。

KYな地下鉄、新さっぽろに着いちゃった。

どっと人が降りて、どっと乗ってくる。

やれやれ。

うんざりしてそれ見てたら。

まゆちゃんはすっと席を立って。

俺に、端に寄ってねって手招きする。

あ、なるほど。

そしたらまゆちゃん、潰されずに済むもんね。




帰りは、やけに早かった。

東西線沿線に住む俺は、乗り換える必要もないし。

そのまま、座席に座りっ放し。

大通りで人がどっと降りて。

またどっと乗り込んでくる。

でも。

この日は珍しく、円山公園で皆降りて。

俺とまゆちゃんは、また二人きりになれた。

ほんの一区間だけど。



座りなよって言っても、彼女はいいって首を振る。

いやいや。

幾らユーレイでも、そういうの俺、ダメなのよ。

なんで。

俺も隣に立って、一緒にドアの向こう眺めてみる。

次は西28丁目。

もうすぐ着いちゃう。

やだな。

このまま、家に着いて。

一人であれ開けんのかよ。

そんなことが俺、ほんとに出来るのか?


違う意味で、心臓バクバクしながら。

ちらっと、まゆちゃんの方見てみる。

彼女の方が、俺より身長低いから。

俺のこと、下から見上げるみたいになる。


で。

アナウンス。

ここでまた、KYなアナウンス。


「間もなく、西28丁目」


あのなー!

判ってるって、んなこたぁ!


と、叫び出したい気持ちを抑えて。

何とか、まゆちゃんに伝えてみる。



俺、頑張るから。

アレにナニが入ってても。

頑張って見てみるから。

でもって。

何があったか、ちゃんと教えるから。

明日ここで。

まゆちゃんに、報告するから。



そう思うと。

彼女、こくんって頷いてくれる。

ああ。

萌えてる場合じゃねー。

もうホームだし。

もうすぐ電車止まるし。

大丈夫、俺?

ほんとにちゃんとやれんのか?



ドアが開く直前。

俺は、じゃ、って言おうと思ったの。

ほんとそれだけ。

でも。

世の中万事塞翁が馬。

何が起こるか判ったもんじゃねーって。


俺には判ったの。

まゆちゃんが、俺の左腕掴んでるの。

それで。

気が付くと、目の前に彼女の顔があって。

それから。


いきなり、唇が重なってきたんだ。




ちゅっ、て。

 


軽く。




ほんのちょっとだけ。








…信じられる、コレ? 






     @  @  @






突然のことに、ボーゼンとしてる俺を。

まゆちゃん、笑顔で送り出してくれる。

なんで。

よろよろしながらホームに降りてからも。

車掌がヘンな顔して指差し確認してからも。

俺はずっと、まゆちゃんのこと見てた。

いや。

てか。

彼女から、目が離せなかった。




…え。


何で?



ちょ、待って。



何、今の??



俺、パニック。

完全にパニック。




微笑みながら、電車と一緒にまゆちゃんがいなくなったあとも。

がらんとしたホームに一人きり。

馬鹿みたいにパニクってる。

てか。

ボーゼンって言葉は、こんな時のためにあるんだって。

やっと判ったさ。




何とか、気力振り絞って。

自動改札潜って、外へ出る。

看板も、信号も、なーんにも目に入んない。

だって。

初めてだったんだもん、俺。

こういうの。

例え相手がユーレイだとしても。

何もかもが、初めてだったんだもん。

だから。

札幌銀行の前通って、館の前通って。

アパートの階段上って、電気点けるまで。

ケータイが鳴ってることにすら、気付かなかったぐらいで。

しかもそれが、アホ兄貴だってことも。

俺、全く頭の中になかったのね。



で。

ポケットからケータイ出して。

ぶるぶる震えるそれ見てたけど。

黙って見てたけど。

やっぱり、一人でやらなきゃいけないよーな気がして。

ケータイ、ベッドの上に置いてみる。


ぶるぶる。

ぶるぶる。



ぶるぶる。

ぶるぶる。



…あのさー。

何か、しつこいんだけど?




そう思いながらも。

俺、頑張ったから。

誰にも頼らないって。

一人でもう一回、アレと対決するんだって。

よくよく考えたら、兄貴がいっぺん見てる訳だし。

あいつ、何も入ってなかったって言ってたし。

でもさ。

あいつを信じるべきか。

それとも、まゆちゃんを信じるべきか。

どっちにしろ、何だか落ち着かなくて。

どちらかというと、イヤ〜な予感してきてんだけど。

でも。

俺、頑張らないと。

約束したんだから。

そうだって。

キスまでしてもらって。

今更逃げられるかってーの。





で。

ようやくぶるぶるが鳴り止んだ頃に。

意を決して、押入れを開けた。

ごめん兄貴。

あとで電話すっから。

お前のこと信じてない訳じゃねーけど。

俺、基本ヘタレだけど。

安穏な乙女座Bだけど。

こう見えて、やる時ゃやるのよ。




そーーーーっと開けると。

ホコリあーんどカビの臭いがして。

でも、がらんとした暗闇に、そいつはちゃんとあって。

相変わらず、ラップでぐるぐる巻きのまま。



…さって。


やりますか、俺。



いやん。


手、届かないし。

誰だ、こんな奥に押し込んだの?



…俺か。

俺だな。

うん。

そう言えば。



あ。


やっと手届いた。

もうちょっと。


もうちょ…






やだ。



ちょっと。



何よ今の?



動いた?




動かなかった?





…無理。


ごめん。

やっぱ無理。






俺、もう心臓バクバク。

さっきとは違う意味でバクバク。

だってさ。

こえーもん。

ハンパなく。

動くんだもん。

かたかたって。

何もしてねーのにさ。


やだ、もう。

無理だって。


てか。

何で俺がこんな目に遭わなきゃなんねーの?


マジこえーし。

マジありえねーし…

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ