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やや凹みがちの俺の手に。
まゆちゃんは、続きを書いてくる。
彼女が俯くと、綺麗な髪がさらさらっと落ちて。
ちっちゃな耳がちらっと覗く。
ああ。
これが現実ならなぁ。
生きてる相手ならなぁ。
なーんて思うけど。
そんなこと考えてるジブンが何だかイヤになる。
ユーレイだって何だって、まゆちゃんはそこにいる訳で。
何でか知らないけど、俺のこと頼りにしてくれてる訳で。
だったらさ。
何でもいーじゃん。
メッセンジャーだろーと、単なる遊び相手だろーと。
それで彼女の気が済むんなら。
うん。
俺、決めた。
もう迷わないさ。
ほんとだって。
まゆちゃんがこうして俺のところに来てくれたのも。
こうして俺と一生懸命話そうとしてくれてるのも。
何かの縁って訳でさ。
だとしたら。
出来るだけのことは、してやるべきじゃん?
元同期としてでも。
単なる知り合いでも。
ユーレイ体質のヨシミとして。
彼女、何か書きかけて。
ううん、って感じで首を横に振って。
俺の手の平、ぐちゃぐちゃって手で撫でる。
あ。
今のは取り消しってことね。
ぜーんぜん。
だいじょーぶ。
のーぷろぶれむ。
俺、いーかげんを絵に描いたような乙女座Bだけど。
口うるさいおふくろと、頭の悪い妹のせいで。
忍耐力だけは、人並みにあるから。
「お・ね・が・い・が・あ・る・ん・だ・け・ど」
ほら。
来たよ?
来ましたよ?
そう来るの、鉄板だと思ってたんだよね。
じゃないとさ。
俺になんかわざわざ声かけねーっての。
身長165の、天パの、一重の、キョドーフシンの。
でもって、年中ネルシャツ着て、デイパック背負ってるよーな。
どう控えめに見てもアキバちゃんなんだから。
電車男は、元々格好いい奴っぽいけど。
俺はどう考えてもダメよ。
けどね。
もしこれが成功したら。
俺、どういう名前でデビューしようかな?
やっぱ、地下鉄男?
いや。
ありえねーし。
…どー考えてもパクリだべ。
@ @ @
「お願いって、何だろう?」
アホみたいな妄想を打ち切って、そう訊いてみると。
まゆちゃんはちらっと顔上げて、また手の平に書き出した。
今度は、迷いなく。
さくさくっと書いていく。
「も・う・い・ち・ど」
うんうん。
もう一度ね。
「か・ば・ん・の・な・か」
うんうん。
カバンね、カバン…
…へっ?
カバンって。
あのカバン?
あの、何かごそごそ言ってた奴?
サランラップでぐるぐる巻きにした?
びっくり目の俺に構うことなく。
まゆちゃんは書く。
黙々と。
淡々と。
あっさりと。
日和見な俺がすっかり忘れてたことを。
一番恐れてたことを。
「あ・の・な・か・を・み、……て……?」
…はい〜っ?
兄貴に見て貰ったものの、まだ気持ち悪くて。
あのまんま封印してるってのに。
あれ、…見ろってか?
おいおい!
マジっすか、まゆちゃん?
あれもっかい見ろって?
いや、その。
確かにね。
のーぷろぶれむとは言ったけどさ。
まさかそう来るとは…
固まってる俺見て。
彼女、にっこり微笑んじゃう。
だから。
俺、もう断れないさ。
アキバちゃんでも、ヘタレでも。
男だもん。
いちおー。
ついてるもんついてんだもん。
いや、まあ。
大したもんじゃないけどね。
だから。
今更、引き下がれないさ。
…でもさ。
ちょっとだけトホホな気分。
一難去ってまた一難って感じ。
ねえ。
ひょっとして。
これって、新種のイジメか〜?