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で。
どーしましょう、これから。
何話しましょう。
こんな時に限って、話題ゼロ。
天気とか、スポーツとか。
日ハム好き? なんて言ってもしょーがないし。
えーと。
とりあえず。
…触ってもいい?
なーんて考えた。
だってね。
彼女が先に触ってきたんだもん。
俺、後発だもん。
じゃなくて。
誰だってそう思うんじゃね?
可愛いユーレイさんならさ。
でもって。
そんな俺のアホなお願いを、まゆちゃんは聞いてくれた。
こくんって頷きながら。
ああ。
ダメ。
それほんとダメ。
反則。
俺、メンエキないんだから。
初心者マークなんだから。
死ぬよ。
萌え死ぬ。
マジで萌え死ぬ。
…で。
俺、恐る恐る右手伸ばして。
まゆちゃんの肩に触ってみる。
ん?
左手はどーしたって?
彼女に握られてますよ。
しっかり、ばっちり。
判る?このシチュエーション?
19年生きてきて、初めての体験。
相手、ユーレイだけど。
そんなのこの際関係ねーし。
でね。
見えるの。
見えてるのフツーに。
でもね。
やっぱりちゃんと触れない。
ふわっとして、ほのかにあったかい。
いるのは判るけど。
何だかヘンな感覚。
でもって。
恐る恐る手、下に下げてみる。
同じ。
何にもない。
見えるのに。
…で。
もうちょっと下げてみる。
はたかれた。
う。
ごめん。
調子に乗り過ぎました、俺…
@ @ @
もう、いやん。
何でこんな無礼なの?
何でこんな馬鹿ばっかやってんの、俺?
逸脱にもほどがあるぜ、ったく。
そんなんで。
必死こいてぺこぺこ謝ったあと。
何とか気を取り直して、まゆちゃんに質問してみる。
「…何でまた俺だったの?」
まゆちゃん、もごもごと答えてくれるけど。
残念ながら、声は聞こえない。
なもんだから。
俺、耳を指差して。
それから、顔の前で手をダメダメって振って見せる。
そしたら。
まゆちゃんは気付いたみたいで、肩を竦めちゃう。
いや。
これがほんと可愛いんだわ。
マジで。
でも、ここでまた俺が萌えてると話進まないんで。
とりあえず先行くわ。うん。
上手くコミュニケーションが取れないまま。
地下鉄は南郷18丁目に着いちゃった。
この時間に乗り降りする客なんてまずいないから。
ドアが閉まってから、また話を始める。
とは言ってもね。
通じないんだわ。ぜーんぜん。
参ったなぁ。
手話でも習っておけばよかった。
すると。
まゆちゃん、いきなり俺の手を取って。
おっきくひらがな書き始める。
あ、なるほど。
そういう手があったか。
「み・え・て・る・ひ・と・が」
で、一度切って。
まゆちゃん、俺のこと指差してくる。
ん?
あ、見えてる人が、俺だけだったってことね?
そう思ったら。
彼女また、こくんって頷いてくれる。
そっか。
そーゆーこと。
たまたま俺だけが、まゆちゃんのこと見える体質だったから。
こうしてアプローチしてくれてるって訳かぁ。
あ、いかん。
何でか凹んでる、俺。
いかんね。
やっぱ、密かに自惚れてたりして?
俺に気があるのかも、なんて?
うーん。
ちょっとこれヤバくね?
何気にフラグ、立ったんじゃね?
…サイアクの展開、っぽい。かも。