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その事実に気付いた俺。
速攻、ケータイ取り出して。
アホ富樫に電話する。
端っこの座席のオバハンが何気にイヤ〜な顔して見てるけど。
公共のマナーも空気読め的視線も判ってるけど。
ぶっちゃけ俺、今、それどこじゃねーのよ。
ちょっと大変なことになってんのよ。
「ふぁーい。どうした?」
気の抜けたアホ声で富樫が言う。
俺はちょいイラっとした。
「いやさ、お前、ほら、アレ覚えてる?」
「あ〜?」
「だからアレさ、アレ!」
「意味判んね。ちゃんと日本語喋れ」
「あー、だからほら、あの、オカルト研に入部希望者来たことあんじゃん?」
「は? んなことあったっけ?」
「あったって! で、覚えてねー?」
「何を?」
「それが、女の子だって。騒ぎになったじゃね?」
しばしの沈黙。
その間に、東札幌着。
オバハンなおも怪訝な目を向けて下車。
お陰でこの車両は俺のもんになった。
んで。
正々堂々と喚くことにした。
「あー、はいはい! あったね〜、そんなことも!」
「遠い目してる場合じゃねー。名前覚えてね?」
「覚えてる訳ねーだろ?」
「はっ? テメー本気でそういうこと言う?」
「だってあれいつの話よ?去年の暮れじゃね?」
「かもしんねーけど。覚えてね? 名前とか、学年とか」
「学年は同じだったと思ったな、確か」
「で、名前は?」
「知らん」
「マジで?」
「マジで知らん」
「いや、覚えてる筈だって!」
「知らんもんは知らん」
いや。
もうダメ。
マジ使えねー、こいつ。
「てかさ。何で今更そんなこと言ってんの?」
「ちょっと今ぴんと来たんだよ。それで…」
「俺に電話するより、部室行って名簿見た方が早いんじゃね?」
「いや、だから。今すぐ知りたいん……」
言ってる傍に。
あいつ、ばっつり切りやがる。
だから。
切れたケータイ見詰めながら、俺ボーゼン。
うわー。
何やってんだよ、こいつ。
人が困ってんのに、そういう態度取るか普通?
最悪だな。
全く。
死ねばいーのに。
@ @ @
はぁ。
俺、不機嫌。
マジ不機嫌。
富樫はアホだし、まゆちゃんには会えないし。
このまま新札幌まで行っちまおうかと思うぐらい不機嫌。
じゃあさ。
あれは一体何だった訳?
俺のカバンに入ってた奴。
それと。
地下鉄乗るたんびに見えるあれ。
何あれ?
俺、そんなもんに振り回されてた訳?
何かすっかり馬鹿馬鹿しくなって。
両足、前に投げ出したくらいにして。
俺、完全に怒っちゃった。
怒ったってか、何かもうどうでも良くなった。
はぁ。
何やってんの、俺?
どうしちゃったの?
マジでおかしくなったんじゃね?
考えてみればさ。
考えるまでもないんだけどさ。
どんだけ可愛いったって、ユーレイはユーレイじゃん。
いや。
もし仮に、まゆちゃんがそうだとしたらって話。
てか。
俺のユーレイ歴からいくと、確実そうなんだけど。
だとしたらさ。
デートにも誘えないじゃん?
告白どころか、キスもなし。
しかも彼女、どういう訳か地下鉄からは出らんないみたいだし。
そしたらさ。
好きになっても意味なくね?
てか。
そんなのを好きになった俺が、ちょっとどうかしてんじゃん?
もういい。
やめよ。
アパート帰って速攻寝よう。
疲れてんの、俺。
あんなもんお持ち帰りしてからずっと。
だから。
あれ、もう捨てちまおう。
気に入ってたカバンだけど。
ユーズドの分際で、8000円もしたカバンだけど。
ユーレイごと捨てちまおう。
呪われそうだし。
気味悪いし。
鮮度も落ちただろーし。
いい加減、賞味期限も過ぎただろーし…