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元彼

 街中で、懐かしい人と出会った。


「久しぶりだな、千花」

「久しぶりだね」

 喫茶店で一人でお茶をしているときに、中性的な美少年に声をかけられた。中学の同級生だった山内くん。中学三年のときに親の仕事の都合で沖縄に引っ越していったから、そうそう会うことはないだろうなと思っていた。

「沖縄にいるんじゃないの?」

「うん。こっちには旅行で来てるんだ。親父の実家がこっちだから。お盆が終わったら帰る」

「そうなんだ」

「それで、さ……」

 山内くんは私の向かいに座り、深刻な顔をする。

「ごめん。浮気した」

「………そう」

 閑静な住宅街の中にあるためか、喫茶店の中は静かだ。数組いる客の意識がこちらに向いたのがわかる。

「言い訳はしない。遠距離で会えなくて寂しいなんてのは理由にならない。

 別れてくれ」

「そう」

「……怒らないのか? 裏切ったのに」

「別に。好きにしなよ。新しい彼女とお幸せにね」

 カップを啜ると、山内くんは「悪いな……」と呟いた。

「そういう冷静なところが好きだったんだ……」

 山内くんは空いていた私の左手に手を伸ばす。それをさっと避けて、近くにあったフォークを握りしめて山内くんの手を刺した。周りがぎょっとした顔でこちらを見ている。

「痛っ……!」

「……もう無関係でしょ。さっさと出てって。私、本読みながらお茶するためにここにきたんだけど」

「わ、わかった。ごめんな……」

 山内くんはそそくさと会計を済ませて店を出ていった。読書を再開したいが、別の席からこちらに寄ってくる大きな影がそれを許さないのは分かっている。

「彼氏いたの!?」

「静かにしてね」

 今度は同じクラスの不動くんだ。私に片思いをしている子でもある。さんざん振っているけど諦める様子はない。

「ええー……。俺てっきり彼氏いねえのかと思って、好き好き好き好き付き合ってって言ってたんだが……。彼氏持ちには手出さない主義だから」

「へえ、じゃあ彼氏作っておけば良かったかな」

「どういう意味だよ……。つか作るも何もいたんだろ。今別れたっぽいけど」

「彼氏なんていなかったよ」

「へ?」

「彼氏なんて作ったことないよ」

「……じゃあさっきの男は?」

「中学の同級生。なんか私のことが好きだったみたい。それはいいけど、みんなに私と付き合ってるとか嘘いいふらしたり、証拠だってコラージュ画像作ってみんなに見せたりするから困ってたの。

 で、そんなことしてるうちに“本当に私と付き合ってる“って思い込んだみたい。本当に彼氏みたいに振る舞ってくるし、山内くんの友達も付き合ってるって信じちゃって“なんでそんなに冷たくするんだ“、“デートくらいしてやれ“とか説教してくるから大変だったよ」

「なんだその変態レベル高え男……」

「友達巻き込んで強引にキスとかセックスとか求めてくるから本当に大変だったんだからね。そのせいで一時期不登校だったし」

「…………へー…………」

「追いかけて殴ろうとか思わないでよ」

「………………だめ?」

「せっかく向こうから関係切ってくれたのに、これ以上関わりたくないんだけど」

「ああ、うん、そりゃそうだな」

 触らぬ神に祟り無しだな、と言って当たりまでのように私の向かいの席に座った。元からそのつもりだったのか、自分の伝票や注文してたらしいコーヒーもしっかり持っている。

「ところで不動くん」

「ん?」

「なんでここにいるの。偶然じゃないでしょ」

「そりゃいつも通りお前のこと尾行してたからだぞ? いつもやってるだろ」

 ストーカー癖のある不動くんは何の悪気もない笑顔を見せる。本当に顔だけはいい男だ。

 なんで変な男の子にしか好かれないんだろう。そう考えると頭が痛くなってきた。

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