表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/548

そこにいる人の精神

 事故物件に引っ越した。痴情のもつれが原因の殺人事件現場という、とびきりの部屋だ。


「よくそんなところ住めるな」

「いやー、金なくてほんと」

 趣味にとにかく金を注ぎ込みたいという意思のもと、最大の固定費である家賃を削ることにした。その結果が事故物件への引っ越しであるから、友人は酷く呆れた顔をしている。無理はない。

「まあでも、幽霊なんて出てないし! 犯人も逮捕直前に別の場所で自殺してるし」

「しかしその事件、三年前だっけ? じゃあ住人とかも事故物件でも気にしねえってやつばっかりなんだろうな。もしくはお前みたいに極端に金がないか」

「まあそうだろうな」

「ああやだやだ……。事故物件でも気にしない連中の集まりなんて」

「いや、挨拶とかしても普通に返してくれるぞ。別にご近所トラブルもないし」

 そんな会話のあと、友人との食事を終えて5階建てのマンションに戻る。友人はああ言ってたが、外観は少しボロいが中はリフォーム済みできれいだし、使い勝手は良い。駅にも近いし事件さえなければかなりいい部屋だと思う。それが三万で住めるのだから美味しい話だ。

 部屋の中でくつろいでいると、異音が耳に飛び込んだ。


 どんっ


 なにか重いものがトタン屋根に落ちた音。小さい頃、雪国にある実家のアパートの屋根の雪が、敷地内の自転車置き場を覆うトタン屋根に落下したときにこんな音がしていたのを思い出した。

「……?」

 反射的に携帯を持って外に出る。あくまで“似たような音“なだけで、本当に何か重い物、例えば植木鉢とかがトタン屋根に落ちたとは限らない。もし自動車事故などならば、警察や救急車を呼ばなくては。

「…………っ!」

 植木鉢であったらどんなに良かっただろうか。4階の廊下から見えたのは、自転車置き場のトタン屋根の上に広がる赤と、ひしゃげた人体“だったもの“だ。

「きゃー!」

 下を歩いていた通行人が絶叫する。それで俺は我に返って、携帯で救急車と警察を呼んだ。

(飛び降り? えらいもん見ちまった)

 ふと気がつくと廊下には近隣の部屋の住人が出てきて外を眺めていた。それはいい。だが一様にニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていて、中には携帯のカメラで撮影している者もいた。

 ────ああやだやだ……。事故物件でも気にしない連中の集まりなんて。

 薄ら寒い気持ちの中、友人のこの言葉の意味を、今になってようやく理解した気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ