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ここにいる

 ともかく安い家を紹介してくれ、と友人に頼んだ。


*****


 〇月×日 

 今日からここに住むことにした


 〇月△日

 子供たちがうるさいが仕方ない

 大人しく過ごすことにする


 〇月●日

 下の家族は凡庸な人間だ

 なのになんであんなに幸せそうなのか


 〇月◇日

 自分は××大学を出て、優秀な人間なのになぜこんな暮らしをするはめになっているのか

 昔のことは考えてはいけない

 どうせもうどうしようもない


 〇月■日

 下の家族の声が聞こえるたびに苛立ちで腹が煮えたぎる

 下品な笑い方だとか、物音がうるさいとか、いちいちそんな風に思う自分にも腹が立つ

 それはただ自分は悪くないと正当化しようとしているだけだ

 下の家族が悪いのではなく、これは、ただの嫉妬だ


 ?月!日

 今日も些細なことで心が煮えたぎる

 限界だ

 なので下の家族を「ずるい」と思ったらここに「ずるい」と書くことにした 

 少しでも吐き出すのだ  この荒ぶる心はここに すべて 耐えられなくならないように


 ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい(以下省略)


(判別不能)月(判別不能)日

 じぶんは(以下判別不能)


*****


「さてこのようなものが天井裏の壁や床にびっしりと書かれていたこの中古物件、お値段は────」

「勘弁してくれ……」

 その天井裏とやらの写真を伏せる。見ていて気持ちのいいものではない。

「お前が“立地が良くて値段がめちゃくちゃ安い物件がいい。友人のよしみで教えろ教えろ教えろ教えろ“って喚くからだぞ。このエリアでお前が呈示した金額で買える家なんざこれだけだ」

「ごめんって……」

 不動産屋の友人に無茶を言ってはいけない。学習した。

「で、やめるのか? 立地と金額だけはたしかにいいぞこの中古物件は。ちなみに前に住んでいた家族の末路は」

「だー! やめろ!」 

 末路なんて単語が不安感を煽る。こんなのを書き残す不審者が天井裏に潜んでたとかバッドエンドの気配しかしない。

「はあ……新築にしようかな……」

「いいと思うぞ」

 ニヤリとした友人の顔を見て、また俺はため息をついた。


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