女のパンツが落ちている
道に、女のパンツが落ちていた。
「ちょ、パンツ! パンツ!」
「パンツだ!」
友達といっしょに学校から帰っていたら、道端に女のパンツが落ちていた。それは今俺たちが歩いている明るい道と、狭くて薄暗い路地との境目に落ちていた。
「ブラジャーもあるぞ!」
友達の一人が指をさす。たしかに、パンツよりも路地よりの位置に、派手なブラジャーが落ちていた。更に奥には女物っぽい薄手の服も落ちている。
「でけえ! おっぱいでけえ!」
高々と掲げられるブラジャー。たしかに大きいものだ。
「これアレじゃね? 奥で“セックス“してるんじゃねえ?」
「え、外で!?」
「変態だ変態!」
セックスセックスと、覚えたばかりの言葉を連呼する。見てみようぜ! と意気込んで裏路地に入り込もうとしたとき、声をかけられた。
「君たち、何をしているの?」
近くの高校の制服をきた、美人の高校生のお姉さんだ。
「なんでそんなもの持ってるの?」
「あっ」
お姉さんは、友達が持っていたブラジャーと、他の友達が拾っていたパンツを指さす。
「えっ、いや、これは、落ちてたんです!」
「そ、そうです! 交番に行こうとして!」
「ふうん……」
このお姉さん、顔はかわいいけれどずっと無表情だ。何を考えてるかわからない。
「さ、さよなら!」
ブラジャーもパンツも投げ出して、俺たち全員は逃げ出した。年上のお姉さんに見られながら、セックスの現場に行くなんて、恥ずかしくてとうていできるわけがなかった。
*****
子供たちは、一目散に逃げていった。
「わりーわりー、レジ混んでてさあ」
「いいよ。別に」
ほぼ同時に、クラスメイトの不動くんがコンビニから出てくる。「ねえ」と私は不動くんの袖を引く。
「あそこに暗いとこあるでしょ」
薄暗い路地。さっき子供が下着を拾っていた場所。更に奥はキャミソールやスカートも落ちている。まるで、誘い込んでいるかのように。
「あそこ、誰かいる?」
不動くんは、首を傾げた。
「……誰もいねえけど」
「そう」
じゃあ、“あの人“は私にしか見えないんだろう。
誘い込むように点々と落ちている衣服。その先に立っている。足首まで伸びている、長髪の全裸の女の人。
薄暗く、俯いていて顔は分からない。けれど、その手に握られているのが包丁だということは、はっきりと分かった。




