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花人間

 私には霊感がある。だから町の片隅に埋まっている、花人間さんともお話しが出来る。


「おはよう。花人間さん」

『あら、おはよう』

 花人間さんは、北町の空き地の地面に胸まで埋まっている女の人のお化けだ。いつもニコニコして埋まっている。

 頭には、そのまんまの意味でお花が咲いている。青と紫が混じったような、不思議な色合いのキレイなお花だ。

「花人間さんはどうして埋まっているの?」

『楽しいからよ』

 そんな花人間さんの頭は、一月のなかで大きく変化する。第一週目が一番きれいで、花が咲いた頭だ。第二週目になると血管がビキビキと浮かんできて目玉がデメキンのように飛び出す。第三週になると頭の色は真っ赤になって目玉もぽろっととれて、最後のほうには頭が破裂する。そのときに、綿毛がついた花の種がふわりと空に飛んでいって、街のいたるところに種が蒔かれるのだ。そして第四週目で頭が修復される。これを毎月毎月繰り返しているのだ。

「花人間さんはどうして花の種を飛ばすの?」

『楽しいからよ』

 花人間さんはニコニコしている。

 花人間さんが花の種を町中に飛ばすから、町中は花が乱れ咲いている。けれど私にしか視えていないようで、誰も話題にしていない。

 道にも、空き地にも、噴水にも、屋根にも、車にも、壁にも、いろんなところに咲いているのに。

「“フレンド3“買ったからさーいっしょにやろうぜ。俺ん家でさ」

「あの怖いやつ?」

「そういうのイケるだろ?」

「アクション苦手。2は犬のところで諦めたもん」

 そんな風にいつも通り不動くんといっしょに学校から帰っていると、急に近くを歩いているサラリーマン風の男の人がお腹を抱えて苦しみだした。道路に膝をついて、座り込んでしまっている。

「大丈夫っすか? 救急車呼びます?」

 不動くんがそう声をかけても男性は呻くだけで、そして、その男の人のお腹は急に破裂した。鮮血と内臓が、道路に飛び散り模様を描く。

「きゃあああああ!!!!!」

 通行人の女の人が絶叫する。周囲にいた人も遅れて叫んだり腰を抜かしたり様々だ。

「うはっ、何コレすげぇ」

 グロ耐性が異常に高い不動くんは内臓と血がもろに顔面にかかっても平気そうで、「面白いもん見た」みたいな顔をしつつも携帯で警察を呼んでいる。私も男の人のためというより、周囲で卒倒している人々のために救急車を呼んだ。

「パトカーかっけー」

「顔ちゃんと拭きなよ、もう」

 警察と救急が仕事をしている様子を、邪魔にならない場所でケラケラと愉快そうに見守っている。不動くんはざっと洗った自分の顔面の端にまだに血がついてることよりも、救急と警察が慌ただしく働いている様子を見るのに夢中だ。しょうがないから、濡らしたハンカチで拭いてあげた。

「いやー面白……ヤベえもん見たー。なんもねえのに腹って破裂すんのかね。体内のガス? それとも爆弾でも飲んでたんかね。テロ? いやでも一人しか死んでねえわ意味ねえな」

 この言い方なら、不動くんにはそう見えているんだろう。

「…………」

 私には、男性の腹を突き破って、青と紫が混じったような────花人間さんの花が、咲いたようにしか見えなかった。

「ん?」

 ふわり、と何かが宙に舞っている。花人間さんの種だ。綿毛とともにふわりふわりと不規則に動くそれは、不動くんの、口の中に。

「うべっ」

 突然口の中に私が手を突っ込んできたので、不動くんは変な声を上げた。

「え、何!?」

「なんでもないよ」

「今ので何でもないとかある!?」

 私は取り出した種を歩道の隅に置いて、近くにあった大きめの石で隠した。

 それを、花人間さんがニコニコとしながら眺めていた。そうだ、ここは花人間さんが生えている場所のすぐ近くだった。

『楽しいからよ』

 何も聞いてないのに、花人間さんはそう答えた。

  

*****


「ニャア」

「アンコ、おかえりなさい」

 飼い猫のアンコが帰ってきた。アンコは私と同じで、お化けが視える猫なのだ。

「ニャア、ニャア」

「分かってるよ。今あげるね。お口直しにお水でも飲んで」

 水を入れた皿を差し出しつつ、アンコのために高級猫缶を開けてあげる。ご褒美だ。

 水の皿を差し出したことで意図を察したのか、口の中に残るものをペッと地面に吐き捨てた。

 それは、花と種と血と肉片が混じり合ったようなものだ。


 それ以来、花人間さんのことは、視ていない。

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