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満員電車

 大丈夫大丈夫。堂々としていれば、逆に誰も怪しまない。


*****


「妖精さんのイタズラ?」

「うん。そう。ごめんね」

 ちょっと前にあった件について、私はクラスメイトの不動くんに頭を下げる。

 いわゆる“霊感少女“な私はお化けや妖精さんと交流があるが、そのせいで不動くんに迷惑をかけてしまったのだ。

「なんかよくわかんねえけど、まあ三島は悪くねえよ、うん」

 不動くんはニコニコしている。というか浮かれている。不動くんは私に恋をしているという変わった人だから、休日に私に誘われたことが嬉しいようだ。

「そろそろ電車の時間じゃねえ?」

「そうだね」

 駅前の喫茶店から出る。今日は不動くんの要望でいっしょに映画を見に行くことになったのだ。普段ならテキトーにはぐらかしたり断ったりしているけど、迷惑をかけてしまったという手前、今回は受けたのだ。

「うわ」

「人、多いね」

 この時間は普段そこまで人がいないのだが、今日はやけに人が多い。

「そういや、同じ映画館ですげー人気があるミュージカルのライブビューイングやるって姉貴が言ってたな。それかも」

 たしかに周りにいるのはほとんど女の人だ。

「どうする? 時間ずらすか?」

「同じ映画館なら遅くしてもあんま変わらないんじゃないかな。早く行っちゃおう。そのほうがお昼ご飯余裕もって食べれるし」

 人が多い電車に乗りこむ。満員電車ってこんな感じなのかなってぐらいの詰め込みぶりだ。変な体勢になってしまうのに、場所が悪い上に背が低いのもあって、つり革が手の届く範囲にない。

「俺によりかかってもいいぞ」

 不動くんが私を抱き寄せる。趣味で鍛えているという体は、たしかにたくましい。

(……ん?)

 お尻に、違和感。誰かの手が、触れているような。

 不動くんは片手はつり革、もう片方の手は私の背中を抱えて右腕を掴んでいるので無罪だ。つまり触れているのは第三者。

(……痴漢?)

 いや、この満員電車だから、偶然かもしれない。

「ひゃっ」

「大丈夫か?」

「大丈夫。揺れたからびっくりしただけ」

 ……思い切り、揉まれた。これは冤罪ではないだろう。

 女として、勇気を持って声をあげなければならない。幸い同行している不動くんは荒事には強い子だ。逆ギレされてもなんとかなるだろう。

「……この人、痴漢ですっ!!!」

 私はお尻を揉んでいる手の手首を掴んで、力強く掲げた。

 手首だけだった。


******


 ニュースは今日も**県で捕まったバラバラ殺人事件の詳細を伝えている。捕まった男は金銭トラブルで知人を殺して、処分のために解体し、遠方に運んで少しずつ処理していたという。

 その日も鞄に解体した手首や腕を詰め込んで、堂々と電車に乗っていた。ファスナーはきっちり締めて、念のため小さい南京錠までかけて鞄が開かないようにしていたのに、満員電車の中でいつの間にか錠が解け、手首が露出し、しかもその手首が同乗していた女子高生────つまり私のお尻に触れて、痴漢として衆目に晒されるという珍事が起こった。

「出掛ける前に鍵がかかってるか何度も確認してるんだ。小さいけど衝撃で外れるような、そんなちゃちい鍵じゃないぞ! 

 なんなんだよこれ意味分かんねえよ!」

 犯人はそう供述していると、スマートフォンのニュースサイトは伝えている。

「……それはこっちのセリフなんだけど」

 スマートフォンに向かって呟く。

 映画、気になっていた作品だからけっこう楽しみだったのに。

 かわいいし美味しいって評判の、映画館の隣のカフェのランチとミニパンケーキ、楽しみだったのに。警察の事情聴取で全てパーだ。

 休み明け、教室の席に座って膨れている私に、不動くんが近寄ってきた。

「まーまー、じゃあやり直す? デート」

「行く」

「うはっ」

 珍しく即答した。いつもならデートの単語にツッコミを入れているが、今はそんな余裕はない。

 映画とカフェだけじゃない。カラオケやボウリングとか、なんかそんなのにも行く。絶対絶対楽しんでやるんだから、と殺人事件に無為にされた休日の弔い合戦として、私は胸に誓ったのだ。

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