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開けてはならない

 怖い話を聞いた。


 なんでも、同級生の家の近くの古びた神社には、開けてはいけないと言われている箱があるという。同級生は昔そこの神主だった老爺に聞いたそうだ。その神主も亡くなり、今はもうその神社は放置されている。

「見たら怖いおばけが来るからな」

「怖いって、どんなの?」

「暗いところに子供を連れて行くんだ。そしたらもうその子供は帰ってこない」

 老爺は、そう言っていたという。

「子供騙しだろ」

 小学生相手だからってテンプレート過ぎてつまらない怪談である。しらけていると、友達グループの一人が「いや、面白いかもしれない!」と立ち上がった。

「どこが」

「もしかしたら、その箱はブラフかもしれないだろ」

 つまり、本当は他に何か貴重品があって、それに近づけさせないために怪談を広めたのではないかということだ。

「なあ〜、忍び込もうぜ〜」

「ええ〜」

「いいじゃん」

 結局暇だったので夜に神社に集合となった。件の箱は裏の物置きにあるという。

「そういやさー」

「ん?」

「この神社、他にもお化けの話があるぜ」

「えー?」

「昔さあ、前の道路で子供が事故で死んで、それ以来仲間を欲しがって殺そうとするんだって」

「こわ〜」

「この前もさあ、なんか近所の誰だかが追いかけられたって」

「不審者じゃねえの」

 話していると、仲間の一人がつんのめった。

「なにやって」

 最後まで言う前に言葉は止まった。転んだ仲間の一人の足を、古い着物を着た子供が掴んでいる。子供の眼窩は闇より暗く、肌は紙のように白く、頭からはだらだらと血が流れている。

 手には、拳大の石。着物の子供は、その石を容赦なく転んだ仲間の頭に打ち付けた。

「うわああああ!!!!」

 全員が叫びながら散り散りになる。最短距離で神社から抜け出そうとするが、ループしているかのように走っても走ってもいつの間にか境内にいる。子供のおばけは楽しそうに一人一人に飛びかかり、石を振るう。

「ちょ、近づくな! やめろ!」

 そして走っているうちに追い詰められた、子供のおばけは血のついた石を振り上げる。

「おい! こっち見ろ!」

 子供のおばけの後方から、仲間のうちの一人の声がする。反射的に、子供のおばけも自分もそちらを見る。

「ほらっ!」

 仲間の一人が、何か箱のようなものを投げた。自然と箱の蓋が外れ、重箱を一段にしたような立派な漆塗りの中身が露わになる。

 箱の中には、なにもない。

 いや、この間に逃げないと、走ろうとして止まった。自分も、仲間も、お化けも、動けなかった。


 す、と。


 空から、風に乗った綿毛が地面に降りるかのように、黒い礼服を着た誰かがゆっくりと降りてきた。しっかりとした作りの高そうな服に、艶がある杖、そして顔だけは霧をまとっているかのようにはっきりしない。ソレは地面に降り立ったあとに帽子をとって一礼すると、一番近くにいたお化けの手を掴んだ。お化けは困惑した顔をして抵抗するが、ソレは構わず手を引いてどこかに行こうとしている。


 "開けてはいけない箱"

 "子供を連れてくお化け"

 "「暗いところに子供を連れて行くんだ。そしたらもうその子供は帰ってこない」"


 全力で逃げて、あとのことはわからない。頭を怪我した友達は無事であり、みんなこっ酷く親から叱られた。

 あの箱のことが気になるが行く気にはなれず、そのまま長い年月が経った。自分ももうすっかり大学生だ。久しぶりに実家に戻ると、いとこが子連れでやってきていた。

「こわいはなしおしえて」

「は?」

 幼稚園生くらいのいとこの子の突然の要求に、素で声が出た。

「こーら、この子ったら怖い話にハマってるの。それで会う人会う人におねだりしちゃって」

「こわいはなしー」

「えー……じゃあ先にどんな怖いお話知ってるのか教えてよ」

 そう言うといとこの子は堰を切ったように話し始めた。どれもこれも大学生からしたら子供だましの話ばかりだが、親であるいとこもいるしふんふんと聞いてやる。

「あとね、ちかくのじんじゃのね、はこ」

「………………」

「あけたらね、つれていかれちゃうんだって」

 いとこの家は、あの神社の近くだ。

「…………そこの神社さあ」

「?」

「他にもおばけっている? 子供の……」

「しらない……」

「……そう」

「おばけ、いるの!?」

「いないよ」

「ほら、もう怖いお話やめなさい」

 いとこがおやつを差し出すと、すぐにいとこの子は夢中になった。

「何、あの神社、怪談とかあるの?」

 いとこのが問うてきた。

「いないよ」

 そう、短く答える。

「いない、いない……」

 そう呟いて、なにもない虚空を見た。

 

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