バズった
「バズった」
そう言って、三島がスマホの画面を突きつけてきた。画面に映っているのは三島がSNSに投稿している絵で、いいねもリツイートも万を超えている。一体何人に投稿を閲覧されたんだろうか。
「おー、すげぇじゃん」
「私の投稿じゃないのがちょっとあれだけど」
たしかに正確にはバズっているのは三島のイラストをスクショして「なんだこの絵師クセになる」といった内容をしているフォロワーが数万いるアカウントだ。とはいえ、別に作者を騙っているわけではなく、続きにちゃんと三島のアカウントへの案内をつけているから三島が怒っている様子はない。ちゃんと三島のフォロワーも増えている。
「はぁ……これがきっかけでイラストレーターとして食えたりしないかなあ」
「はっはっは、三島よ、考えが甘い」
「むぅ……」
「まあでも注目されて良かったじゃん?」
「そうだね」
今も通知は増え続けて、どんどんフォロワー数は増え続けている。
「これからもちゃんと描き続けて、今回ので増えた人を離さないようにする」
「よーしよしよし、偉いぞ〜」
頭を撫でたいくらいだ。髪型が崩れるからやらないが。
「しかし、そんなに絵ぇ描くの好きなの?」
普段、三島から絵の話が出てくることはない。漫画やアニメの話がや美術の話もとんと出てこない。
「まあ……嫌いじゃないよ。ネタなんてその辺にあるし……」
三島は窓の外を見る。俺にはただの庭しか見えないが、三島には何かいるように見えるのだろう。なんせ三島の絵は全て、三島が見ている風景をそのまんま描いているだけなのだから。
日常と怪異が融合した、そんな世界。
「学校だってうまくやれなかったんだから就職だってうまくやれると思わないし……出来ればそれまでに、自分一人で稼げる技術がほしいだけ」
「ふーん。いいじゃん? やろうか? 広報部長。宣伝は大事だぞ〜」
「何それ……私のより自分の就職のほう心配しなよ」
「まあまだ考えなくてもいいだろ多分」
「お気楽」
*****
三島には悪いところがある。
元から人と関わり合いを持たないタチなせいか、宣伝・世渡りの類が下手なのだ。
「うーん、上出来」
このためだけ、本当に三島を世に知らしめるためだけに、三島に内緒で時間をかけて育てた数万フォロワーのアカウントを眺める。もくろみは成功して、三島は今注目されている。これをものにできるかは三島次第だ。
「金がねぇと楽しめねえしな」
俺はもちろん働いて稼ぐが三島にも稼いでもらわねば困る。でも多分三島の考えている通り、多分うまくいかないのだ。三島の性格とか仕事の能力とか、それ以前に多分人間関係で躓く。
だから、三島にはなんとしても本人の願い通りに部屋で一人絵を描いて、それで暮らせるようになってもらおう。そのために、支援は惜しまない。
「広報部長♡ がんばろ♡」
自室で一人呟く。墓まで持っていく秘密が、また一つ増えた。
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