小さい人間
うちのじいちゃんはボケている。
「家の中に変なのがいる」
「変なの」
「ちっさい人間がいる」
「…………」
認知症になっている祖父がそんなことを言い出した。ボケているのにまともだった頃の日課が幸いして、日々畑仕事とペットの世話に勤しむというボケ老人にしてはまともなボケかたをしているが、それでもやはり時折奇矯な言動はあった。
とはいえ、それでも小さい人間がいるなんて言い出したのは初めてだ。幻覚でも見え始めたか?
「……ミケの友達じゃねえの」
「はー……ちっさい人間の友達ができたか」
「なぁん?」
祖父は足元にいた飼い猫の頭を撫でる。飼い猫のミケは不思議そうな顔をしているが、大人しく撫でられている。やれやれと自室に戻ろうとしたとき、ふと思った。
(いや待て……ネズミとかの見間違いだったらアレだな)
祖父にどこで見たか尋ねると、裏庭の物置の中だという。農具を収めているそこはたしかに祖父はよく出入りしている。というか、祖父くらいしか出入りしない。
しょうがないな、と一応物置へと赴いた。ネズミ用の捕獲罠を片手にプレハブの物置の扉を開ける。土の汚れが少しついていたが、中は思ったよりきれいだった。生き物の気配はないが、一応立てかけられた農具をどけて隅っこを確認する。
「ん?」
昔、妹が幼かった頃によく遊んでいた、そこそこ大きい人形用の家があった。2階建ての家屋を縦に半分にしたような形で、内装や階段までしっかりと作られていて、人形を入れて遊ぶことができる。
当然成人になった妹はもうそれで遊ぶことはなく、そういうガラクタは家の中のクローゼットにしまわれているはずだが、なぜ外の物置にあるのだろう。
人形はない。皿、カップ、そういった小物がちゃんとテーブルの上に並べられている。
カップの中には珈琲のような色の液体が入っており、暖かな湯気が立っている。
「ちっこい人間…………………」
いるのか? と虚空に問いかけてみたが、当然答えは返ってこなかった。
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