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 通学路にある祠にはお化けがいるらしい。


 木製の古そうな祠。扉はいつも閉まっていて南京錠もかけられており、雨や泥で汚れても数日経てばいつの間にかきれいになっているから誰かがちゃんと管理をしているのだろう。

「あの祠の扉を開けたらダメだぞ。お化けが出てくるからな」

 父さんと兄さんはそう言っていた。そんな子供っぽい言われ方しなくなって、人のものなんて勝手に開けたりしない。そう思いながら、黒いランドセルを背負って、学校に行くためにその祠の前を通る。

『おぅい』

 声がした。人の声なのに、頭の中に直接日響いているような変な声。振り返ると、祠の扉がガタガタと揺れていて、隙間から髪の毛のようなものがはみ出していた。

『出してくれよ。出してくれよ』

「…………っ!」

『今度は大丈夫だよ。もうちぎったりしないからさあ』

 怖くなって、一目散に駆け出した。それが小学生の時の話。

 トラウマになってそのあとはずっと遠回りをして通学していたが、中学になった頃にお化けを怖がっているなんて情けないと思って、あえてあそこに行くことにした。

『ねぇねぇ』

 また声がする。今度は女のような声がする。

『わたし、悪くないわ。だから出してちょうだい』

 どろり、と扉の隙間から泥が流れ出てくる。その泥から生えるように浮かび上がっていたのは、たくさんの動物の歯。

 また、逃げ出した。

 そして高校生になって、またあの祠に行ってみることにした。

『んーーーーーーーーー』

 また声がする。

『んーーーーーーーーーー!!!! んーーーーーーーーーー!!!!!!!』

 人の声か獣の声か、わからない声が聞こえてくる。今までで一番激しく祠の扉が揺れていた。

 また立ち去って、大学生になり、帰省の際にまたあの祠に立ち寄ってみる。

『ほほほ…………』

 また声がする。大人の女の声だ。

『誰かいるのかしら。こんなところに無理矢理閉じ込められて退屈していたの。お話してくださらない?』

 穏やかな口ぶり。だが、祠からは隠しきれない獣臭が漏れてきている。

 帰省して一週間後に、また祠に行ってみた。

 声は聞こえてこない。

『…………………………』

 何か中にいるような気はする。獣臭は相変わらずだ。また更に一週間すると、獣臭さは何かが腐っているような臭いに変わっていて、そしてまた更に一週間経つと、なんの臭いも声もしなくなっていた。

 そしてまた、一週間後。

『だぁれ?』

 子供のような声が聞こえてきた。


 あの祠の来歴も何も知らない。ただ分かるのは、あの祠に閉じ込められていたどんなお化けよりも、きっとあの祠のほうが怖いものなのだ。

 

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